グリーン・ホワイト・クリスタル     ー金子ー

 髭は剃ったし、鼻パックもしたし、眉毛も整えた。髪は帽子かぶるとして…なかなか男前じゃないか。

 俺は鏡に映った自分にニヤリと微笑みかけた。それから角度を変えてみたり、目を見開いたり口角を上げたり色々と表情を変えてみる。表情筋をほぐすためだよ。あ、香水を忘れてたな…。

 柴の言うことにも一理ある。人生が充実しているかどうかの判断材料の一つとして、女の存在は確かに大きい。別に彼女が欲しいという訳じゃ無いが、セックスは必要だ。罪悪感を伴わないセックスが。夫婦円満の秘訣も性生活の充実だというし、きっと人間にとって精神衛生上いいもんなんだろうな。ライフハックの一種と言っていいだろう。

 とはいえ、何で合コンごときに気合いを入れてるのか自分でもよく分からんが、あまりそれについては考えないようにした。それより、あの自己嫌悪の一種、バッカじゃねーの俺症候群が襲ってくる前に、早めに春馬ハルマの家に行こう。どんな女が来るのかも分からんっていうのに勝負パンツまで履いちゃって、マジでバカだな。

 うわやべえ、もう始まった。

 春馬の家は俺の部屋からそんなに遠くない距離だ。ただし家賃は恐らく三倍ほど違う。ニューヨークとかほど顕著じゃないが、都会は一ブロック変わるだけで土地の価格が全然違うもんだ。コインパーキングの料金を見りゃわかる。だが不思議なことに一等地に位置していながら在日外国人が多いエリアなんかは、妙にに安かったりする。結局、治安に関係してるんだろうな。

 俺の学生時代からの数少ない友人である春馬の家は、セキュリティの行き届いたオートロックの小綺麗なマンション。学生時代からここに住んでいる。当時はあんまり考えてもみなかったが、学生にしては相当良い物件だ。奴ももう社会人になってはいるが、今も引っ越さずにいることを考えたら、もしかしたら賃貸じゃないのかもしれないな。

 部屋番号を押し、友人を呼び出す。出ない。カメラに顔を近づけ、もう一回。

「はーい」

「NHKです」

「降りるから待ってて」俺の気の利いたボケを無視し、ヤツは間も無くエントランスに降りてきた。

「…で、どんなの来んの?」俺はまずそれを知りたかった。春馬はSNSの画像を俺に見せてきた。

「この水着の二人と…」別の画面へ。「こっちの、この真ん中」沖縄かハワイか、どうせその辺に旅行に行った時の写真だろう。サングラスかけてない写真は無いのかよ。見事に三人とも特徴がない。チャラそうな外人と一緒に写ってる写真もあった。『片手にビール、日焼けしたオデコに添えて』。『逆ピースサイン、口元に寄せたファック仕立て』。『本日の気まぐれアロハサイン』。どうも苦手な手合いだ。こういうポカホンタスが多いから白人野郎ホワイトトラッシュがつけあがるんだよ。

「他の写真ないの?」春馬は別の写真も見せてはくれたが、それはそれで加工が凄くて全然わからない。でもこれがベストショットなんだろ。この辺の駆け引きが難しいよな。ていうかさ、そもそもこういうジャンルの女は俺みてーなのはタイプじゃないだろ。類は友を呼ぶってんじゃないけど、だいたい一緒に並んでて違和感ない同士みたいなのがくっつくもんだろ。まあいい、春馬に全部任せよう。俺もそもそも何かを期待してるっていうわけじゃない。いや、じゃあ、何の為に今日があるんだ?動機からして分かんなくなってきたぞ。

「もう一人、オマエの知らねえ奴連れて行くけど。いいよな」

「そいつは俺の事知ってんの?」春馬は首を傾げた。

「いちおう話しといたけど、まあコミュ力ハンパない奴だから大丈夫よ」コミュ力というが、要はナレナレしい奴ってことだ。俺は人見知りなわけでもないけど、他人に心を開くことはしない。

 春馬の車に乗り込んだ。四つの輪のエンブレム。親の顔をぜひ拝見したいもんだ。タクシーの方が絶対便利なのに、自慢したいがためだけにわざわざ車で行くんだろうな。

「トールちゃんっていうんだけど」春馬はナビを操作する。「その、もう一人のツレ、迎えに行ってから店に行くからね。女とは店で合流」

「幹事とお前が友達とかなの?」

「友達ってゆーか、友達の友達かな。初対面だよ全員」俺はそれを聞いて頷いておいた。「メシ食って、その後は流れでカラオケとかかな。同じビルの中にあんだよ」俺はカラオケは嫌いだ。自分に酔えるタイプじゃないから。歌が下手なわけじゃない。ボーカルやってたくらいだからな。まあスイッチが必要なんだ。

「まぁ、なんでもいいや。任せるよ」

 そのトールちゃんとかいう奴を迎えにしばらく南下する。まあ割とゲットーなエリアだな。どういう繋がりなんだろうと考えてみる。まあ、どうせクラブ関係なんだろうな。

 家の前に到着すると、例の男はすでに外に出て待っていて、春馬が合図をすると車に乗り込んできた。

「こちら金子くん。こちらトールちゃん」と春馬が紹介をする。笑顔で握手を求められる。アメリカナイズされた奴だ。やっぱりDJとか、イベントオーガナイザーとかそういう類の人種だろうな。奴らはみんなそうする。俺は初対面で笑顔で握手してくるヤツを絶対に信じない。

 というワケで、新しい仲間誕生。そいつはすでにテンションが高かった。きっと合コンとか好きな人種なんだろうな。パーティー編成三人になって、俺達は一路、繁華街を目指した。バイト先の近くだが、目的地の店は知らない。腐る程店があるからな。雑居ビルの全フロアにビッシリ飲食店。地元じゃ考えられない光景だ。それでもそれなりに経営が成り立ってるってことは、それだけすげえ数の人間が動いてるってことなんだよな。俺の知らないところでさ。

 通路故障なく目的地に着き、最寄りのパーキングに停め、春馬が店へと案内する。すげえビルだ。一見すると飲食店が入っているような感じではなく、ホテルのようだ。俺は努めてキョロキョロしないように気をつけて、いかにも堂々と店内へ入る。

「お連れ様はもうお待ちです」どう見ても飲んで騒ぐような雰囲気の店じゃないが、俺たちは個室に通された。おいVIPかよ。そんな金持ってきてねーぞ。

 ドアは目の前。本日一番の緊張の瞬間だ。春馬を先頭に、恐る恐る中に入る。運命の一瞬、出会いのドラマ。いや、大袈裟だな。顔を合わせ、双方が一瞬で品定めをし合う。第一印象は二秒で決まるっていうしな。もうこの時点で勝負はついてるようなもんだ。しかし春馬君は、高級店の個室と、アペリティフにモエ・シャンドンというワイルドカードを事前に切ってある。事は俺たちの有利に進む…。というか、普通に可愛い。なかなかのレベルの高さ。中の上から上の下くらいのラインナップ。俺があれこれ思考を巡らせている間に、すでに他の連中は打ち解けているようだった。恐ろしい。これがコミュ力か。

「先に頂いてまーす」と女の一人が言う。さんざん写真を撮りまくったであろう携帯をテーブルの上に置き、女達は上機嫌のようだった。

「とりあえず乾杯しよ」トールが言い、俺たちは酒をオーダーした。それを待つ間、幹事女のリードで自己紹介。俺はもう帰りたい。

「え?あ、えっと、金子す」ぼーっとしてて他の奴の話を聞いてなかった。春馬が俺を小突いて、

「こいつ何かカッコつけてるけど、ジッサイ変態だからよ。気ぃつけてな?」と笑って言った。ええ〜、と女も引いてるのか笑ってるのかよくわからないリアクション。

「…俺をいじんな」俺は小突き返した。そんなこんなで全員が名を名乗ったが、頭に全く入ってこない。

「てゆーか、飲も飲も」酒が来た。賛成だ。とりあえず酔わないと。勢い、よ。

 俺は食べ物には手をつけず、ひたすらビールを流し込んだ。ただただアルコールに頼り、しばらくすると不思議なもんで段々と空気に違和感を感じなくなっていた。たまに何かを聞かれて受け答えしていた。女にも何か話しかけようとは思うが、特に興味も湧かないし、何を聞けばいいのか分からない。俺はずっと端っこの席で飲み続けてるんだけども、俺以外の奴らは席を移動したりしてる。トールがトイレに行って、帰ってきてから、一番背が高い女…名前忘れた…の隣に座った。今の位置関係は、端に俺、隣に幹事の女、その隣に春馬。向かい側がトールとその両サイドに女。銀のトレイに乗せられた人数分のテキーラが来て、春馬が言う。

「さあ、これがゲーム・プランだ」と全員に酒を配る。「一杯飲み干すごとに、お互いの呼び方を変えていく」あ、これなんか覚えてるぞ…。「まだ苗字に君とかチャン付けで呼び合ってるけど、名前をどう呼ぶかで親しみ方が変わるからね!まずこの一杯を飲み干したら、下の名前で呼び合う。そのまた次の一杯で、友達に呼ばれてるニックネームで呼び合う。それから恋人に呼ばれてる名前や、家族に呼ばれてる名前でお互いを呼び合うんだ。そこまでくればもうすっかり、昔からの友達のようになる」そうだ、春馬と初めて会った時、俺は生まれて初めて記憶を無くすまで飲んだんだ。それまでは、昨日のことは酔って覚えていないとか言う奴は、そう言えば愚行の免罪符になると思ってフカシてるんだろうと思っていたが、実際に経験してみると本当に覚えてないもんなんだよな。びっくりしたよ。そしてまあ、確かにこの飲み方はすぐ仲良くなれる。

「えー、じゃあ、その後は?」女の一人が聞いた。

「五分ごとにおかわりが来る。それから気を失うまで」春馬がグラスを掲げる。「さあ、ショー・ダウン」

 そして全員が一気で飲み干し、テーブルに空のグラスを叩きつける。顔を歪ませて歓声が溢れる。ゲームマスターの目論見通り、彼らの距離は一気に縮まっている。俺はというと会計の心配をしてる。ケチなことを言うわけじゃないが…そんなに手持ちが無い。俺はそもそも居酒屋とかに行くと思ってたんだ。まあいい…春馬が『アメリカン・サイコ』のクリスチャン・ベールみたいにアメックスプラチナを出してくれるだろう。そう思っておこう。持つべきものはリッチな友人だ。

 春馬とトールは更にテンションが上がってきている様子で、なんか大声ででっけえリアクションをしてる。女も同じ音量ではしゃぐ。俺はノリについていけない。これが普通なのか?普通こうなのか?

 その間、一人が俺の方に寄ってきて、俺はその娘と二秒で内容を忘れそうな他愛のない話をしていた。話をしてる間も俺はずっと、胸の谷間を覗き込んでいた。極力さりげなく。女が脚を組み替えた。俺は女の視線を感じると、さりげなく表情を作った。今日、鏡の前で見せたあの表情だ。それが自分で分かったから自分にムカついた。もうダメだ。ついに症候群が襲ってきたのか、みんな盛り上がってる中、何か場違いな感じと不愉快な感じがしてきた。

 トールが女の腰に腕を回して、真っ赤な顔で耳元に顔を近づけている。

「近い近い!ちょっと酔いすぎでしょ~」女はそう言って押しのけたけど、笑ってる。どうだってよさそうだ。初対面なのに皆、凄いな。目が合った。向こうは赤らんだ顔に虚ろな笑みを浮かべてる。俺はついクセで、無意識的に目を逸らしてしまった。恥ずかしくて笑ったのかな…それか、…もしか…ってな風に深読みすんのも悪いクセだ。酒…いや、クスリ不足だ。まだこんな事考えてるようじゃ。集中力を上げろ。心の壁を壊せ。ストレスフリーになるんだ。あの化学物質は別に人を天才に変える訳じゃあない。ただ働き者に変えるだけだ。用法と用量を守って使用する分には言葉通り、薬なんだぜ。

 春馬が俺を手招きした。俺はそっちへ行った。

「いけるっしょあのコ」下卑た笑い。

「クリスタル持ってる?」俺は耳打ちする。春馬は首を振る。

「緑なら」

「別にいいや」奴の肩を叩いて立ち上がった。「白いのあるし」

 俺は我妻から貰った粉末を摂取しにトイレに立った。トイレに入って、でかい鏡を見ると、アルコールのせいで顔が、特に目の周りが真っ赤になってて、いつもの事ながら自分の顔がヘンに思えてイヤになった。一重まぶたが更に腫れぼったくなっていて、ポケットに挿してたレイバンを掛けた。

 洋式トイレの便座に座り、コインケースの中から包みを取りだそうとした。サングラスのせいで視界が悪いからまた外して、胸ポケにしまおうとした時、包みを落としてしまった。おおいに焦ったが、中身は無事だ。ほっとした。くそ。物を置ける場所がない。内股の無様な格好のままヒザの上で意識を最大に集中して、タバコの箱の上にどうにかラインを作った。取り出したるは財布に隠れているイルミナティ。プロビデンスの目と目を合わせ、一ドル札を丸めてストローを作る。注射や炙りなんてダメだぜ。粋じゃあない。鼻から一気に吸い込んで、一瞬の、心地よい、この喉に落ちる感触を味わった。おお、咽せた。

 頭の芯にツーンとくる感覚と体温の上昇を瞬時に感じた。すぐにいい気分になって、外に出て鏡を見た。それから、どの角度が一番イケてるかチェックする…。『ズッ!』と俺は鼻をすする。ん?んん。こめかみにキンときた。「っあ~…」…おぉ~…ドアどこだドア……あー…あった…ハハハ…大丈夫。ちゃんと頭は回ってる。目がパチパチギンギンするぜ。

「大丈夫?」トイレから出たら、女がドアの所にいてた。名前…出てこない…びびった。「吐いてるのかと」このコ…けっこう好みかも…ってかカワイイ…いや…どうかな…暗いトコとか…照明次第で可愛く見えたりするしな……。しかしここは眩しい。めちゃくちゃ眩しい。あれ、俺はサングラスをかけているよな?『ズッ!』おあぁ。

「サングラスかけてるし」俺を指差す。

「俺の心が読めるのか?」

「はっ?」と女は言って笑う。つーかよく見るとキャラ濃いな…こいつ…ショウガ色の髪。濃い化粧、スパークリーなアウトフィット…うん、こういうタイプは嫌いじゃない…ほら…だって、すぐに……。

「大丈夫。大丈夫。全然」俺はヘラヘラ笑ってるな。アルコールとアンフェタミンの相乗効果で足元が…千鳥足って奴だ。女の肩をポンポン叩いた。さっきまでとは違ってナレナレしく。効果テキメンだぜ。性欲はあらゆる原動力さ。

 すると女が俺の顔を覗きこんで、にやにやして目をつむって、すばやく俺にキスをした。軽く。

「キスしちゃった」そう言って笑った。その時、一瞬女の顔が般若のように見えた。幻覚?俺はまた鼻をすする。

「…彼氏とかいないの?」俺は何故かそんな発言をした。

「いたらどうなの?」笑いながら言ってる。

「別にどうも?」俺は答える。

「何でそんな事きくの?」いや…深い意味は無いよ…。

「セックス好き?」そう聞いた自分が面白かった。顔を近づけた。

「どっちかってゆーと…好きかな…うん。好き」彼女は、「好き」の部分を強めのアクセントで、艶かしく言った。その部分が俺の頭の中でこだました。リフレインした。これはもう据え膳と言っていいだろ。

「お前、かわいいな」俺がそう言い、

「ふふ、知ってる」女がそう答えると、俺はキスをした。唇が一旦離れる。「お前じゃなくて、名前を呼んで」そして自然と舌が絡み合った。俺はどうにかしてホテルにでも連れ込もうと考える。ホテル…あ~…あんまり金ないな…先走るモノはあっても、先立つモノが無い…クソ。まあ、部屋まで連れてこうか…こっからそんなに遠くもないし。いや、遠いな…タクシー乗ってくか。それくらい…必要経費だ。軽い女と付き合いたくはないが、セックスするだけなら良しとする。

「この後どうすんの?」俺は下心まるだしで聞いた。

「どうしたいの?」そう言われた。俺はもう一度キスをして、

「…抜けよっか?」コイツもどうせ酔ったら誰彼かまわずヤッちゃう女だろ。きっと。けど、俺にとっちゃそこらへんはどうでもいい。酔わせて、やる。みたいな。分かる?いや、いやいや。そんなヤツは最低だぜ。同意が、そう同意がないとな。愛もな。ムリヤリやるわけじゃないしまんざらでもなさそう…。まぁどっちに転んでも別にいい。上手く行きゃそれで良し。玉砕しても事も無し。ギャンブラーの心理戦だ。失うものなんかないのさ。あげちゃってもいいと考えるのさ。

「あはは…」女はケラケラ笑って部屋に戻っちまった。それはどういう?断られたのか?わからねえ。あれか、焦らして楽しむ、コックティーザーってやつか?まあ…どうでもいいか。俺も部屋に戻ると、爆笑してる春馬の隣に座った。

「何の話してんの?」ヤツは俺の質問を聞いていない。「ん…?そのシャツの柄イカすな…グルグル回ってる…ははは『ズッ!』っは。

「おまえ、キマってんじゃん」表情は…よく分からない。そんな事は気にならない。ハハァ…。「チャンポンすると危ねえぞぉ?」と俺の肩に手を置いた。「…あのコいっとけって」俺はそう言われて、すこし複雑な気分だった。俺は曖昧に肩をすくめた。「わりとタイプだってよ、言ってくれてるぜ、おい」頭の中で『ミスター・ブライトサイド』が鳴り響く。楽しくなってきた。脱ぎだしたい気分だ。「鉄は熱いうちに打て、だ。いっとけって」春馬がウインクする。それしか言えねえのか。でも俺はもう彼女に対して興味を失っていた。何故か分からんが、マジで手に入りそうになると、どうでもよくなる。過程が楽しいんであって。俺は彼女の隣に座りにいって、こう囁いた。

「セックスしよう。今すぐに」

「うける」

「マジで」

「ええ?付き合っても無いのに」えええ?「あたし、彼氏さんとしかそういうことしないよ?」おっと、まさかの展開だな。けど今は駆け引きを楽しみたい気分なんかじゃないんだぜ?えっと、こんな時は…。

「じゃあ付き合おうよ」何言ってんだ俺?付き合う突き合う、ははは…。

「うん…」女は照れるでもなく微笑んで、俺の顔を見上げた。ウソだろ。さっき会ったばかりだぜ。お互い何も知らないじゃないか。別にこれから君の事をよく知っていきたいわけでもないぜ?

 俺はしばらく彼女のその表情を見つめていた。それから無意識のうちに言葉が口をついて出た。

「じゃあ、よろしく」酔ってたからそんな事を言ったのか、それとも本気でそう思ったのか、ただセックスしたかっただけなのか、実際よく分かんなかったけど、俺は言った瞬間に後悔した。女が嬉しそうな顔をしたのと、ハグしてキスをしたとき、とてつもない後悔と倦怠感があらためて襲ってきた。この上なくダルい予感がしていた。面倒くせえなぁ。でも、まあ、ノリだろ、ノリ。それに、思った以上に冷静な自分が面白い。冷静と情熱の間さ。

 まあいいや、さっさと今日を終わらせよう。こういう流れはお約束さ。それで俺はもうどうでもよくなって、俺の部屋へ向かう。

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