第47話 お泊まりの理由
「えっと……もう1回言ってもらっていいか?」
聞こえてきたセリフに耳を疑った俺は、思わず
「……ふむ」
会長は考えるような仕草を見せてから、
「泊まるだけでは物足りないなら、一緒に寝てもかまわんぞ?」
「そういう意味で訊きなおしたんじゃないから!」
なんだその一歩間違えば本当に間違いが起こりそうな誘い文句は。
「む、
「そういうことじゃなくて」
こほん、と俺は
「急すぎだってことだよ」
別に来るなとも泊まるなとも言わない。だけど、
「俺の家の事情、会長だって知ってるだろ?」
たしか会長とふたりで生徒会室の掃除をしているときだったか。
あのとき俺は話した。両親が
「もちろん知っているとも」
会長は少し申し訳なさそうに、目を伏せる。
「急だということも、自認している。和真君にとって迷惑になるかもしれないことくらい、わかっているとも」
だが、と会長は続けて、
「君こそ、忘れたわけではあるまい?」
「忘れたってなにを」
「私の気持ちを、知らないわけじゃないだろう?」
「それは……」
思い出すのは、俺が正式に会計になった日に言われたこと。
『私は君のことが好きになった。君のことをもっと知りたい』
忘れるはずもない。あんなどストレートな告白。まあ、いつも自信満々な会長らしいといえばそうなんだけど。
だが、目の前にいる彼女は、どこか様子がいつもと違う。
「私だって、不安なのだ」
「不安?」
「私以外にも、君のことを好いている女性がいて……それでいて、彼女とは圧倒的に過ごした年月が違うのだ」
「……」
誰を、なんて野暮なことは訊かなくてもわかる。
「だから私は、少しでも君との距離を縮めたい」
今度は、まっすぐと俺の方を見る。真っ暗な夜みたいな瞳に見つめられて、俺は思わず気恥ずかしくなる。
「それに、私も言いたいことはあるぞ」
「どういうことだ?」
「告白の返事を、まだちゃんともらってないことについて、だ」
「う……」
さらに会長の方を向けなくなる。
別にほったらかしにしていたわけじゃない。人として、男として、返事をするのは当然のことだ。
だけど、どうしても自分の心の中が整理できない。
俺はこの人のことを、どう思っているんだろうか。
ただの生徒会の仲間なのか、それとも、それ以上なのか。
そして、それはみゆきに対する気持ちとはどう違うのか。
「まあ、無理に
「う……」
お見通し、ってわけか。
「というわけで、今日はお互いの親交を深めるためにも、一夜を共にしようではないか」
「だからいちいち誤解を生みそうな言い方はやめてくれ」
はあ、とため息が思わず出る。
因果応報、ってやつだな。会長が不安に思って押しかけてきたのも、俺がハッキリしないせいだ。
「わかったよ」
「ほんとか?」
「ただし、次からは前もって言ってくれよな」
掃除とかもちゃんとしておきたいし。
「ふむふむ」
「なんだよ」
「和真君は次も、と思ってくれているのだな。なるほどなるほど」
「いちいち揚げ足をとるな」
まったく、油断も隙もない。
額に手を当てて頭を悩ます俺をよそに、会長はるんるん気分だ。
「ではさっそく、私が持ってきたケーキを一緒に食べよう」
小さな箱から出てきたのは、イチゴのショートケーキ。
「なんていうか、すごいうまぞうだな」
まるで店で買ってきたみたいだ。
「ふふん、だろう? 私ならいい嫁になれると思うんだが」
「話が飛躍しすぎだ」
なにが嫁だ。
「ちょっと待っててくれ。コーヒーでも入れるから」
インスタントしかないが、まだ残っていたはず。そう思ってキッチンに向かう。
と、
ピンポーン。
まるで会長が来たときを再現したかのように、突如インターホンが鳴った。
「誰だ? こんな時間に」
「ふむ、夜に訪ねてくるとはなかなか挑戦的だな」
おい、それ天に向かって唾吐いてるぞ。
「どれ、私が出てこよう」
「え?」
会長がイスから腰を上げる。
「いいって、俺が出るから」
だがキッチンにいる俺とでは彼女の方が玄関に近い。俺が追いつくと同時に、会長が玄関の扉を開いた。
ガチャリ。
「え?」
「む?」
重なる声。
ドアを開いた向こう側にいたのは――
「カズ君に……会長さん?」
みゆきだった。
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