第17話 

 三島天狗コーナーの怪しいTNGダンスをみた後は、ドラマのマラソン指導をした方のインタビューを見る。上映時間10分以上と長い。

「うーん。マラソン自体はあまり興味ないんだよねぇ」

 長時間映像を見るのが苦手な朝美ちゃんらしい。

 私も内容を記憶しようとしたが、あまり覚え切れなかった。

 それよりも、後に訪れた和水町のミュージアムでマラソン選手の歩幅が非常に長い方が印象に残っている。

 金栗選手に瀬古選手の走るときの歩幅が床に足跡で示されていたのだが、180cmくらいある男性が大股で歩いても、それより20cmほど長い距離を一歩で走り抜けているのだ。

 まるでジャンプしながら飛ぶようにはねているマラソン選手はまさに韋駄天という称号がふさわしかった。


 次のコーナーに行くと左手に「黎明の鐘となってくれ」と書かれた背景に恰幅の良い、立派な髭の紳士が立っていた。

「これが柔道の先駆者で日本にオリンピックを呼んだ男、そしてドラマで不動の留めクレを誇る、嘉納治五郎先生だよ」

 留めクレ?

「ドラマのオープニング出演者のクレジットで、第一話から現在までずっと同じタイミングで留まって名前が写っているんだよ」何でも歴代大河で史上初らしい。

 主人公である金栗四三ですら1話目は子役の方が出演し、現在の主役は2話から登場したのだが、治五郎先生は1話目から同じ役所…ではなく役者さんが演じているそうだ。

 まあ、でも70年以上の歴史を描くドラマらしいし最後では登場しなくなるだろう。


「それは、どうかな?」


 いや、さすがに回想とかで登場するにしても限度があるでしょ?第一嘉納氏は戦前には亡くなられたはずである。生きてない人間が出演するわけがないじゃないか。


 そう思っていた時期である。


 ちなみに、柔道の活躍はドラマだと数回しかなく、基本はオリンピック招致に活動する話らしい。

「なんて嘉納氏の無駄遣い」と言えるくらいオリンピックを主眼にした話だ。

 そんな彼は中国の留学生を日本に受け入れ、後進を育てた教育者でもあり、柔道というスポーツの指導者でもあった。そんな活躍によりオリンピック委員会から日本の招致委員会に選ばれたという。

 明治時代人ここにあり。

 そう思えるほどに威風堂々とした紳士の嘉納氏。

「治五郎先生は真の主役であり「重要なおっさん」なんだよ」と朝美ちゃんは冗談めかしていう。

 なんでも第一話で、「(このドラマ、登場するのは)おっさんばかりですが、この男の事はおぼえておいてください。何しろ重要なおっさんですから」と紹介されたらしい。


 そんな彼の偉業は、柔道やオリンピックだけでなく多岐に渡る。

 ついでにいうとそのために莫大な借金も抱えており、死ぬまで返済できなかったらしい。

 すごい人生である。


 そんな明治時代人の足跡を感慨深く見ていると、右手に2つの書状があった。

 一つは止めはね払いのしっかりした、中国の山渓をイメージしたような達筆な字。もう一つは、ひなたで丸まる猫のような「ほにゃ~」とするような丸い字。

 案内文を見ると、金栗さんが恩師である嘉納先生に書を欲しいと願い出て書いてもらったらしい。

「急に書が欲しいとは不躾ではないかね?といいながらも書いてくれた」という逸話が書いてあった気がするのだが半年経過した今では内容が思い出せない。

 さらにいえば書の文面も思い出せない。2枚とも同じ8文字だったのは覚えている。

 たぶん「精力善用自他共栄」だったと思うのだが思い出せない。なぜなら…


「いや~治五郎先生。武術家だけあって書も力強いねー…って、ええっ!!」と朝美ちゃんが驚愕する。


 乙女の丸文字のようなかわいらしい書の下に「嘉納治五郎」の名前があり、隣の山渓のような書は老年の金栗さんが書いた書状だったからだ。

 嘉納治五郎といえば、柔道マンガ「YAWA○A」で頑固おやじのモデルとなった人物というイメージがあったのでこのギャップには朝美ちゃんもびっくりしていた。

「たしかに、ドラマでも金栗さんが実は結婚してたって聞いた時「ええ~」って乙女みたいにな仕草で驚いていたけど…実際の方もチャーミングだったんだね」と驚いていた。


 何その話(※)すごく気になるんだけど。


 この文字とか逸話がふっとぶくらいギャップのある字だったという事だけが頭に残っていて、ほかの重要な情報がぶっ飛んでしまった。

 どなたか覚えている方がいらっしゃったら情報ください。(切実)

 意外すぎる事実に頭がフリーズしていると


「次の体感シアターが始まるまであと1分となります!」と声がかかった。


 見れば円形スクリーンと書かれた部屋全体が円上になった壁にプロジェクターの映像が360度、全方向に映写機の映像が映っている部屋があった。

 今度は何が始まるんだろう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ※いだてん20話のアントワープオリンピックに向かう際の話。

 船でヨーロッパを目指す日本の一行で、金栗さんのパスポートがないと騒ぎになった。

 金栗氏は池部家の養子として結婚していたのでパスポートには「池部四三」と書かれていたためだ。(ミュージアムに展示されていた実際のパスポートにも池部四三とあった)

「それを知らなかった治五郎先生がね、池部姓のパスポートみて「君…金栗くんじゃないの?」って言ったシーンはみんな大爆笑したね。ツイッターで。」

 それは、本当に笑っていたのだろうか?


「で、そこから結婚していた事が明るみになったり、後輩の野口さんも実は結婚してたとか、その後輩に恋してたトクヨ先生の失恋が確定したとか騒動があったんだけどね」

 情報が多すぎるよ。なにその面白どたばた劇。

「そのときに四三さんの奥さんの写真をこっそり見せてもらった治五郎先生が、口に手を当てて「え~~~~っ」って乙女みたいに驚くシーンがあったんだよ。あれは本当に尊いシーンだったね」

 なにそれ見たい。

 あのかっこいい紳士が乙女みたいにはしゃぐなんてどれだけ攻めてるんだよN○K。

 私がいだてんを絶対見ようと思った瞬間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る