第26話
ジョーカーと言う魔物の目撃例は少ない。
実際に目撃されたのは数えるだけでも4件程度であり、それも「大国の大臣が化けていた」とか「魔族の大幹部であった」と言ったところであり、かなりの高い知性と狡猾さを持った高位の魔物だ。
一見すると、悪魔系に見えるこの魔物であるが、実際には全く違う種族であるらしく、150年前に荒川蒼真に倒された個体を研究した時に判明したらしい。
ステルベンのようなごく普通の冒険者はまずこんな魔族の幹部のような魔物には出くわさないだろう。
実際にここにいる冒険者全員が始めてこの魔物を見たのだ。
「ヒッヒッヒ。どうした?このジョーカー様を見て、恐れをなしたのか?」
ジョーカーはステルベンたちを見て不気味に笑った。
無理もない本来ならば撤退レベルだ。
だが、もし撤退すれば聖女たちがここに来るかもしれないだろう。
もし、この場を離れれば彼らは追い払ったことに9層に帰ってかもしれない。
そうなれば、彼女たちを深部に入れてしまうケースもあるのだ。
「冗談じゃねぇぜ!ピエロ野郎!ここまで来て引き下がれるか!てめぇらこそ生き埋めにしてやるから、どっか行きやがれってんだ!」
「ヒッヒッヒ。魔物が親切に忠告してやってんだ。むしろ、ありがたく思いな。なぁ、そこのドワーフもそう思うだろ?」
インディスの挑発に怖気もつかずにジョーカーはステルベンを見た。
「ドラゴンやデーモンから聞いたぜ。てめぇ、深部まで行って怖気ついたんだよな」
「何が言いてぇ…?」
ステルベンはその言葉に眉をぴくっと動かした。
その挑発めいた口が彼の怒りの琴線に触れたのだろう。
ジョーカーはその様子を見ると、愉快そうに手を叩きながらこう言った。
「さぞかしいい物見れたんだろよ?仲間が死んでお前一人だけ帰ってきた気分は?聞かせてくれよ、そうしたら、お家まで送ってやるから」
この明らかさまな挑発にステルベンはついに激高した。
「てめぇら!こいつらを殺せ!一匹も逃がすな!」
その言葉にインディスはにやりと笑った。
エリファスも同様だ。
「ほほう、この軍団を相手に挑むのか。やれ、デーモン共!」
ジョーカーがそう言うと、グレーター・デーモンは一斉に呪文を唱えだした。
グレーター・アイス・トルネードだ。
「ちっ!」
ステルベンは無事にそれをかわし、その大斧でグレーター・デーモンを切り裂いた。
だが、標的は違った。
「ライ!レフ!」
そう、ライとレフこそが彼らの狙いだったのだ。
彼らも同じくグレーター・アイス・トルネードで対抗したが、数には勝てなかった。
あっという間に氷漬けになってしまったのだ。
「ヒッヒッヒ。まずは二匹!ほらほら!仲間をどんどん失う気分はどうだ!」
「くっ、こいつら…今まで違う!」
インディスはそう言うと、軽妙な動きで氷像と化した二人を守ろうとした。
今にもあの鋭いかぎ爪で二人を砕こうとしているからだ。
インディスはかぎ爪を受け流した。
「だいじょ…」
だが、彼らは既に砕かれていた。
あの性悪ピエロによって。
「ヒッヒッヒッヒッヒッヒ…ヒャハハハハハハハハ!やっぱ、久しぶりに生き物を殺すと気分がいいわ!」
「てめぇ!」
インディスは素早くジョーカーに斬りかかったが、その軽妙な動きにあっさりと躱されてしまったのだ。
「ヒッヒッヒ。さぁて、次はだ~れかな!」
ジョーカーが嬉しそうにそう言った時だった。
「おい、ピエロ野郎」
ステルベンがジョーカーを呼び掛けた。
「何だい、負け犬のドワーフ。怖くなってお家まで送ってほしくなったか?」
ステルベンはにやりと笑うと、次のように言った。
「女神アヴァンドラの使いがお見えだ。深部に行くそうだ」
その言葉にジョーカーは急に顔が青ざめた。
「なん…だって…女神アヴァンドラ?」
ステルベンはこの隙を見逃さなかった。
彼はにやりと笑うと、その隙にインディスとエリファスにこう言った。
「てめぇら…達者でな…」
そう言うと、ステルベンは第9層へと落ちて行った。
「あ、貴様!このジョーカー様をないがしろにするとは…!それにしても、女神アヴァンドラの使いだと!ふざけてんじゃねぇぞ!畜生、貴様らなんかに構っていられるか!てめぇら、その蠅共を一匹も逃がすなよ!」
そう言うと、ジョーカーは軽妙な動きで部屋から出て行った。
残ったのはインディスとエリファスだけだった。
しかし、残ったグレーター・デーモンの数は5体だ。
二人では勝つことはまずできないだろう。
「どうするんだ?」
インディスがそう言うと、エリファスはこう答えた。
「マイケルたち別動隊の力を借りるという考えもありますが、彼らでは太刀打ちできないでしょう。悔しいですが、ここは一旦町に戻って体制を立て直しましょう!」
「わかった、そういうことだ!あばよ!デーモン共!」
エリファスはそう言うと、特別な呪文を唱えた。
これはワープの上位に当たる呪文であり、戦闘中でも転移が可能な彼だけが使える呪文だ。
「ハイ・ワープ!愛しのステルベン様…後で必ず…」
彼がそう唱えると、二人は迷宮の入り口に瞬時に戻って来たのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます