第26話 お孫さんと遊んだ貯水池・公園

 さて、今度は先ほどの分岐を左に曲がる。

 50m位上ると草が生えた土手が見える。そこを上ると直系30m位の貯水池が見える。

「へー、ここがお孫さんが帰省した際に遊んでた池かー」土手の上はきれいに整備されており、ベンチまである。

 その先には竹林が広がり、池の周囲をぐるりと囲んでいる。

 ベンチに座ると「お孫さんと遊んでいた池!」と写真を添付してツイッターにあげる。


 ベンチから見る池はとてもきれいで夏に水浴びをして遊ぶ様子が容易に想像できた。


 池と反対側には玉名、いや小田地区の田園が山のすそまで広がっているのがわかるほど見晴らしが良い。

 田圃できれいに仕切られた風景は、大分の棚田のような段がほとんどなく、山すらも地平の彼方にうっすら見える。

 大分では絶対見られない広大な田園風景がここにある。

 池の冷気を含んだそよ風はひんやりと気持ちよく、波音のような竹のさざめきは耳に優しい。とおくから聞こえるとんびの「ピーー ヒョロローー」という声がなんとも心を穏やかにしてくれる。


「いいところだね」

「そうだね」


 お世辞でなくそう思った。

 

 日常の雑事から解放され、非常にリラックスしているのを感じる。

 ほどよい人の温もりと、山中にいるような自然の静けさ。歴史の偉人が実際に生きていた場所に、大分から離れてたどり着いた。

 この事実が何ともいえない「特別な場所にいる」という感じがする。

 半日の学習でこうなのだ。半年ドラマを見てきた朝美ちゃんならなおさらだろう。


 5分もおだやかにたたずんでいただろうか。

「帰りたく ないなー」と朝美ちゃんがつぶやいた。


 ドラマで田畑政治がロスオリンピック終了後、つぶやいたせりふなのだという。

「いやー。熊本西武は今まで一度も来た事なかったし、大河ドラマゆかりの土地に行ったこともなかったけど、本当に楽しいね。来てよかったよ」

 泣きそうな顔で朝美ちゃんはいう。

「この風景と時間を切り取って…、このまま時間が止まればいいのに」

 そういいながら立ち上がると池の奥へと歩いていく。

 どうやら池を一周するつもりらしい。


 そんなときに

「あ、バスが来たみたいだよ」

 広大な田圃道を巡回バスが来ているのがわかる。

 これを逃すと和泉町へ行くのは難しいだろう。だが

「せっかくだし、あきらめて次のバスにしたらダメかな?」

 と朝美ちゃんはいう。


 ここに至って朝美ちゃんがなんで計画が立てられないのか理解した。

 ふつうの人間は生活を優先して、観光場所を諦める。

 30分の見学時間を予定すれば30分でみれる場所を限定し、みれなかった所は諦める。


 しかし彼女は諦めない。


 見たい場所があるなら制限時間なんて考えず限界まで見てしまう。

 今見なくてもまた訪れて見に来るだろう。

 そんな事をするくらいなら満足するまで見る方が合理的だ。

 これでは計画なんてたてられないし、目的地に到達できないかもと心配するのも当然である。


 時間に間に合わないのは日常茶飯事なのだから。


「しょうがないなぁ。せっかくだし心行くまで見ていこうか」

「ごめんねー。本当にごめん。」

 両手を合わせて拝まれる。

 ありがとうという言葉とともに探索再会だ。


 竹林を進んで池の反対がに行くとキャンプ場らしき小屋と駐車場がある。

 ここでは夏場に蛍が飛び、バーベキューなんかも出来たりするらしい。

ちょうど軽トラックで遊びに来てた人がいたので、色々雑談したがこれを書いている2月時点で会話の内容を全く思い出せない事に気がついた。


 あの時どんな話をしたのか?それを思い出せないほど印象的な話があったのだ。

この次に。


 美川秀信という人物のお話が。

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