第14話 玉名駅到着。住民、無関心

 玉名駅に到着した。

 なりは大きいがテナントが入ってない寂しい駅である。

 だが、今は違う。

「ここは「いだてん」の第一部主人公にして日本マラソンの父、金栗四三の住家があり、マラソン関係の関係者として活躍した町らしいよ」という。

 駅の改札を抜けて右側には、大きく写真を伸ばしたパネルが張られており、待合室の隣には特設の資料コーナーまである。

「テナント募集中」の張り紙は見なかったことにする。


 ドラマの舞台となっている町にしては閑散と言うか人が少ない。

 さてここから大河ドラマ館はどうやっていくのだろうか?

「さあ?」

 おう、まてやコラ。

 するてえと「ファンだから行きたい」といったのに下準備は全くせず、調査もしてない状態で人を誘ったのかい?朝美ちゃんは。


「うん!!!」


 元気な返事が返ってくる。よし、げんこつしてやる。

「えーとね、シャトルバスがでてるっていうから、それに乗れば良いと思うんだ」と握り拳を見た朝美ちゃんが言う。

 なんだ、それを先に言いなよ。


 駅の正面には大きな鐘が吊ってある。


「あーこれレプリカなんだ」

 青銅ではなくプラスチックなのだろう。

 当然といえば当然だ。万が一台風などで鐘が落ちてけがでもしたら一大事である。

 それに、こういう謂われの鐘があったという歴史を語るには十分すぎる代物だ。

 さて、バス停に臨時で作られたシャトルバス停留所を見ると、最初のバスは9時にくるらしい。

 我々は8時45分頃に到着したので、まだ時間がある。少し駅の周辺でも散策しよう。

 なだらかなカーブを描く坂道を上ると「日本マラソンの父 金栗四三」の赤い旗がたなびいている。

 玉名ラーメン屋、居酒屋、ナイトクラブ、郵便局、服屋、シャッター、貸し店舗、服屋、テナント募集ときて十字路が見えてくる。

 日曜の早朝とあって、店はどれもしまっている。

 大河ドラマ観光らしき人間は我々だけなのではないだろうか?そう不安になるほど人が少ない。

 あまり車の通りもなく人も見られない。閑散とした駅だ。

 別府の方がまだ都会に見える。


 そう思って坂を登ると右手にGE○、左手にTUTAY○が見え、その先の十字路では4車線の道路が通っており、車が結構速いスピードで走っていた。その先にはゆめタ○ンまで見える。

 すごい。大分県でゆめ○ウンがあるのは都会である。別府と中津は都会なのだ。

 これは認識を改めないといけないだろう。

「以外と都会だね、玉名って」

 別府市民である朝美ちゃんが言う。

「熊本と福岡の途中にあるし、幹線道路なんだろうね」

 ゆめタウ○のない、由布市の田舎民が同意する。

 この道をまっすぐ進むと金栗さんゆかりの玉名高校があるらしい。とはいえ学校だし資料の展示とかはやってないだろう。不法侵入はできないためか朝美ちゃんもあまり興味がないようで「駅から結構歩いたし戻ろうか」という。

 この後、学校に金栗さんの銅像があったと知って残念な気分になったが、もしも銅像を見ていたらバスに乗り遅れてもっと残念な気分になっていただろう。

 なぜならすでに8時55分になっていたからだ。

 右も左も分からない異国の地。バスがなければどこにドラマ館があるか分からない我々である。

 すでに来ていたバスにあわてて乗り込んだ。

「お客さんたち、どこから来たの?」

 という質問に

「大分です。いだてんのドラマに感動してここまで来ました」と言う。

 そんな朝美ちゃんの熱気とは裏腹に、ほかの乗客が乗り込む気配がない。

『低視聴率』という言葉が脳裏をよぎる。

 まさか客は我々だけという悪夢のような状況があるのではないだろうか?

 そんな心配をよそに朝美ちゃんは運転手さんにいろいろ問いかけている。

「いだてんの人気はどうですか?」

「最初の頃はねー、お客さんも多かったけど、主役が変わってからかな?だいぶ訪れる人は減ったねー」

「ちなみに運転手さんは金栗さんってどうですか?」

「いやー、実は私県外から引っ越してきた人間だからあんまり知らないんだよねー」

「あー…そうですか」

 気まずい空気が目に見えるようだった。

「ちなみにドラマ見てます?」

 黙る運転手さん。どうやら視聴ができてないらしい。

 気まずい空気が、これ以上なく気まずくなった。

 おい、この空気のまま3人だけで運転するの?勘弁してくれ。

 仕事で忙しいからか、高齢の方には敬遠されているという噂は本当なのか分からないが、観光客的にはこちらが引くぐらいの郷土愛を見せてほしくはあった。

 結局乗客は我々二人だけで発進。「これあげるよ」と『なるほど かなくり』と書かれた赤色のパンフレットを渡された。

 マイクロバスのエンジン音だけが響く車内。

 ……………むっちゃ気まずい。

 沈黙に耐えかねたのか、朝美ちゃんはガイド本を片手にこう尋ねた。

「ちなみに、ここってラーメンが有名らしいですね。なんでも熊本ラーメンの元となったとか」

「そうなんだよ!この通りも3軒有名なお店があってね!お昼だと行列ができるから行くなら十一時からのほうが良いよ!」

 気まずい話題から変わったためか、ラーメン好きなのか急に饒舌になった。

 玉名ラーメンはとんこつしょうゆベースで、焦がしにんにくを入れるのが主流らしい。店の名前もいくつも上がる。こちらが引くくらいに呪文のように名前が出る。

「へー、そんなにあるんですか?運転手さん的にはどこがおすすめですか?初めて来たんで教えて欲しいんですけど」

「おすすめ?おすすめねー。どこも美味しいけどこれから行くところだと、川のすぐ近くにあるお店と、ドラマ館にいく途中に2軒あるよ。」

 ほら、そこに。と言われたお店は、どうみてもガソリンスタンドにしか見えなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

脚色無く、巡回バスの運転手さんは『いだてん』の話題に乗ってきませんでした(泣

お仕事邪魔してごめんなさい。

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