第35話 無観客の演劇

 さてさて。


 目の前の問題については、一応収束したわけだが。


 どうにもなっていないことは、結局そのままだ。


 とりあえずあの後、俺と秋人はみゆきに説教を食らった。

 一体何について怒られたのかといえば『鍵』のことではなく、俺たちが闘志をむき出しにしてケンカしたことを、だ。


 いやあ、まさか生徒会室の床に正座させられる日が来るとは思わなかった。それもみゆき相手に。


 いつもほんわかしているみゆきだからこそ、その怒りの声には説得力と、耳を傾けさせる力があった。いつもからかっている俺でもさすがにいつものようには流せなかった。


 そしてその後は当然というように、きちんと俺たちの怪我の手当てをしてくれた。まったく、俺たちで勝手につけ合った傷だっていうのに、アイツは、


「ダメ! 私がやるからじっとしてるの!」


 と言ってきかなかった。

 まったく、この小さな幼なじみには敵わないな。

 大人しく手当されながら、俺は秋人と苦笑いを見せあった。


 まるで本当に昔に戻ったみたいだった。

 ま、たまには悪くないかもな、こういうのも。


 みゆきが手当てを終えてくれたあと、どういうわけか、まるでタイミングを見計らったかのように生徒会長が部屋に訪れた。

 まあこの生徒会長ならカンでこのタイミングに現れることもやってのけそうだが。

 会長は俺たち三人を見て、にっこりとほほ笑むと、


「まったく、今日は休みと連絡したはずだろう。なんでみゆき君までここにいるのかは知らんが、部屋を施錠するから、早く帰りなさい」


 その一声に俺たちは顔を見合わせて、笑った。

 そして、舞台の幕は下りた。人知れず。


 もちろん、観客なんていない。

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