第45話 機嫌を直すのは本当に骨が折れる
「それじゃあ、こんなところかな」
「そうだな」
「まずはウチのクラスのバレーボール部員に協力してもらって、練習会の開催だね」
やる気に満ちた様子で、那月さんが言う。
「バレー部は女子ばっかりだから、そのへんのお願いは私がするよ」
「悪いな。俺は土日に使えそうな市民体育館にあたりをつけてみるよ」
優勝に向けた作戦として決まったのは、ベタだけどバレー部のクラスメイトに他のやつらを指導してもらって、全体の実力を上げるというものだ。
球技大会ではどうしても、未経験者が穴として狙われてしまう。その弱点をなくすための作戦、というわけだ。
「今日はこのへんにして、帰ろっか」
那月さんがカバンを肩にかける。
「そういえば
「一応、
「そっか、
まあ会長あたりは
そんなことを考えながら、教室を出ようとして――
「おっと」
すんでのところで足を止める。
今日は生徒会の活動をしていないけど、『鍵』を守ることに関しては別問題だ。教室を出た途端、誰が待ち伏せしているとも限らない。
危ない、危ない。
「もしかして、『鍵』?」
察してくれた那月さんが、先に教室を出て廊下を見回す。
「大丈夫、外には誰もいないよ」
「助かる」
那月さんが『鍵』を狙う側の人間じゃなくてよかった。
俺は内心、胸をなでおろしながら、一緒に下駄箱まで向かった。
「それじゃあ、私こっちだから」
校門を出たところで、那月さんが俺が帰るのとは反対方向を指して言う。
「ああ」
「明日からよろしくね」
「こっちこそ」
彼女が賞品の提案をしてくれなかったら、俺は高校生の間でバイトができる可能性を見出すことすらできなかった。
「ふふ」
「どうしたんだ?」
「ううん」
那月さんはくすったそうに笑って、
「一緒に委員をやるのが和真くんでよかったなあって」
「なに言ってるんだよ。俺なんか運動神経ないし、戦力にならないし」
委員になったのだって、半分は成り行きみたいなもんだし。
「そんなことないよ」
だが、那月さんは断言する。
そしてひょい、と俺の方まで――顔をすぐ近くまで寄せてきて、
「私は和真くんのこと、頼りにしてるよ?」
「え……」
かわいらしいまんまる顔がじっと、俺を見つめる。むぎゅう、と幼い顔立ちには似合わない大きな胸が俺のお腹のあたりにあたる。
や、やわらかい……。
かと思えば、再びひょいと身体を動かして、俺と距離をとる。
「それじゃ、また明日ねー」
「お、おう」
ぶんぶんと手を振りながら、那月さんが去っていった。
「……」
徐々に姿が見えなくなる彼女に、俺はぎこちなく手を振ることしかできなかった。
びっくりした……。
心臓がまだバクバクしている。
あんな風に顔を近づけられたの、最近もあったなあ。
あのときは、そう。頬にキスされた。
「カ~ズ~く~ん~?」
そうそう、相手はこんな風に俺を呼ぶ幼なじみで――
「って、みゆき!?」
振り返ると、頬を膨らませて那月さん以上にまんまる顔になっている幼なじみの姿があった。
「今の誰!?」
「いや、ただのクラスメイトで」
「ていうか今日はなんで生徒会室来なかったの!?」
「だから球技大会委員で」
「私とあの子、どっちが大事なの!?」
「話が飛躍しすぎだろ!」
少しは説明する時間を与えてくれ!
というかお前、今日も生徒会室に行ってたのかよ。
「私、ずっと待ってたのに~!」
「悪かった、悪かったから。さ、一緒に帰ろうぜ」
帰り道、俺はひたすらみゆきのご機嫌を直すことに骨を折ったのだった。
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