雪隠れ
夕暮れ、雪降る街の中を歩いている青年が一人。
その青年がふと視線を向けると、道の隅で一人の幼い少女が空を見上げていた。
「そんなところで何をやっているんだい?」
青年が声をかけると、幼い少女はキョトンとした顔で彼の顔を見上げる。
幼い少女の肩にはうっすらと雪が積もっていた。
「雪を見てるの。綺麗だから」
「そうか。でもそろそろお家に帰ったほうがいい。風邪を引いてしまう前に……きっと、お家の人も心配しているだろうから」
青年はそう言って、幼い少女の肩に積もっている雪を払い落とした。
その後で、青年は幼い少女が立っていた近くの狭い路地の中を覗き見て、溜息を吐く。
「お兄ちゃんは何やっているの?」
溜息を吐いた後もしきりに辺りを見渡している青年に幼い少女は不思議そうに問いかけた。
「人を探しているんだ」
困ったような笑顔で青年は答えた。
「その人は困った人でね。毎年初めて雪が降ったその時に、ふらりとどこかに出かけて、そのまま外で何もせずにぼんやりと雪を見続けるんだ」
それは懐かない黒猫のような少女だった。
自由で気ままで気まぐれで。
自分の事を無価値だと断じ、いつ死んでも不都合はないと好き勝手に行動する愚者でもあった。
「風邪を引いてしまうからやめてほしいと頼んでも、聞く耳を持ってくれない」
初雪が降ったら姿を消すのは、きっと試していたのだろう。
青年が少女を探すのかどうか、青年にとって少女は探されるだけの存在意義があるのかどうか。
困ったような笑顔のままの青年に幼い少女は早く見つかるといいねと言った。
しかし、青年は首を横に振る。
「……きっと見つけられないよ」
そう、もう青年は彼女を見つけることができない。
何故なら――
「一度だけ、彼女を探すのをサボってしまったんだ」
それが何を意味するのか理解した上で。
それでも少女が自分に縋り付くと信じ切って。
それは愚かな判断だった。
あの日自分は何がなんでもあの少女を探し出すべきだったのだ。
「その後、僕は彼女を見つけられなくなった……探しても、探しても……見つからないんだ」
たとえ見つからなくとも初雪が降ると青年は少女の姿を探す。
もうここにいないと知った上で、寒空の下を歩き回る。
――後悔は十分した、反省はまだ足りない、謝罪の言葉はいくら積み重ねてもまだ足りない。
――それでも、いつか見つけられたらその時はどうか。
だけどきっと、そんな願いは無駄だった。
自由気ままな黒猫のような少女だった彼女はきっと、たとえどんなに縋り付いても、懺悔の言葉を重ねても青年の隣にはいてくれないだろう。
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