第46話 おや?こんな時間に誰だろう

 夕日が沈んで、夜。そろそろ晩飯の準備でもしようかというところで、インターホンが鳴った。


 誰だろう。


「まさか……みゆきか?」


 帰り道でなんとか機嫌を直してはもらったと思ったが、実はまだむくれてた、とか?


 そう思っておそるおそる玄関の扉を開ける。

 と、


「やあ和真君」

「か、会長?」


 玄関の外にいたのは、生徒会長こと国分寺こくぶんじ香穂かほだった。


 いつも見る制服姿とは違って、水色のワンピースに身を包んでいる。そして、いつもの凛とした声で、


「夜分遅くにすまないな」

「そ、それはいいけど、なんで会長がうちに?」


 というかそもそも、うちの場所をどうやって知ったんだ?


「実はな」


 言って、会長は手に持った小さな箱を差し出してくる。


「昨日ケーキを焼いたので、持ってきたのだよ」


 たしかに箱からは、甘い香りがほのかに漂ってくる。


「本当なら今日、君が生徒会室に来たときに渡そうと思っていたのだがな」

「う、それはその、悪かった」


 暗に、急に生徒会を休んだことを責められている気がした。たしかに球技大会委員の打ち合わせがあったとはいえ、申し訳ない。


「ふふ、冗談だよ」


 会長は余裕たっぷりの笑みを浮かべて、


「おかげで、和真かずま君の家に来る口実ができたからな」

「はあ……」

「和真君は、これから夕食か?」

「ああ。まだ作ってもないけど」

「ほう、ちなみにメニューはなにを?」

「うーん……今朝炊いたご飯が残ってから、チャーハンとかかなあ」


 あと、簡単なもので済ませたいっていう気持ちもある。


「ふむふむ、なるほどなるほど」

「なにが『なるほど』なんだよ」


 と、


「ぐうううう」


 瞬間、俺は言葉を失った。

 なぜか? だってそれが、俺のお腹でも、会長のお腹でもなく、


 会長の口から発せられたものだからだ。


「ぐうううう」


 またしても会長の口から。


「えーっと……」

「ぐうううう」

「その……晩飯、食べていきますか?」

「む、いいのか?」

「いや、いいもなにも」


 自分でぐうぐう言ってアピールしてたじゃないか。


「まあ和真君がそう言ってくれるなら、お言葉に甘えるとするかな」

「……」

「では、お邪魔するとするよ」

「……どうぞ」


 生徒会に入って結構経つけど、やっぱりこの人のペースはいまいちつかめない。



 結局、俺は2人分のチャーハンとスープを作った。まあ、ご飯も多めに余っていたし、ちょうどよかったと言えばよかったのだが。


「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」


 テーブルに向かいあって座る俺たちは、同時に手を合わせる。


「さて、ではデザートに私のケーキといこうではないか」

「それもそうだけど、そろそろ帰らなくて大丈夫なのか? 夜も遅いし」


 会長の家がどのあたりかは知らないけど、仮に近いとしても外は真っ暗だ。


「親御さんも心配するだろうし、送っていくから」


 が、


「なにを言ってるんだ?」


 不思議そうに、首をかしげる。

 そして、俺は会長の言葉で、またしても言葉を失うことになる。


「今日は和真君の家に泊まるつもりだぞ?」

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