第19話 はずれ 出ろ!
ドラマ館を出ると、浜名湖と玉名の物産展が屋外で行われていた。その隣でガラポンくじがある。
そういえば10時から開始って言っていたっけ。
「へー、五百円以上のお買い物で一回くじを引けるんだ」
見れば一等は旅行券、二等はお米が当たるくじらしい。
「あ、これいいな」
目をキラキラ輝かせている朝美ちゃんの視線の先には残念賞の金栗四三クリアファイルと、『はしれいだてん!』というマンガの小冊子がある。
物珍しく景品を眺めていたら
「あ、ドラマ館に入場の方は一回くじを引けますよ」
と案内のお姉さんが言う。
なら、ものは試しだ。やってみよう。
軽い気持ちで回してみると、白玉の残念賞が出た。
記念に小冊子をもらう。本好きとしてはこちらだろう。
それに対して朝美ちゃんは
「おめでとうございます!4等です!」
と、赤い玉の当たりが出たらしい。
「4等は金栗足袋をあしらった特製てぬぐいです!」
と白地に藍色で足袋のイラストがあしらわれた手ぬぐいが渡された。
すごいじゃない朝美ちゃん。
「わたしも小冊子がいい…」
え?
「この手ぬぐい、優れたピクトグラムというかイラストだけど、私はもう少し分かりやすいファングッズが欲しいんだよー!金栗さんの人生書いてる本に、金栗さんの写真が載ったファイルとか最高じゃない!いいなー!」
当たった人間からはずれをうらやましがられるとは思わなかった。
「もう二回やる」
そう言うと、物産展で玉名ラーメン700円とお菓子の詰め合わせ500円を購入して再びくじを回し始めた。
おい「今日はいろんな所に行くからね。荷物は少ない方がいいよ」とか行ってなかったか?
あっけにとられる私を後目に「はずれーでろー。はずれーでろー」と怪しげで失礼な呪詛を吐きながらガラガラを回す。すると一回目に待望の白玉(残念賞)が出た。
「よっしゃー!残念賞キタァァァー!!」
と奇声をあげる見た目小学生に周囲の奇異の目が集まる。
え?誰ですかこの人?私の知らない人ですね。
「もっかいハズレ!もっかいハズレ!」と調子良くぐるぐるくじを回す朝美ちゃん。
……あれは…当たりが出たらさらに続ける目だ。ギャンブルを一切しないからこそはまったときが怖い人間の目だ。
創作物にはまるというのは宗教にはまるようなものなのだなぁ。となま暖かい視線を注ぎながら、私は浜名の海産物に目を向けるのだった。
海産物が冷凍され、お手頃価格で並んでいる。
でも、これ地元の人には良いけど旅行客だと手が出ないな…。
保存の効くものはないのだろうか?
そんなことを考えていると「やったー!残念賞ゥゥゥゥッ!」と叫ぶ生物が隣に駆け寄ってきて私の手をぶんぶん振ってきた。
おいやめろ。
周りのみなさんも『困った知り合いの娘さんの面倒をみさせられているお姉さん』みたいな目で私を見ないでください。
「えーと、じゃあこの金栗さんのクリアファイルと小冊子をください!」と手ぬぐいよりも明らかにハイテンションで頼む朝美ちゃん。
写真撮影してネットにまであげている。
まあ本人が幸せそうだからいいけどさ。
「いやー。ラッキーだったねー」
やり遂げました。といった表情で笑う朝美ちゃん。
そのお腹からぐうぅぅと音が鳴る。
「あらら、もう十一時だしさ、どこかでご飯食べようか?」
先ほど勧められたラーメン屋さんの先にはドラマのロケに使われた場所もあるみたいだし、まあせっかくなので行ってみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます