第7話 期間限定の生徒会役員

「へえー、じゃあカズくん会計になるの?」

「まあな」


 翌朝。ひったくり犯を捕まえた時の焼き直しみたいに、勧誘されたことを学校への道を歩きながら、みゆきに話した。


「だいばってき、だねカズくん」

「そんなんじゃないって。勢いにされて仕方なくって感じだし」

「それに、1週間限定だしね」


 秋人あきとが横から補足する。

 そう。俺が会長の頼みに応じる条件。



「じゃあ。とりあえず1週間だけなら、やってみてもいい」


「本当か!?」

「ああ。1週間やってみて俺にやれそうだと思ったら、続けることにするよ」


 俺の言葉を聞いて、会長は頭を上げた。両目の宝石は、輝きを一層増した。


「ありがとう、ありがとう!」

「1週間だぞ! わかってるよな?」

「わかっているとも。1週間でも3日でも、いいじゃないか。やってくれるんだろう?」


 満面の笑みを向けてくる会長。


「……っ」


 その笑顔があまりにまぶしくて、きれいだったので思わずたじろいてしまう。


「あ、あとあんまり遅くまで時間がかからないようにしてくれよ」


 冷静になるためという目的も兼ねて、くぎを刺す。いくらやるといっても、あまり束縛されて俺の生活に支障が出てしまっては困る。


「うむ、安心してくれ! もし仕事がまったらその時は副会長に全部任せることにしよう!」

「え、僕なんですか……」


 会長の突拍子もない発言に秋人は、呆れと諦めの混じったような声を出す。


「では早速明日から会計について説明するから放課後生徒会室に来てくれ!」


 そういうわけで俺の会計1週間体験(?)期間が始まったのだ。



「なんだか、すごい生徒会長さんだね……」

「まあな」


 そもそも会計なんて重要な役職を、1週間だけ体験、なんて措置そちを取っていいものなのだろうか。まあ会長がいいなら、放っておこう。俺は巻き込まれた側だし。


「ほんと、昨日はあまりにいきなり過ぎてびっくりしっちゃったよ」

「あの会長と副会長としてコンビを組むなんて……前途多難だな、秋人」


 これから1週間は俺も同じ運命を辿たどるのだろうが。


「だいたい昨日勧誘するなら僕に前もって言ってくれって言っておいたのに……。いきなり教室まで来ちゃうんだから」

「というか、いつ会長に俺のこと話したんだ?」

「和真がひったくり犯を捕まえた日の夜、ラインが来てね。あの捕まえた少年は誰だー! って。まさかこんなことになるとは全然思っていなかったけど」

「まさに猪突ちょとつ猛進もうしんといういか、なんというか……」

「ま、そういうところがあの人の魅力でみんなに好かれてるポイントなんだろうけどね」


 しょうがない、といった感じで秋人は笑う。


「でもさ、カズくん?」

「ん?」

「これが何かを始めるきっかけになるかもね」


 みゆきはやわらかい笑みを向けてきながら、言う。ふわりとショートカットの髪が宙に揺れた。


「そうか?」


 俺が聞き返すと、うんと答える。


「1週間だけだけど、もしかしたらこれからもやりたくなるかもしれないよ?」

「そうかあ……?」

「そうだよ」

「まさか。会長があれだけ頼みこむから試しにって思っただけだし」


 そうは言ったものの。


 心の隅に生まれたざわつきを、俺は確かに感じていた。

 それはまだ小さすぎて、俺にとって良いモノなのか、悪いモノなのか、まだわからない。

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