第6話 新人ヒーロー

ケイゴが部屋に入るとそこには先客が一人会議用の椅子に座って退屈そうに文庫本を読んでいた。





 戦いを生業としている者独特の血なまぐさい雰囲気を持った大柄の黒人の男性だ。つるりとそり上げられた頭ときっちりと揃えられた顎髭が彼の迫力を増している。





 ドアの開いた音でケイゴの存在に気がついたのか、本を読んでいた視線をあげてケイゴを確認すると少し微笑んでしおりを挟んで呼んでいた本をパタリと閉じた。





「お疲れ様ですルーカスさん。ジェームズさんはシャワー浴びてから来るみたいですよ」





「なるほど、リーダーらしいな。まあこの待機時間にも給料は発生するのだからオレとしては全く構わんがね」





 いたずらっ子のような顔をして微笑むルーカス。





 ケイゴを含むこの建物を拠点としている三人はいわゆるヒーローと呼ばれる存在だ。





 リーダーを勤めるのはジェームズ・ウィルソン(34)。ヒーローネームは ”ミスターT”。





 正義感が強く、長年の鍛錬によって鍛え上げられたその身体能力は他の追随を許さない。現場では常に冷静に最適な判断を下すことの出来る有能な指揮官、頼れるリーダーだ。





 そしてケイゴの目の前に座っている黒人の男性、ルーカス・スミス(27)。ヒーローネームは ”ガンマスター”。





 元々は紛争地域で傭兵まがいの事をしており、様々な銃の扱いに長ける。遠距離中距離近距離、どんなレンジでの戦いも得意とする彼はオールマイティーな戦闘で状況に対処する事ができるチームの柱である。





 そして高校生のケイゴ・タナカ。ヒーローネームは ”ニンジャ・ボーイ”。





 古武術の達人により鍛え上げられた戦闘力と、さらに彼の持つ特異な超能力は主に潜入調査や見方のサポートでその真価を発揮するだろう。





 以上三人がこの国を守護するヒーローと呼ばれる者たちだ。





 そもそもヒーローとはボランティア活動で行われているモノでは無く、近年新たに設立された歴とした国家公務員に値する職業・・・もっと詳しく言えば軍隊の下部組織にあたる部隊の一つ、”ヒーロー部隊”と呼ばれる組織の一員を指してヒーローと呼ぶ。





 隊の目的はいくつかあるが、主なモノとしては年々激化する強力な超能力を有する犯罪者を取り締まる為の超能力部隊が必要だったということ。





 そして国のイメージアップの為に何かマスコット的な存在が必要であった事。この二点があげられる。





 だからこそヒーローは派手な衣装を身に纏い、大仰な台詞を吐いて犯罪者を取り締まるのだ。





 国に所属しているヒーローの人気が高まる事は、そのまま大衆の国に対する支持率が高まる事を意味しているのだから。





「しかし今回の収集は急だったな。一体何があったのやら」





 ルーカスが頬杖をしながらあくび混じりにそう言う。ケイゴもルーカスの座っている対面側の椅子に腰掛けると今朝あった出来事を思い出して口を開いた。





「そういえばボク、学校行く途中に引ったくり犯捕まえましたけどソレについてですかね?」





「いやいや、その程度だったら定例会議で報告すれば十分だろ? 今回は急に決まった集まりだったから何事かと思ってさ」





 ヒーロー三人は週に一度この施設に集まって定例会議を行う。それは上層部へ提出する活動報告のまとめであったり、今後の方針について語り合ったりする訳なのだが、今回の集まりは今朝急に連絡があったのだ。ルーカスが何か勘ぐるのも仕方が無いことだろう。





 二人がそんな風に雑談をしていると部屋のドアが勢いよく開かれる。入ってきたのはシャワーを浴びてすっきりとした顔をしているジェームズと・・・そして見知らぬ女性が一人。





「待たせたな二人とも! では会議を始めるとしようか」





 朗らかにそう言うジェームズに、ケイゴはそっと手を上げて疑問を口にした。





「あのージェームズさん? 後ろの女性はどなたですか?」





 ケイゴの言葉にジェームズはニヤリと口角をつり上げる。





「良い質問だケイゴ! 彼女こそが今回急に君たちに集まって貰った理由なのだよ!」





 そして大げさな身振りで女性を指し示すとジェームズは言葉を続ける。





「彼女は今日よりこの部隊で供にヒーロー活動をする事になった超能力者、エマ・R・ミラーさんだ」


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