第27話

「そこにオレが戻ってきたというわけか…」


「まぁ、そういうことだ。お前もエリファスも好きな子に振られてきたってわけさ、ハハハハハ!」


 インディスは豪快に笑うと、彼の肩を豪快にバンバンと彼の肩を叩いた。


 その顔にソウマは少し嫌な顔をした。


「それで?てめぇは何でパーティから追い出されたんだよ」


 その言葉にソウマはしばらくの沈黙の後、歯切れが悪そうにこう言った。


「実は…」


 彼は内容を包み隠さず、打ち明けた。


 大司教に失礼があったこと、彼女が自分を巻き込みたくなくて、パーティから無理やり追い出されたことを。全て。


 それを聞くと、インディスは案の定笑い出した。


「たっはー!巻き込みたくないからか!泣かせるね!聖女様もわがままなこった。私だったらお前を使い潰すね!」


 その言葉にソウマはむっと来た。


「だけど、お前も大したもんだぜ!あの大司教様に料理について尋ねるとか!ハハハハハ!マジで笑えるぜ!傑作!しかも、そんなちんけなことまで気にしてるとか、あの女たかが知れてだろ!私なんか、ステルベンに死ねとか普通に言ったことあんのに!ハハハハハ!」


「今何と?」


「おっと、ホモ野郎いたの忘れていた。んで?これからどうすんだよ?誰かの英雄さんよ?」


 インディスは相変わらずソウマを茶化していた。


 彼女は個人的にソウマが嫌いではないとは言え、この事態に笑わずにいられないからだ。


「知れたこと、迷宮にもう一度潜る」


 その言葉にインディスは噴出した。


「潜る?一人でか?」


「・・・・」


 ソウマはその言葉に何も言えなかった。


「たっはー!そんなの死に行くようなもんだぜ!おっと、言っとくけど私たちはごめんだぜ。あいつらはマジで許せんからな。お前はまぁいいとしてな。とにかく、あいつらのことは忘れろ。ほとぼりが冷めたら、私もステルベンを助けに行かねぇとこのホモ野郎が新リーダーになっちまうからな」


「ニーベルリング、そう言うことだ。貴様も帰れ」


 エリファスの言葉にソウマは歯を食いしばった時だった。


「一緒に行くメンバーならいるよ、ここに」


「!?その声は…」


 ふいにそちらを見ると、そこには相原紗季がいた。


「相原?何でここに?」


「なんだ?お前あのいけ好かない仮面の女じゃねぇか。てめぇも厄介払いか?」


 インディスの言葉に紗季は首を振ってこう答えた。


「違う。私は助けられたの、ルビアに」


「!何があったんだ!」


 ソウマが目を開いて、紗季に詰め寄った。


 紗季は表情一つ変えずにこう答えた。


「裏切られたの。あいつにね」


「あいつ?まさか…」


 その言葉に紗季は頷いた。


「錬金術師≪アルケミスト≫よ。案の定裏切りやがった」


◇◆

 紗季の話はこの通りだった。


 ソウマがパーティから追放されると、すぐに第8層に向かったのだ。


 ルビアにソウマがいなくなったことを尋ねるとこう答えたそうだ。


「あっ、・・・ニー君具合悪いから帰るって…」


 もちろん、彼女の嘘だというのははっきりわかった。


 現に彼女の眼は泣きすぎて真っ赤だったからだ。


 その場にいた誰もがそのことについて聞けなかった。


「いい人だったね」


「うん」


 エゼルミアの一言に彼女は頷いた。


 しかし、この状況を良しとしない人物が一人いた。


「ふん、まさかと思うがあの小僧。怖くなって逃げ出したのではないのか?」


 錬金術師≪アルケミスト≫だ。


 彼は腕を組んで壁にもたれかかっていた。


「違う!」


 ルビアが大きな声でそれを否定した。


 錬金術師≪アルケミスト≫は鼻であしらうと、第8層への扉を開いた。


「この先だな、小僧のことはどうでもよい。我々は先に進まないといけないのだ」


「錬金術師さん?急ぐ気持ちはわかりますけど、少し休まないかしら?ただでさえ、ヴォンダルが灰になって、ソウマ君がいなくなちゃったのよ?少しこの娘の心を労わってあげる時間も必要じゃないかしら」


 その言葉にエゼルミアが穏やかに、けれど微かに怒りが感じられる声で錬金術師を咎めた。


 だが、錬金術師は冷たく言い放った。


「無理だな、急ぐと言っているのは貴様らだ。それに早くせねば、他の冒険者に先を越されるのはわかっているだろう」


「その言い方はなくない?あたしも早く帰りたいけど、少しぐらい…」


 紗季が錬金術師に文句を言いかけた時だった。


「実を言うと、私も少々腹が立っている。ただでさえ、戦力が足りないのに一人また欠落したのだからな。それもそこの娘のわがままでこのような事態になったのだ。急ぐ方が先決ではないのか?」


「どういうことかしら…ルビアちゃんが悪いとでも」


 エゼルミアがそう怒ると、錬金術師は冷たくこう言った。


「何か言いたいことがあるならば構わないが、君たちが束になっても私には勝てんよ。はっきりと断言できる」


 彼はそう言うと、次の部屋へと行こうとした。


「早くせぬと私が先行してこの迷宮の深部とやらに行くが、使命を捨てて逃げ出すのも選択肢の一つだぞ?」


「!!?ぃ…行きます…」


 ルビアは涙を堪えながらエレベーターに乗り込んだ。


 彼女は怖いからだ。


 使命を捨てて逃げ出して、そのあと人にどう思わるのかが。


 第8層に着くと、そこにはステルベンたちを降したジョーカーがいた。


「ヒッヒッヒ。あいつらの言う通りだな」


「あれは…?」


 疑問に思う紗季に錬金術師は答えた。


「ジョーカーだ」


 彼はそう言い放つと先程とは異なり、前線に出た。


「ヒッヒッヒ?なんだ、てめぇ」


「なぁに、ちょっとした用があってね」


 彼らがそんなやり取りをしている隙にアレックスがジョーカーに斬りかかった。


 しかし、それを錬金術師は防いだのだ。


「錬金術師≪アルケミスト≫?」


 紗季が疑問に思う前に彼はアレックスの武器を吹き飛ばすと、ルビアを右手で捕らえた。


「何するの!?離して!!」


 錬金術師は彼女を捕らえると、にやりと笑ってジョーカーにこう提案してきた。


「なぁ、ジョーカー私から提案があるのだが?」


「ヒッヒッヒ?な、なんだ、いったい?」


 ジョーカーはこの男の何かに気付いたのだろう。


 やや冷や汗をかいていた。


「この娘を貴様らに預ける。さらに私は貴様らの軍門に下ろう」


「貴様!一体なんのつもりだ!」


 アレックスの怒号に少しも錬金術師は怯まなかった。


「その代わりに彼女に何もしないでおいてくれ。静かに捕らえろ。少しでも妙な気を起こせば…わかるな?」


 その言葉にジョーカーは背筋が凍るような思いをした。


 同時に悪くない提案だと思った。


「ヒ、ヒッヒッヒ。まぁ悪くないな!まずは娘を渡してもらおうか?」


 ジョーカーの言葉にエゼルミアはすぐに魔法攻撃を放とうとした。


 しかし、錬金術師は冷酷に言い放った。


「おおっと。それがこの娘に当たったらどうするつもりかな?安心しろ、命は取らない。君たちの使命をここで潰すだけさ」


「くっ!貴方と言う人は!」


 エゼルミアは悔しさのあまり唇を噛んだ。


 そこから血が流れる程に。


「正体不明の男…。やっぱり信用できなかった…」


 ジョーカーがルビアに手をかけようとした時だった。


 咄嗟に彼女は杖を振りかざしたのだ。


「ぬっ?」


「ワープだ、心配ないだろう」


 彼女は錬金術師に軽く当て身されると、朦朧とする意識の中でワープの呪文を最後の力を振り絞り、他の三人にかけたのだ。


「に、逃げて…」


◇◆

「・・・ってこと。やっぱり正体不明って信用できないね」


 紗季はため息をつきながらこう言った。


「紗季がここにいるってことは他の二人も?」


 その言葉に紗季は頷いた。


 すると、茂みから二人の人物が姿を現した。


 アレックスとエゼルミアだ。


「二人共…無事だったか…」


 ソウマの言葉と裏腹に二人の顔は深刻だ。


「ソウマ殿…」


「ソウマ君…」


 その二人の様子を見ていた紗季はふいに彼に帽子を渡した。


 彼がいつも被っている赤い帽子だ。


「これ…あんたのスペアでしょ?あの妙なビームの時に落としていたよ」


 その言葉にソウマは目をパチクリさせた。


「オレは帽子のスペアなんて持ってないぞ?だって、これは母親が縫ってくれた…」


 そこでソウマははっとなった。


 あの錬金術師が何者か若干感づいたのだ。


 彼はすっかり意気消沈している二人の方を向くとこう言った。


「紗季、アレックス、エゼルミア。もう一度オレに力を貸してほしい」


 その言葉にアレックスもエゼルミアも頷いた。


「いかにも私は先程からみっともないところばかり見せているからな。ここで挽回させてもらおう」


「私もよ。あの娘を放っておけない!」


 それに続くように紗季が続いた。


「あたしもよ。だいたい元の世界に戻すって言ったのあいつだから、ここで懲らしめておかないとね。いい加減あいつの素顔を見たいし」


 ソウマはその言葉に頷くと四人は手を合わせた。


「さぁ、ここからがリベンジだ!」


 そう言うと、彼らは迷宮に潜り始めたのだ。


◇◆

「けっ、青臭ぇ奴らだ」


 インディスは一連のやり取りを見て、すっかり興ざめただろうか


 何か不満そうにその場で寝転びんだ。


「全くですな、私はこれにて」


 エリファスはそれだけ言うと、その場から立ち去った。


 一見すると、見捨てているようだが、本心ではきっと彼らがステルベンを助けてくれると思っているからだ。


 エリファスはそう思いながら、町へと帰っていった。


「ふん」


 それとは対照的にインディスはその場に残っていた。


 その目の先には迷宮だった。


「ちっ、気がかりすぎんだろ…」


 そう思った彼女はふいに立ち上がった。

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