第4話 生と死

 暗闇の中でたゆたう僕の意識が何かに柔らかく引っ張られる。ここはどこだろうか。夢の中にいるようなのに思考だけは止まらない。


 僕は死んでしまったのだろう。死んだらどうなるんだろう、なんて考えたことは一度や二度じゃないけれど、想像していたものよりは暖かく優しい気分だ。

 死ねば暗く冷たい宇宙のような世界で、一人で永遠にさまよってしまうものだと考えていた。そしてその場所を「天国」と呼ぶのだとも。


 隣、という表現が正しいのかはわからないが近くに見知ったような雰囲気を感じる。冷たく超然としていて、しかしその中心には熱い鉄のような芯があるような空気感、つまりは彼女のそれが僕の近くにあることに安心を覚える。


 この世界が何かはわからないが、僕らが死んだことには変わりがないだろう。そして死んだということは何かを失ったということだ、それが何かはわからないけれど死ぬということはきっとそうなのだ。命だけではなくきっと他にも。


 それが何かはわからないけれど、ひとまずはこの世界の流れに身をまかせる。

 そうしていると意識はだんだんと薄くなっていって、思考もゆっくりと止まっていく。


――僕は全てを思い出し、理解した。彼女の悲しそうな微笑みの理由を、天気を当てる理由を、この永遠とその終わらせ方も。


 愛と、罪と、神と、罰についても。






 そうして僕はどうしようもない程にそれらを忘れてしまったのだった。


 彼女がまた、悲しそうに微笑んでいるような気がした。

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