ケイオスボーイ ー中ー

「…でさ、昨日の『5-MeOゴメオある?』とか言ってきたあのピアスだらけの女、足にパイソン柄のタトゥースミ入ってて、しかも蛇舌スプリット・タンでさ。どんだけ蛇が好きなんだよって話。こいつ財布にも蛇の皮とか入れてんじゃねえのとか思ってさ、婆ちゃんの家を思い出したんだよ。あるじゃんその、脱皮した、金運の…」

蛇頭スネークヘッドの構成員かもよ?薬絡みの」

「まじか。俺、命狙われてる?」

「蛇って縁起が良いのか悪いのかよく分かんねえよな。金運とか再生とか言うけど、聖書なんかじゃ邪悪な存在だろ。そもそも爬虫類の見た目とか動きって大多数にとっちゃ気持ち悪いのに、それをカワイイとか言う時点で美意識がぶっ飛んでる」

「そうそう、なんつーか感性が狂おしいっていうのかなあ。は結構いいんだけどな。没頭型でさ。さすがに蛇の目のコンタクトとか着けてはなかったけど、背中に爪立てられて『首絞めて』って言われて、したら顔が真っ赤になったから変身して丸呑みされんじゃねーかとか思って、しかも婆ちゃんの面影がダブってバッド入った挙句、気づいたら女の腹が俺の鼻血まみれでパニックよ」

「あんま野外では居ないタイプだよな。ああいう女は電子音が炸裂してるようなイベントがホームだろ。タキオミの『INK & SMOKE』とか。レザースタッズまみれのSM嬢みたいなカッコしてさ。そういや昔、ケツに指突っ込まれた事あったな」

「こういう野外フェスはヒッピーみたいな、顔は地味で髪は派手って女がテントの中でMDMAバツWEEDキメてってる印象だよ。それか普通にアルコール。いつもの、コカインとVIPルームとはまた違った趣で新鮮だけど」

「イベントの時に種付けされて出来た子供ってパリピになるのかな?90年代半ばくらいに生まれた子供って、ジュリアナ・チルドレンって言うんだろ?」

「なんだよそれ、初めて聞いたぜ。てか自分がクラブのトイレでとか死にたくなるな?せめて高級旅館がいいぜ。有馬温泉とかのよ?そろそろ日本のフェスでもコンドームを配布したほうがいいのかもな」

「オリンピックの選手村かよ。リオのカーニバルか?」

「いや、むしろNN推奨したほうが少子化対策になるか?どう思う?」

「シングルマザー増えるだけじゃね?」

「世の中セックス以外の娯楽が多すぎるってのも問題だよな。もし胎教で…」

「そういやブランドもんに使われるヘビ革の生産現場ってのを動画で見てさ…」

『おお!』

『おう!』

 金子、湯賀そして柴は、キャンプサイトの入り口付近で我妻と宇佐に合流した。めいめいに拳を突き合わせたり、肩を抱いたりして再会を喜ぶ。

「久しぶりだな、サブカルの王様。ちょうどお前の話をしてたところさ。調子はどうだ?」と、明らかに脳波のクロック数が上がっての目つきをした我妻が、湯賀の両肩を鷲掴みして前後に揺さぶった。

「おー…おう、元気、元気だよ。お前は?楽しんでるか?」と湯賀もので、我妻の脇腹を指で突くと、くすぐったそうに身を引いた。

「まあまあだな。十人くらいとhook upしたかな」という我妻を宇佐が小突いて、

「早朝からヨガやってる集団がいてさ、近づいて抱きついたりするんだぜ?キャッ!とか言われて笑ってやがんの」

「ただの変質者じゃねーか。セキュリティは何やってんだ」

「カーマ・スートラの秘儀を施してやったのさ。があんだよ。女を気持ちよくさせるスイッチが」

「ってか、あのタイツかパンツか知らねーけど、そそるよな?」柴が割り込む。

「テントにもいきなり入っていくんだよ。ここが良さそう、とか言って。どういう嗅覚だよって」

「漫画とかに出てくる、ニオイで処女かどうか分かる変態キャラみたいだな」

「大してイイ女はいないが、たまにはこういう場所で女を抱くってのも酔狂ってもんだ」と我妻は両手を広げて一回転する。「今年はアウトドア活動も積極的にやってみるかな?」

「いいな。登山してキメたら新たな扉が開いたりして、Q.O.L.の向上に繋がるみたいな話をしてたんだよ」と湯賀が頷く。「環境の変化と順応は経験値アップ。世界や視野を広げることは知的好奇心の探求でもあり、人類の成長と進化の原動力だ」

「まあ、俺は山ガールってやつも一度味わってみたいだけだけど」と我妻は笑う。「標高三千メートルで全裸ファックとか、バカなAVみたいで面白そうだぜ。ヤッホーなんつってさ」

「お前ってセックス依存症ってやつなの?そういうエピソードばっか聞くけど」金子が表情を歪めて尋ねる。

「人聞きが悪いな。病気みたいに言うなよ。依存症ってのは『わかっちゃいるけどやめられない』状態のことだぜ。根本的に違うかんな」

「そうじゃねーのかよ?違いがよく分かんねえよ」

「そもそもセックス依存症ってのは、単純な性欲の強さとはそこまで関係がないのさ。アル中もギャンブル狂もメンヘラ女の自傷リストカットも、あらゆる依存症は精神的な部分に原因があるもんさ。色んなものを失って、身を滅ぼすような事態と引き換えにしても尚、やめられないって症状のことだからな」

「お前はそうじゃないのかよ」

「違うね。それが無いと生きていけないとか、他の事が手につかないとか、そんな事は無いからさ。数ある娯楽の一つってだけ。ストレス解消に役立つこともあるが、せいぜい食後のタバコ一服、午後の紅茶afternoon teaくらいのもんだ。無けりゃ無いで無問題モウマンタイ。むしろ俺が愛を振りまいているのさ。恋煩いlovesick子猫pussy女豹cougarたち、女狐vixenそれに雌豚bitchどもにもな」

「ご高尚なことだ」と金子は笑う。「物は言い様だぜ」

「いずれにしろ、お前はラッキーな奴だ」と柴が言う。「簡単にセックスが手に入るんだもんな。ルックスやコミュ力、あるいは財力が伴わないのに性欲だけはすごい奴なんてレイプ犯しか道はないもんな」柴の意見に、我妻は欧米人がよくやる"I don't know"の仕草をとる。

「特に違法の性癖持ちは大変だよな。ハードなSMやDV、痴漢とか盗撮とかとかさ。どうやってもこの世の地獄だ。あんなのセラピー程度じゃ治らねえし、犠牲者も出る。もう去勢するしかない」と湯賀。

「性犯罪者も予備軍も、現世は諦めてさっさとくたばるべきだぜ」と柴が息巻く。「女を泣かすような連中がこの世で一番許せねえんだ」

「これは名誉フェミニスト。なんちゃら褒賞を授与すべき発言だ」と金子がちゃかすように言う。

「依存症なのかどうか分からねーが、セックスに異常に執着する奴っているよな。合コンとかクラブでもさ、がっつき方が尋常じゃない奴いるだろ?どんだけヤリたいんだよっていう。酔い潰したり土下座してでも、今日ヤレなきゃ死ぬんだってくらいの勢いの奴さ」という柴の疑問に対し、

「そいつは単に性欲が強すぎる猿野郎パターンだろ。射精したらすぐに冷めてアホ面で眠りこけるチンパンジーだ。おしなべて知能が低い」と湯賀が答える。「あるいは低すぎて、境界知能ボーダーの可能性もあるけどな。性欲を全くコントロールできなかったり、善悪の判断もできないタイプかもしれん。そこまでくると障害disorderになっちゃうからな。線引きが難しい」

「体調とか相手にもよるから、事後に眠りこけるくらいならマシだが、さっさと帰れよとか言っちゃうレベルなら何かの病気だな」と金子。

までの過程に全精力を注ぎ込んでいるというケースもあるかもな」と宇佐も意見を言う。「駆け引きが楽しいわけだから、釣り上げた瞬間に目的達成として興味を無くすっていう」

「まあ釣りフィッシングってそうだもんな。キャッチ&リリース精神」

「脱がした時に、顔の割にスタイル悪いなーとかってなる時あるぜ。あと、めちゃくちゃ剛毛だったり、グロ乳首だったり、クソだせえタトゥーが入ってたりな」と我妻。「単純に萎えるパターン」

「女目線でもあるだろうな。『S.A.T.C.』で見たぜ。イケメンの彼氏が出来たのにチンコが小さかったって泣いてるシーン」と湯賀。「確かそのあと、お前のマンコがガバガバなんじゃ?って反論されてたけど」

「カラダの相性ってそんな大事なのかね?プラトニックじゃいかんのか?」と訊く柴に対して金子は、

「長く付き合っていくなら、相性が良いに越したことはないだろ。夜の営みは夫婦円満の秘訣って言うじゃねえか。そもそもプラトニックの内情は単なるヤセ我慢か不能ってだけ」と言い切る。柴と湯賀は複雑な表情をする。「…やるか、やらないか。そういう葛藤とか駆け引きとか、男女関係って面倒だよな。知らなきゃよかった、ヤらなきゃお互い良い関係のままでいられたのに、ってこともある。いまだに相手とかいるもんな」

「身内に手を出すからダメなんだろ」と宇佐が指摘する。「賭けギャンブルだよな。近しい男女が一度関係を持ってしまったら、その後は進展するか後退するしかない。キープhold 'emしといて全く今まで通りステイってことは絶対にあり得ないのさ。伸るか反るかwin or lose、レイズか降りるフォールドか」

「蛙化現象だっけ?女によくある、両思いになった途端に冷めるっていう。また違うのかそれは」と柴。

「自己肯定感の低さゆえに他者からの好意に不信感を抱くって場合と、単に理想が高すぎて付き合ってからの現実に幻滅するというパターンがあるな」と金子が分析する。

「不倫しちゃう理由はそこだよな。生活感を感じなくて、いいとこばっかり見ていられる。そもそも裏切り行為だから利害の一致だけで信頼関係なんてのも必要無いし。ある程度の距離感って大事だよな。いくらどれだけ好きでもさ。誰にだって秘密はあるし。知らない方が良いこともある」と宇佐が経験談を語るように言う。

「好きだの愛してるだの、そういう感情は実は単なる性欲が由来であることが多いからな。蜜月ハネムーンも過ぎて色んな要因で性欲が薄れてきたら一気に冷え込むんだろう。ロマンチックだった恋愛も、炊事・洗濯・掃除なんて普段の生活を共にしてると、セックスをも義務と捉えてしまうんだろうな。不道徳インモラルを煽るテレビや雑誌も悪いぜ。レスとか不妊治療とかいう話が多いのは現代病かもしれん」と湯賀がそういう内容の記事を読んだことを思い出して言う。

「我が県の離婚率なんて全国ワースト3位の45%だぜ。これ何が原因なんだよ?性欲どうこうだけの話じゃないだろ」柴が今調べた情報を伝える。「離婚の原因って、基本的には金の問題なんだな。浮気とかモラハラもあるだろうけど」

「金が世の中の全てではないが、ほとんどの問題は金で解決できるからな。金は力だ。愛よりよっぽど役に立つ」

「そりゃ仲の良い夫婦も多いだろうけどよ?俺たちの周りに母子家庭が多かったり家庭環境が悪いからって、それを一般的と考えるのは良くない。マクロな視点で考察しないとダメだぜ。とはいえ、ほぼ半数が離婚するって尋常じゃないよな」と湯賀が言うと、金子が、

「何千万って夫婦と家庭があれば、その数だけ事情があるもんだ。俺たちみたいな独身には理解の及ばないところもあるさ。俺はとにかくガキが嫌いだから結婚願望は無い。うちの甥っ子だって、ツラがクソ兄貴そっくりで、ちっとも可愛くなんかねえ。けど基本的に人間には遺伝子を残すようにとインプットされてるんだろ。それに弱ったり寂しかったりする時もある。だからやっちまうんだ」

「しかしなんで貧しい家庭に限って大家族なんだろうな」我妻が首をひねる。

「まあパートナー同士のセックスって基本タダだからな。コスパいい娯楽なんじゃね?」と宇佐。「しかもゴムも着けねえし。アフリカとかそうだよな?」

「だからセックスの相性が良ければ長続きするって結論になるんじゃないのか?

金は無くとも夫婦円満。やっぱ身体の相性って大事なんだよ」と金子が持論の正当性を主張する。

「バカほど繁殖力も高いってのもあるかな。低所得層はバカも多いだろうし」と毒づく湯賀に対して、

「偏見がすげえな。殿様とか大富豪もいるだろうよ」と柴。

「そんなの後継ぎ問題とかそういうのだろ。次元が違うじゃねえか。セックスしか頭にねえ奴ってのは人間として低レベルなんだよ。賢い人間は一時的な性欲の解消より、精神面での充足を求めるのさ。自分の幸福もそうだが、他人の幸福も願うような」

「崇高な意識の持ち主だ。寄付もしてるみたいだしな。お前のような人間が政治家になるべきだぜ」と金子は皮肉っぽく言う。「けど偉そうなこと言って、お前は風俗に行きまくるじゃねえか」と金子が湯賀に指摘すると、

「単に生理的欲求の解消だ。煮詰まった時の気分転換とかに必要なんだよ。それにそういう男女の面倒くせえ部分を排除したいから、俺は風俗にしかいかねえんだ。別に愛を求めてるわけじゃない」と反論する。「そして優れた風俗嬢は最早セラピストの域でもある。国家資格にしてもいいくらいだ。世の中の歪んだ奴らの欲望の受け皿になってくれている。まともには受け入れられ難い性癖の一つや二つ、誰にだってあるもんだろ。ヌキたいだけじゃなくて、俺はに行ってるんだよ」全員なんとなく曖昧に頷く。「俺が政治家になったら、生活保護とか後期高齢者の医療費とか議員報酬とかぶった切って、風俗に国保を使えるようにするぜ。支持率爆上げだろ」

「風俗っていうかさ、漫画とか都市伝説によく出てくるような、金持ち専用の違法デートクラブみたいな店って本当にあるのか?プチエンジェル事件とか系のやつ」

「あるよ。まあ枕営業とか援助的なやつとか、風営法の許可とか取ってない高級デリヘルみたいな業態な。今じゃ店舗型の風俗って新規営業許可おりないから。闇の深い芸能界と掛け合わせてる」と柴の質問にも続けて答える。「そういうのが表と裏の世界で色々と繋がってるわけだよ。人間が人間である限り、性と食をテーマにした商売は無くなりはしないからな」

「ゴシップ記者も脱帽の知識量だな。また東京行こうぜ」と金子が湯賀の肩を叩いて揉む。

「まあ、そういうところで金にモノをいわせて女を買うタイプの男は、性欲というよりは復讐リベンジだろうな。青春コンプレックスで思い出迷子、ガリ勉で女にモテなくてバカにされて歪んじまった人種さ。金の前に跪かせて悦に入ってやがるのさ」

「変な仮面つけた連中が酒を片手に眺めてるようなやつか。想像するだけで虫酸が走るぜ」

「仕事として性産業に従事している場合は本意では無いだろうが」と我妻は前置きして、「女でも大人になってから綺麗になって覚醒して、性の喜びと承認欲求を爆発させる奴も多いんだぜ。暗黒時代を振り払うように、手っ取り早くセックスをその手段に選ぶからな。そういう、昔はモテなかったタイプの女は狙い目だぞ」

「それでセックスが好きになるケースはいいが、その逆のメンヘラは哀れだな。性に嫌悪感があるのに、それしか自分を求められて認めてもらう術を知らない。カラダを捧げる自己犠牲を美徳と思い込んで、構って欲しいのと放っとして欲しい双極状態で病んじまう」と湯賀が首を振る。「で、お決まりの整形とリストカットだ。まあ気持ちは俺もよく解るだけにシンパシーを感じる」

「お前もメンヘラ気質だもんな。頼むからメンヘラ同士で付き合ったりするなよ。先が見えちゃうからな」金子が両手の平を合わせる。

「メンヘラはチョロいが手を出すと後が厄介だ。遊ぶなら人妻がベストだぜ」

「一盗二婢なんちゃらって言葉もあるしな。不道徳なほど興奮するんだろ?俺は人妻とか特に子持ちは無理なんだが」と我妻を遮り湯賀が言う。

「そうなのか?スリルとかリスクの話じゃなくて、単純にヤリやすいって話だけどな。レスだったりすると尚更。女として見てもらえなくなってるからさ、褒めて褒めて、自信と尊厳を取り戻させてあげればイチのコロさ」と我妻が指でよくわからないジェスチャーをする。

「いっときデパートを狩場にしてたときあったよな」と宇佐が笑う。「デパ地下よりブランド品のフロアのほうが良かったりしてな?」

「あったあった。旦那が年上だったり忙しかったりしてな?一階にいる美容部員BAなんかも結構いったな」

「そう考えるとSNSって本当に便利になったよな。俺をはじめナンパなんて苦手な奴も多い。需要と供給のマッチングって結構ハードル高いからな。今じゃそれが手軽で簡単になった」と湯賀。「技術的特異点シンギュラリティの到来で人間の仕事が無くなるなんていうけど、色んな仲介屋ブローカーなんて奴らの存在価値も無くなるだろうな」

「でもハズレも多いけどな。風俗のと同じでさ。なんで実際会った時にガッカリされるかもしれないのに、加工とかするかね?」と我妻がため息をつく。「俺なら期待ハズレと思われたり、ガッカリされるってのが我慢できないよ。結局ナンパするのが正義だぜ」

「それは強者ツワモノの理屈だ。俺たちハイエナはライオンの縄張りでオコボレを頂戴するしかないのさ」と宇佐がやや自虐的に言う。「まあSNSも悪くはないぜ。写真と文章である程度の判断もできる」

「見分け方は?」金子が質問すると、宇佐が答える。

「必要以上に謙虚だったり、行動がオドオドしてたり、まあなんとなく特徴ってもんがあるぜ。ちなみに俺の経験上の攻略法なんだが、犬派か猫派かを聞くといい」と人差し指を立てて話し始めると、全員が聞き耳を立てた。「まず猫好きの女は受け身でM気質が多い。冷たくされても怒らずに、たまに見せられる優しさに喜びを見出してしまう報われない悲劇のヒロインだ。自己評価が低いわりに夢見がちな傾向があるから、距離を徐々に縮めて黙って押し倒せばイケる」

「犬好きはどうなんだよ」と金子が聞くと、

「犬好きは自己愛と承認欲求が強い。褒めちぎって押しまくれ。機嫌良くさせれば大丈夫だ」

「両方好きな場合は?」

「博愛主義者だから土下座して頼み込めばイケる。頼まれると断れない性格だ」

「なんだよそれ。とにかく押せってことかよ」

「動物が嫌いなパターンもあるだろ?」

「そういう女や蛇に憧れてるような女は上級者向けだ。お前には荷が重い」と言われると、金子は鼻で笑った。

「結局、女はカラダを許す言い訳が自分で欲しいだけなんだ。後ろめたさや罪悪感を取り払ってやるのさ。頼まれたから仕方なく抱かれたんだって気にさせることが大事だ。押せばOK」

「そんなもんかね」と金子が呆れるように笑う。「さっき言ってたチンパン野郎と同類だな」

「好きになった人がタイプです、なんてホザく女が多いだろ。結局そういう事だよ。ブチこみさえすりゃ後は勝手に惚れてくれる。もっとも粗チン野郎じゃ門前払いだけどな」湯賀は話を聞きながら大きなため息をつく。

「へえ、なんか色々考えてやってんだな」と我妻が感心した様子で頷く。「まあ、こいつチンコでけーしな」と宇佐の股間に目線をやる。

「てかさ、お前ら一緒にナンパしてるわけだろ?」と柴が目を見開いて我妻と宇佐に問いかける。「流れによっちゃ4Pとかになるわけ?」その質問に、二人は当然というふうに頷く。

「俺、友達ツレがヤってる横でなんか気まずくてヤレないわ。すら共有するのイヤなのに」

「中学生くらいの時に、輪になってオナニーサークルジャークとかしなかった?」と宇佐が聞いた。

「しねえよ。オナニーも、裸で腰を振ってるのも、他人に見られるの恥ずかしいじゃん?だから俺はクスリもやりたくねえんだよ。気持ちよくなってる姿って、客観的に見ると間抜けじゃん?」という柴の意見に、

「まあ、解る気がするな」と金子が答えた。「酒はいいのかよ」

「酒は別に、アヘアヘ気持ち良くなってるって感じじゃねえだろ」

「確かにひとりだけシラフだと冷めちまうよな。だから気持ちよくなる時は、好きな相手と、みんなで一緒にハイになるんだぜ。そう決まってるんだ」我妻が説明する。「それに、そういうイカれた状況も共有できてこその親友ってもんだとは思わないか?男同士が仲良くなるためには、三日一緒に仕事をするか、三時間一緒に酒を飲むか、三十分一緒に女を抱く、って言うだろ」

「初耳だし、いくら仲良くても超えちゃいけない一線ってあるだろ」と柴は言い返す。

「そうかなあ。俺たち、童貞喪失ロストチェリーが同じ日の同じ相手だからなあ」という宇佐に、我妻が半笑いで頷く。

「そうか、お前らって体育会系なんだよな、ノリが、そもそも」

「義兄弟みたいなもんかもな。関羽と張飛みたいな」

「まあとにかく、LOVE & PEACEの精神だぜ。旅の恥は掻き捨て。正攻法じゃ時間がかかる。でも酒とネタと音楽があればすぐ門が開く。その時、その状況を楽しむべきさ」我妻が柴の肩を叩く。

「お前はバンドマンらしからぬ潔癖さというか、変に真面目すぎるところがある」と宇佐も柴の肩を叩く。「我妻だって大学に行ってからだぜ。地元にいた頃はモテてたけど荒れた感じじゃなかっただろ?初心ウブだったのさ。マジで都会の暮らしは田舎者を狂わせるよなぁ。群集心理や同調圧力ってやつさ。価値観や常識を覆されて、気づけば心を失ってる。奴も悲しきモンスターなのさ」と小声で囁く。

「それにしても野外フェスがナンパスポットと化していたとは知らなかったぜ。都市伝説だと思ってた」金子が首を振った。

「一部じゃ昔から有名な話だ」と湯賀。「みんな浮かれるからな」

「違う違う。そうじゃない」と宇佐が笑う。「我妻だから、そうなるんだ」

「まあ二度と会うこともないだろうしな。一期一会ってやつか」柴が唸る。

「一生に一回しか会わないだろうから、最高の出会いだったと思えるように心尽くしする、っていう意味なんだぜ。俺はワンナイトでも全力さ」と金子。

「問題は、ワンナイトのつもりでも、相手が虜になっちゃうってことなんだよな。『次いつ会えるの?』なんて言われちゃって」我妻が得意気に言う。

「はは」と湯賀は笑う。「まあ何にせよ、それもまた楽しみ方の一つだ。セックス・ドラッグ・ロックンロールだ」

 この二人はまさに陰と陽というべき性格の不一致ゆえに普段の絡みは少なく、過去に一悶着もあったが、今日に至ってはわだかまりも無いように見えた。一同はそんな二人の和やかな様子を見て安心していた。内情は湯賀が一方的に我妻に苦手意識があるのだが、それは生まれた時から勝ち組の人間に対するルサンチマンに他なかった。いくらハングリー精神を奮い立たせて成功を掴んだとしても、環境と遺伝子という越えられない圧倒的な壁、世の中に散見される生まれついての勝ち組達の存在が自己実現の邪魔をしていた。

 だが、まだ彼の心を鎮めていられるのは、我妻が自分は選ばれし者エリートであると自覚していることだ。仮にもし、彼が無意識に振りまく色気フェロモン魅力チャームが、異性や時には同性ですらも惹き付けて、彼がそうして他人を虜にし愛されることに気づいてすらおらず、自分の魅力に無頓着だったとしたら、そのように神が完全に依怙贔屓したであろう純真無垢な美しい人間が身近に存在することに対して、悔しくて憎くて堪らなかっただろうから。人間よりも悪魔に近い存在であると解釈することで納得がいった。

「とにかくさ、大事なのは愛だよ、愛。性や金なんて互いに搾取し合うものじゃあない。男と女は対なるもの。お互いに支え合わなきゃ」我妻が屈託のない笑顔で言う。「俺も旅の途中なのさ。探しているんだよ。黄金の心コラソン・デ・オロを持った運命の相手ひとをさ」

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