点滅する未来
みたか
点滅する未来
視界が滲んでいる。
まるで水に絵の具を落としたときのように、じわじわと広がって色が混ざっていく。
色は私の意識と溶け合って、境界線を曖昧にする……。
はっきりと目が覚めたのは、色彩が目に飛び込んできたからだった。電車の窓に、賑やかな看板が流れていく。あたたかいシートが心地よくて、いつの間にか眠っていたらしい。塾帰りの午後九時。帰宅途中のサラリーマンが多い時間帯でも、この路線は比較的空いている。
握りしめたままの単語帳を見て、思わずため息が出た。
夢とか、本当にやりたいこととか。みんなは大袈裟にキラキラさせるけれど、そんなものは一体何になるというのだろう。
どうせいつかは死んでしまうのに。
そんなことを考えているから、いつもみんなの話についていけない。反応が薄い私に、隣の席の女子が「冷めてるよね」と言った。
夢はきっと、生きていくのに必要なものなのだろう。進むべき道が分からないと、私たちは迷子になってしまう。
みんなはそれを、当たり前のように手にしていた。それなのに私の手のひらだけは空っぽで、何かを掴みかけてもすり抜けていってしまう。通り道に穴を空け、ヒリヒリと痛む感覚だけを残して。
私なんか、何をしてもどうせ駄目なんだ。そう開き直ったって仕方ない。そんなことは分かっている。でもみんなと比べては、足が止まることを考えてしまう。進んだ先が行き止まりだったら、私はもう立ち直れない気がする。諦めきれないくせに、足を動かすのが怖い。
私はなんて臆病なんだろう。「どうせ」という言葉で、ただ逃げているだけだ。
目の前の疲れきったサラリーマンたちは、電車の中でぐったりと眠っている。眉間に皺を寄せて、苦いものでも食べているみたいだ。無造作に置かれた鞄も、疲弊した彼らのようにクタクタになっている。
あの人たちは、どんな未来を描いていたんだろう。見ていた光は、まだ心の中にあるのだろうか。
私は、どんな大人になるのかな。
ホームに下りると、大きな月が浮かんでいた。派手な看板も高い建物もなくなって、空には月と星しかない。冷たい空気を吸い込んで、輝くエネルギーに変えているみたいだ。私の目をチカチカと照らしている。
改札に向かうところで、ダッフルコートのポケットの中が点滅しているのに気づいた。スマホをタップすると、女子だけのグループにメッセージが届いていた。未読三十件。次々と増えていく数字に、心底うんざりする。きっとまた、クラスの男子の噂か何かだろう。
スマホの電源を切って、もう一度ポケットに突っ込んだ。手元で光るそれは、今の私には邪魔なものでしかない。
私を照らすものはたくさんあるのに、本当に導いてくれるものは、ひとつもないんだ。古びた電球に照らされた白い息が、空に届く前に消えていった。
点滅する未来 みたか @hitomi_no_tsuki
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