3.話し合い
俺が転生してから一日経った。
「さていきますか」
そう勢いついたはいいものの、予定していた時間をもう十分ほど過ぎている。
昨日は夜も遅いという理由で朝を待つことにし、宿を借りて休息をとった。
「あいつまだ寝てるんじゃないのか?部屋は別にしてってわがまま言っておいて遅刻とか」
いつまで経っても周りに動きはなかったので、こちらから出向くことにする。
そしてミーシャが借りている部屋の前に立ち、勢いよく扉を開けた。
「おいてめー!いつまで寝てんだ…、よ?」
そこに立っていたのは服や装備を外した一人の少女。朝日に照らされて白い肌が余計にきれいに見えた。
「え?…ってキャー!」
俺が入って来るや身近な布で体を隠す。
「ななな、何で、服着てないんだよ!」
「着替え中よ!早く出ていきなさい!」
勢いよく扉を開いて、また勢いよく扉を閉める。扉からミシッという音が聞こえた。
部屋の中からドタバタという音がしばらくした後また扉が勢いよく開かれた。
「信じられない!女の子の部屋にノックなしで入ってくるなんて!」
「しょうがないだろ!まだ寝てるんだと思ったんだから。それに待ち合わせの時間に遅れてるし」
「言い訳してるんじゃないわよ。こっちは被害者なの!何とか言ったらどうなの」
「…ごめんなさい」
素直に謝ってもなおぷんすか怒っている様子。
こういう時、男の立場って低級モンスター並に弱いよな。
「ふん。まぁいいわ。で、あなたの考えってやつを聞かせてくれる?」
例のように冒険者ギルド近くの路地裏のような場所に腰を下ろす。
「その前にこの世界の魔物について…魔王の手下のようなやつはまだ生きているのか?」
俺が自分の作戦を述べる前に魔王を倒したミーシャに情報を聞いておく必要があった。
「魔王の手下というか、幹部なら生きてるんじゃない。そいつら無視して魔王を倒しに行ったから」
無視したって…。そんなことができるのであろうか。
「倒してないならちょうどいい。そいつらはどこにいる?」
「知らないわよ。どこかにワープさせたから」
「ちょっと待て。どうやって魔王を倒したのか一度詳しく聞こうじゃないか」
ミーシャの話す内容がどう聞いても要領を得ないため、順を追って話を聞くことにする。
「どうやってって…。まず魔王の城に到着して」
「うんうんそれで」
「魔物がうじゃうじゃ出て来たからパーティメンバーの魔法で一気に焼き払うでしょ」
焼き払うって。そんな物騒な。
「…それで?」
「魔王がいる最上階以外いらないかなって城ごとどこかにワープさせたのよ」
「はいそこ!そこが問題あるよね!」
何当たり前みたいにワープさせてる訳?城ごとってそんなことできてしまうん?
「何よ。ワープさせるのだって大変だったんだから」
「大変も何も魔王の城にはそういう魔法に対する結界とか張ってなかったのか?」
いやそういう魔法を考慮して結界張る方も頭おかしいんだろうけど。
それよりも城ごととかいう規格外のことを言い出している謎をどうにかしたい。
「はぁ?城にわざわざワープ用の結界なんて張る訳ないじゃない。頭大丈夫?」
俺が言いたいわ!その台詞そっくりそのまま返したいわ!
「いや常識的に考えてそんな限定的なものはないと思うけど」
「そりゃそうじゃない。でも防御壁はものすごいのが張ってあったんだけどね」
「それでも城をワープさせたと」
こんなもう台詞一生言わないだろうな。
「そうよ。なんたって私は空間を操る能力を持つ大魔法使いだもの」
「空間を操る…何か凄そうだな」
素直に感心してしまう。
「そうでしょ。もっと褒め称えてもいいのよ」
あんまりコイツを褒めると調子に乗って鬱陶しいな。
「話が逸れた。具体的にはどうやってワープをさせたんだ?そんな易々とできるものじゃないんだよな」
さっきの話から随分苦労して使用したとか…その後に何かがあるはず。
「…まず私がワープさせる段取りを組むでしょ。もちろん私だけのマナではそんなに大きな物はワープさせれないからパーティーメンバーに手伝ってもらって、やっと?」
そんなめちゃめちゃ考えて捻り出しました、みたいな説明をされても。
「オーケー。とりあえずワープさせたまでは良いとして、じゃパーティーメンバーと魔王を討伐した訳だな?」
ワープのくだりは全然納得がいってないが、話が進まないので今は置いておこう。
「ううん。パーティーの皆は城と一緒にどこかに飛んでいっちゃった」
「お前どんだけクレイジーな訳っ!?」
もう話が無茶苦茶過ぎてギャグマンガだよ。収集がつかないよ。
「何よ。こっちだって必死だったんだから。後悔がないって言ったら嘘になるわ」
「…そうか。事情があったんだな。ごめん」
そうだよな。魔王の城に行って全て上手く事は運ぶなんてことはないよな。
こいつらだって苦渋の決断だったのだ。
「レイがむかつく事を言ったからうっかり範囲が広がっちゃっただけよ」
「俺の謝りを返してくれ!そしてレイさんのせいにするんじゃねぇよ!」
コイツとまともな会話をすることが無理な気がしてきた。
「そんなこんなで私一人で魔王を倒したの!以上終わり」
「えー…」
強引に終わらせやがったよ。そして何でちょっとキレてるんだよ。
「私の話を聞かせたのだからあなたの考えってやつをそろそろ教えなさいよ」
「あぁ。それは話すんだけど…今の話は全部本当なのか?」
疑っている訳ではないが、どうにも信じがたい。というか信じたくない自分がいる。
「本当よ。疑ってる訳?」
「いや、そうじゃない。たださっきの話の中で一つ問題点ができた」
「…何よ」
ミーシャは恐る恐る聞いてくる。
「それは魔王の城がもう滅茶苦茶なことだ…」
「……!?」
壊されたとかなら直せばいい話だが、分断されている上に最上階以外がどこにあるのかも分からないときた。
何を言っているのか分からないからそのまま話すぜ。つまりそういうことさ。
「俺の考えていたことはこうだ。まず魔王の城に行き、魔王の下っ端の話が出来るヤツに会う。そして実力で言うことを聞かせて冒険者という職業を復活させる」
細かいところはだいぶ省いたが、要点は押さえて話す。
「…?」
ミーシャは理解が出来なかったらしい。おつむがかなり弱いようだ。
「この他にどう説明したらいいのか…」
俺が分かりやすく伝えるためにはどうすればいいのか悩んでいると。
「別に魔王の城じゃなくてもいいんじゃない?」
ミーシャはさらりとそう言い放った。
「…というと?」
「だから魔王の城以外にも魔族がいたダンジョンとか遺跡とかがあったから…。それじゃダメなの?」
「…天才かよ」
それはおそらくミーシャが実体験から導きだした答え。
俺ですらすぐには思いつかなかっただろう提案。
「それであなたの考えってのを教えてくれる?」
そうミーシャは得意げな顔でもう一度聞いてきた。
「オーケー。じゃ、とりあえず目的地は魔王の幹部がいそうなダンジョンっていうことで」
当分の目的が決まったので、俺が立ち上がり歩きだそうとすると。
「ちょっと待って。私も一つ確認しておきたいことがあるわ」
「…何だよ」
どこかで体験したような展開に唾を飲んでしまう。
「あなたって魔王になるって言うのだから相当腕は立つのよね?」
ミーシャの純粋な目で試すような雰囲気に思わず思考が停止する。
と、そこで。
「海賊だー!海賊が出たぞ!」
表通りで若い男性が大きな声で皆に知らせるように言葉を発する。
「ちょうどいいわ。あなたもついてきなさい」
「はぁ…めんどくさいことになりそう」
先を走るミーシャの後を俺は渋々ついて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます