ガラスの中の最愛
バサリとテーブルに乗せられたのは札束。
「これで買えるぶんだけの日数、こいつを抱えて寝ろ、だそうだ」
続いて仲介人である男がカバンから取り出したのは小さなガラス瓶。
なんだろうとそれを手に取った。
ガラス瓶の中は透明な液体で満ちていた。
その中に、一つだけ小さな白い球体が。
なんだこれ、と小さく瓶を振ると、その球体がくるりと液体の中で回る。
そうして見えた裏側、そこにあったその色を自分はよく知っていた。
――違う、何かの間違いだ。
――違わない、自分がこの色を見間違うわけがない。
「――これ、は」
「お前を買った客の目玉だよ」
やけにあっさりと返ってきた解答に、今度はテーブルの上の札束を見やる。
――じゃあ、この札束は?
――これはどうやって用意された? 元々これは
「馬鹿なお客様だよ。どうしてもお前が欲しかったらしい。――何もかもを売っぱらって、その金でお前を買ったんだ」
何もかも、それはきっと本当に何もかも、であるのだろう。
――あの時泣いていた。
――穢れた自分を見て、ボロボロと泣いていた。
「内臓も、戸籍も、その他いろんなもんを文字通り全部、その右目を除いて、な」
――全部、それじゃあ、あいつは。
「……あいつは、今」
「その質問、必要か?」
それがもう、答えのようなものだった。
「ああ、そうだ。伝言が一つだけ」
――嫌だ、いうな、聞きたくない。
どんな言葉をその目の持ち主が残したのか、想像はできた。
自分を自由にしたいと泣いたあいつに自分が何を言ったのか思い出せば、想像は容易に。
「――たった7日だけしか、自由にしてあげられなくてごめんなさい」
なら、お前が買えばいい。
その言葉だけを残して、自分は立ち去ったのだ。
――あんなこと、言わなければよかった。
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