第5話 登場!生徒会長!

「ほわわー。じゃあカズくん犯人捕まえたんだ……」


 翌日、いつも通り3人で学校へと向かう。俺はみゆきに事のあらましを話してやった。


「すごいねー……」


 みゆきは口を開けたまま、ほー、と息を漏らす。


「僕はビックリしたよ。和真かずまがいきなり声を上げて後ろから走ってくるから」

「なんか無我夢中だったからな」

「後ろ歩いていたなら声かけてくれてもよかったのに」

「ははは、すまんすまん」


 あれ、そういえば昨日なんで声をかけなかったんだっけ?

 あの騒動のせいで忘れてしまった。まあ忘れるならそんなに大したことじゃないか。


「捕まえたのはよかったんだけど、卵が買えなかったのがなあ……。特売で10個98円だったのに」

「あはは、和真らしいね」

「でもでも、ひったくりを捕まえるなんて。カズくんヒーローみたいだよ……」

「大げさだってば」


 キラキラキラ。みゆきの眼差しがいつもの数倍まぶしいものになっていたので、なんだか落ち着かない。有名人ってこんな感じなのか。俺は一般人として静かに暮らしていきたいのに。そんなことを考えながら、学校までの道を歩いた。


 が、俺の願いは届かなかったようで、教室に入ると色んな奴に話しかけられた。どうやら昨日あの場にいた生徒の中に、クラスメイトがいたらしい。話したことのある奴から、顔も見たことのない人間まで。なんだか一躍いちやく有名人にでもなったような気分だ。


「和真、すごいね」

「ああ、疲れた……」


 先生が来てようやく場がおさまり、俺は机に突っす。


「いつまで続くんだこれ」

「しばらくは我慢しないとかもね」


 なんて言って、秋人あきとは苦笑した。他人事ひとごとだと思って、こいつ。



 とは言ったものの、人の噂も七十五日、とはよく言ったもので、放課後になれば俺がひったくり犯を捕まえた話題はすっかり下火したびになっていた。穏やかに過ごしたい俺としてはありがたい限りだ。


「さて、帰りにスーパー寄るか」


 カバンに荷物をつっこんで、立ち上がる。


「早いね和真」

「おう、今日はタイムサービスの日だからな。買い時ってやつだよ」


 昨日の卵の借りは返さねばならない。別にスーパーに借りは全くないのだが。

 俺は静かに闘志をたぎらせる。


「そっか……がんばってね」

「秋人、どうかしたのか?」


 親友の口調にどこか悩みのようなものを感じ取った俺は、くことにした。

 秋人はうーん、と少しうなってから、


「いや、実は生徒会の役員がまだ全員決まっていなくてね。本当はもう決まってないとダメなんだけど」

「ああ……」


 昔から秋人のことはよく知っているので、なんとなくわかってしまう。きっと色々任されているのだろう。頼まれると断れない性格だし。

 渋面じゅうめんを作り、心底悩んでいるような顔をする。いや、というよりもこれは……申し訳なさそうな顔?


「それで、その役員のことなんだけど……」


 秋人が何かを口にしようとしたその時。


 ガラガラガラッッ!


 勢いよく教室の扉が開かれた。

 教室に響く喧騒けんそうが一瞬止まり、より一層大きくなった。みんなの視線が、一気に扉に向けられる。もちろん俺もそれに漏れず扉の方を見る。


「なんだ?」


 扉の先には、1人の女子生徒。

 彼女の姿に、俺は既視感を覚えた。

 あの人って……。

 モデルのようなスラリとした細い脚。きちんと着込まれた制服。長い黒髪にはツヤがあり、少し離れたここからでも輝いているのがわかる。


 きれいな人だな……。


 初めて顔を見て、俺は率直そっちょくにそう思った。若干つり気味の目にくっきりとした鼻。テレビに出ていてもおかしくない端正な顔立ちをしている。

 正面から顔を見るのは初めてだが、間違いない。昨日秋人の隣を歩いていた女の子だ。


「む?」


 女の子は教室内をぐるりと見回した後にこちらを向くと、迷うことなく近づいてきた。


 ああ、秋人に用事があるのか。


 ということはこの子も生徒会関連なのだろうか。昨日秋人と一緒に帰っていたくらいだし。

 いや、もしかしたら秋人の彼女という可能性も。

 などと考えていると、女の子が俺たちの前までやってくる。

 そして、目と目が合う。


 ……ん? 俺?


「……見つけたぞ」


 小さくつぶやく。そして。


 ガシィィッ!


 いきなり両肩を掴まれた。


「は……え?」


 あまりに突然のことで、頓狂とんきょうな声を上げてしまう。


大倉おおくら和真君……だな?」

「あ…………はあ」


 名前を聞かれ、俺はうなずく。

 それを確認し、彼女は言った。

 俺の高校生活を一変させる一言を。



「君に……会計をやってほしい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る