第3話 熊本入り 行き先の次は乗り物が変わった
熊本行きのバスは竹田を通り、阿蘇神社のお客を乗せて先に進んでいく。
このバスは乗り合いバスと同じで、高速バスに付いているはずのコンセントや車内ワイファイがない。電池の残量を考えて検索は控えて外の景色を楽しむことにする。
この頃になると旅行気分も一段落し、あまり特筆すべき事は
「6年前の土砂崩れで山肌がはがれた所があるよ」
生々しいなオイ。
見れば阿蘇外輪山と呼ばれる山々に幅5m?長さ50m位の地肌がむき出しになった場所がある。
最近では広島や岡山などで問題となった集中豪雨による土砂崩れだが、その最初の被害地はこの阿蘇山だった気がする。
「すごかったんだよー。3年たっても道路が復旧してなくて別の部分にすっごく細い橋桁5本位で支えた橋で車が走ってたの見たとき『これ橋桁が折れないのかな?』って不安になったのを覚えてるんだ」
そんなあまり聞きたく無かった話をしているとバスは山道へと入っていった。
カントリードミニオンという『阿蘇の大自然を満喫できる広大なロケーションの中で、お子様からシニアの皆様までが一日中楽しんでいただけるふれあい動物王国』を通り過ぎていく。
「あそこは志村○んの動物王国で有名になったパン&ジェームスのチンパンジー、パンくんがいるらしいよ」
「へー」
「昔、死んだお父さんと弟と入口まで来たけど、入場料が足りなくて帰った事があるんだ」
「朝美ちゃん何しにそこに行ったのよ」
事前調査をしないのは血筋らしい。大分からここまで100kmはありそうなのだが…
アーデンホテル阿蘇という別荘地みたいな場所で最後の休憩を挟むと、山道を再び走る。
「あ!」
と隣でスマホをいじっていた朝美ちゃんが声を上げる。
どうしたのだろう?
「今ね、乗り換え案内を調べたら、次の大津って駅から熊本までの電車が動いてて、このままバスに乗るよりも少しだけ料金が安くなるの」
へー、スマホの乗り換え案内使えたんだ。なら出発前に使ってよ。
と言うのを我慢していると
「ついでにいうと大分から小倉に行って、そこから新幹線で熊本行った方が1時間早かったみたいだよ」
何故、もっと早く使わない。
「あ、でも料金が3倍くらいかかるわ、これ」
じゃ、こっちの方がいいわね。
「というわけで、大津駅からは電車で行きましょう」
……………………………はい?
どうやら、この熊本行きのバス『やまびこ号』は距離によって料金が変わる普通のバスなので、ここから運賃節約のために電車に乗り換えよう。と、そういう事だろうか?
「エグザクトリィ(そのとおりでございます)」
そのとおりじゃないよ。
本当にそうなのだろうか?
ふつう乗り物というのは乗り続けていた方が得なはずである。
「でもさ、バスも飽きたし、トイレ休憩もしたいじゃない。それに予定通りに到着すれば、降りて3分後には乗り換えができるんだよ」
……それ休憩時間ないじゃない。
とはいえ、出発の時点で計画性などはゴミ箱に叩き込んだこの旅行である。
行き先は間違っていないし、せっかく熊本に来たのだ。
ここで降りなければ一生立ち寄ることもない場所なのは確かなので、つきあうことにした。
「やった!由布ちゃんありがとう!」
こうして私たちは大津という駅でバスを降りた。
……なお、その電車だが、バスが予定より2分遅く到着し、朝美ちゃんが切符売り場の位置を間違えたために改札口の前で電車が出発する事となった。
「あ~!待って!待ってぇぇlh%m#’d!!」
いいじゃない、急ぐ予定もない旅行だし、大分みたいに次の便が1時間後でもない。20分後だ。
熊本は大分よりもずっと都会なのだな。と観光案内所のパンフレットを見ながら私は思った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なお、この旅日記を書いていて「こんなこともあったな~」と思い返し、バスと電車の料金を調べてみたら、やっぱり電車の方が高かった。
朝美ちゃんが見てたのは初乗り料金込みの値段だったのだろう。
あとで差額分を請求しておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます