[3] ソ連軍の攻勢計画
モスクワの「最高司令部」が立案した攻勢計画は当初から、2段階作戦を想定していた。
南部戦域では1944年11月から12月にかけて、第2ウクライナ正面軍・第3ウクライナ正面軍がドイツ軍の戦略予備をひきつけながら、ハンガリーに進撃を続けていた。その間に本攻勢が1945年1月15日から同月20日にかけて始められる予定になっていた。2つの大規模な作戦によって、ヴィスワ河畔にいるドイツ軍を東プロイセンの防御陣地から切り離すことになっていた。
第3白ロシア正面軍(チェルニャホフスキー上級大将)と第2白ロシア正面軍(ロコソフスキー元帥)は中央軍集団を東プロイセンから掃討する任務を与えられた。第3白ロシア正面軍はケーニヒスベルクに向かって西に伸びるドイツ軍陣地を啓開することになっていた。第2白ロシア正面軍は南翼から東プロイセンを包囲しつつ、第1白ロシア正面軍が本攻撃を行っている間、その側面擁護に当たるという重要な役割を与えられた。第2白ロシア正面軍は総計7個軍にまで増強され、第5親衛戦車軍(ヴォリスキー大将)と各種の独立機動軍団も協力する。航空支援に第4航空軍(ヴェルジーニン元帥)が割り当てられた。
これと同時に、第1白ロシア正面軍(ジューコフ元帥)と第1ウクライナ正面軍(コーネフ元帥)はポーランドを横断してA軍集団に対する総攻撃に乗り出すことになった。
第1白ロシア正面軍には総計8個軍、2個戦車軍、2個親衛騎兵軍団、1個航空軍が割り当てられた。これによって3つの突破作戦を実行する。主攻撃はワルシャワ南部のヴィスワ河畔に縦24キロ、横11キロに突き出たマグヌシェフ橋頭堡から発起する。北翼ではワルシャワのドイツ軍を包囲するため、ポーランド第1軍(ポプワフスキー中将)と第1白ロシア正面軍の南翼と協同することが定められた。また南翼でもプワヴィ橋頭堡からドイツ軍の陣地を突破し、隣接の部隊と連動して西方に向かって突進する。
これとは対照的に、第1ウクライナ正面軍の役割はもっと単純であった。同正面軍は兵力のほとんどをサンドミェシュ橋頭堡に集中させ、第3親衛戦車軍(ルイバルコ大将)と第4戦車軍(レリュウシェンコ大将)を北西に向かわせる。第5親衛車(ジャードフ上級大将)はクラフクを迂回しつつ西に向かうよう命じられた。
第1ウクライナ正面軍司令官コーネフ元帥は攻撃開始位置を秘匿できるとは考えていなかった。その代わりに作戦目的を欺瞞するため、400両以上のハリボテの戦車と自走砲を用意してクラフクに向かって突進するかのような印象を与えようとした。
突破にかかる時間と人命の損失を最低限に抑えるため、両正面軍では兵力の集中が図られた。第1白ロシア正面軍はマグヌシェフ橋頭堡に歩兵の50%と戦車・砲兵の70%以上を集中させ、ドイツ軍に対して10対1の優勢を作り出そうとした。狙撃師団の大隊には全て歩兵支援用の重戦車と自走砲が随伴することとされ、大砲の数は突破予定地区1キロ当たり250門以上になった。
1月6日、米英連合国はソ連に対して支援を要請した。アルデンヌにおけるドイツ軍の圧力を軽減させることを意図するものだった。これを受けて、スターリンは冬季戦の開始を予定よりも早めることにした。そのためスターリンは参謀総長第一代理として過去2年間、「最高司令部」を実質的に取り仕切っていたアントーノフ上級大将を頼りにしていた。参謀総長ヴァシレフスキー元帥は「最高司令部」代理として前線に派遣されており、この時期は第1・第2バルト正面軍の調整官という名目だけの地位に格下げされていた。
1月8日、アントーノフはコーネフに対して本来の予定よりも8日早い同月12日に攻撃に出るよう指示した。この予定変更は参謀将校と兵站組織にさらなる過酷な負担を強いることになったが、ヴィスワ=オーデル攻勢と東プロイセン攻勢は時間差をもって遂行されることになった。
第1ウクライナ正面軍は同月12日に攻撃を開始し、第3白ロシア正面軍が翌13日に攻勢を行う。第1白ロシア正面軍と第2白ロシア正面軍が攻撃に出るのは同月14日である。この時間差攻撃はドイツ軍に混乱を与える効果をもたらした。中央部ではソ連軍の攻撃が開始されているにも関わらず、ドイツ軍の戦略予備は依然として南北翼の側面に留まっていたのである。
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