第2話 僕と君

 朝が来て、目が覚める。いつもと変わらないはずなのに何かが、致命的に、不可逆的に、変わったような感覚。繰り返させられた日常の螺旋が突如として断ち切られたような。

 その喪失感も布団から抜け出す頃には消えてしまっていて、朝食を食べるために寝ぼけたままダイニングの椅子に座る。暖かな味噌汁の香りが頭の覚醒を促し、対面に座る女性に目が行く。


 柔らかな微笑みをその顔に浮かべたその女性は僕の彼女だ。幼馴染と呼ばれる関係の僕らは、いつの間にか好き合っていて、中学生の頃に付き合い始めた。


 大学進学とともに僕らは上京し、そのまま同棲することになった。親の反対はほとんどなかった。親公認の仲でもあることが幸いしたのだろう。ありがちな、されどもかけがえのない程の幸福を朝食とともに噛みしめる。


 二人が住む広さとしてこの部屋は申し分ないが、一つ普通の部屋と異なると言えることはテレビがないことだろう。と言っても最近はテレビのない家も多いと聞くし、誰かがこの部屋に遊びに来ても違和感は覚えないかもしれない。


 実際友達が何度か遊びに来たが、特にテレビがないことについて言ってきた人は居なかった。大学一年生の時点で同棲していることについての驚きのコメントはたまに言われたけれど。


 この部屋にテレビがない理由は二つある。

 まず、もともと僕はテレビをあまり見ない。実家にいた頃も朝食を食べながら天気予報を眺める程度だった。

 しかし理由がそれだけだったならもしかしたらこの部屋にテレビは設置されていたかもしれない。もう一つの理由によってこの部屋にはテレビがない。


 その理由とは彼女はまるで最初から知っているかのようにその日の天気を言い当てるというものだ。記憶にある限り、彼女が天気を間違えたことはない。

 インターネットや新聞などで天気を調べている雰囲気もなく、またテレビの天気予報が間違えていた時も彼女は天気を間違えたことはない。

 一度理由を彼女に聞いてみたが、少し悲しそうに微笑むだけで答えてはくれなかった。


 朝食を食べ終わりごちそうさまと唱和し、彼女と目を合わせる。


「今日は晴れよ。傘はいらないわ」


 彼女はそう言い、片付けを始めた。彼女の天気予報に全幅の信頼を置いているはずなのになぜだか窓の外が気になって、不安になって、返事も返さずに窓際へと歩く。


 

 雨が、降っていた。

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