第16話 いつもと違う幼なじみ

「あれ、みーちゃん」

「ほんとだ」


 生徒会の仕事が終わり、秋人あきとと帰ろうとしていたら生徒玄関でみゆきを見かけた。アイツも部活終わりってとこだろうか。


「よっ」

「ふやぁっ!」


 みゆきの肩をつつくと、ものすごく驚かれた。


「な、なんだカズくんかー。もー驚かさないでよ」


 そんなつもりは全く、これっぽっちもなかったのだけどなあ。


「みーちゃんは部活終わり?」

「あ、うん。そうだよ……」


 どことなくいつもより声が小さい気がする。

 部活で疲れているんだろうか。


「さ、さあ! ふたりとも!早く帰ろ!」


 彼女は急に声を明るくすると俺たちをうながした。


「3人で帰るのは始業式の時以来……かな」


 そもそも俺は今まで部活とかをしていなかったわけだから、みゆきや秋人と一緒に帰るというのはあまりなかった。この2人だけなら一緒に帰ることはあったのかもしれないけど。


「そういえばそうだね」

「これからは、カズくんとも一緒の時間に帰ることが多くなるのかな」

「さあなー。俺のこの仕事も1週間なわけだし……」


 1週間後には、俺は今までどおり授業が終わって学校を出るスタイルに戻るはずだ。


「そ、そうだよね……」


 気を落とすみゆき。やはりどこか元気がない。疲れてるのかな。今日の体育であれだけ走れば疲れるのは当然だろうけど。


 ……もしくはこの間の風呂でのアレをまだ気にしているのだろうか。

 もしそうだとしても、この状況で俺がなんと言ってやればいいのか。


「……」


 大体今ここにはあのこととは無関係の秋人がいるのだ。俺が余計なことを言っても場がややこしくなるだけだろう。


「……和真かずま?」


 みゆきには今夜あたり、改めてラインでもしておこう。うん、それがいい。


「和真ってば」

「え?」

「まったく、さっきから呼んでいたのに全然気づかないから……ねえ、みーちゃん?」

「……」

「みーちゃん?」

「……ふぇっ!? な、なに秋ちゃん?」

「はあ、疲れてるのは2人ともみたいだね」


 秋人は嘆息たんそくする。

 どうやら2人してぼーっとしてしまっていたようだ。まったく、息が合っているんだかないんだか。

 そうこうしているうちに、いつもの分かれ道にさしかかった。


「じゃあ、また明日ね。2人とも」


 みゆきはそう言うと足早に自分の家へと帰っていった。あっという間に、その影は見えなくなる。


「……みーちゃん、なんだか元気がなかったね」

「そうだな」


 やっぱり秋人も気づいていたのか。


「今日の体育で疲れたのかな」

「その可能性は大いにあるが、なんかちょっと違う感じがするんだよなあ」

「和真、何か心当たり知ってる?」

「いや……」


 ないことはないのだが……。


 みゆきのさっきの元気のなさは別のものが原因のような気がするのだ。


「ちょっと、気になるね。友達にでも聞いてみようかな」


 友達。その言葉に、始業式で出会った元気な女子の顔が浮かぶ。たしか明石あかしさん……だったけか。


「ま、アイツが大人しいと調子くるうしな」

「うん、そうだね」


 なんだかんだでずっと一緒にいるんだ。心配にもなってくる。


「じゃあ僕らも帰ろうか」

「おう、また明日」

「明日も『会計』がんばってね」

「いや、明日こそは生徒会室に引きこもることにするよ」


 秋人がからかってきたのを、宣言するようにして返す。しばらく柔道部の大男たちの顔は見たくない。明日こそは身体を休ませて、のんびりと仕事をしたい。


 そして俺と秋人は別れた。


 明日こそは平穏な1日――放課後を送りたいなあ。無理だろうけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る