第22話
これは昔の記憶だ。
それはまだソウマたちが子供のころの話だ。
まだ、10歳になったばかりのソウマはずっと手に木の棒を持って、何か素振りをしていたのだ。
「いつもここにいるよね」
そう言って、ここ最近彼と遊んでいる同じ年頃の少女が声をかけた。
幼き日のルビアだ。
でも、この時はソウマは彼女の名前は知らなかった。
何故ならば、名前を聞くのは恥ずかしいからだ。
咄嗟に憧れの少女が話しかけてきたことに恥ずかしさからかかっこ付けながらこう言った。
「だって、オレは___になるんだから、日々の鍛錬は重要なんだ!」
そう言って、彼は木の棒をいつもよりも張り切って振った。
かっこよく見せたいのだろう。
「でも、____には普通の人はなれないって、町の人が言っていたよ」
「なってやるさ!だって、オレはなるって決めたから!そのために今必殺技の訓練しているんだ!」
「へぇー、何て名前なの?」
「ウルトラビームって言うんだ!かっこいいだろ?」
「ださいよー!」
「何だと!じゃあ、一緒に考えてよ!」
そう言われるとルビアは少し呆れながらも一緒に考えてくれた。
「じゃあ、ヒントだけ」
「えーっ!?ヒントだけ?全部教えてくれよ!」
「駄目ですぅ!」
「ケチッ!」
彼はそう言って拗ねるのを見ると、彼女は教えてくれた。
「じゃあ、これはお父さんから聞いた話なんだけど、この世界の神様って旧≪エルダー≫き神≪ゴッド≫って言われているみたいだよ」
「エルダー??ゴッド??」
「そう、昔の世界では一番偉かったから、旧い神様と言うから旧≪エルダー≫き神≪ゴッド≫って言うの」
「オレ勉強きらーい」
その言葉にムカッときたルビアはソウマの頬引っ張った。
当時の身長差はルビアの方が大きかったから、上から引っ張られる形になった。
「痛い痛い!」
「ちゃんと勉強しないと、____になれないよ!」
「勉強しなくてもなってやる!」
「なれません!」
そんなことをやっている間に日が暮れたのだ。
そんな昔のことをソウマは思い出していた。
◇◆
ソウマが放った【旧≪エルダー≫き刀≪ブレード≫】の威力が凄ざましく、一瞬にしてオーガたちを消し炭にしたのだった。
「お、おのれ…」
だが、オーガロードは致命傷を受けつつも、どうやらまだ命があった模様だ。
最ももうすぐ死にそうだが。
「…今のは?」
ルビアの言葉にソウマはこう答えた。
「見ての通りさ」
そう言うと、ソウマは地面に倒れた。
「ソウマ君…?」
慌てて彼女が駆け寄ると、ソウマは地面に突っ伏したまま答えた。
「ああ、大丈夫。あの技を使うと魔力切れを引き起こすだけだから」
「はい?」
ルビアがその言葉に怪訝な顔をすると、錬金術師がソウマに代わってこう答えた。
「そこの小僧は一見大層な技を使っているように見えるが、それは単に己の魔力を全てその刀に収束させてそれを大砲のように発射しているだけだ。威力だけならば、最強魔法【メテオスウォーム】にも劣らんだろう。しかし、その代償として魔力を空にするのだ。後先考えないで使った結果がこれだ。だが、どうやらこの小僧しっかり考えがあるみたいだな」
錬金術師の言葉の通りだった。
ソウマは地面に突っ伏したまま、ポケットに手を突っ込むとそこから無造作に突っ込まれたマナ草を大量に取り出すと、無尽蔵に食べ始めた。
マナ草は魔力が詰まった植物だ。
それであっさり魔力を回復させると、むくりとあっさりと起き上がったのだ。
相変わらず寝転んでいるが。
「いやー、死ぬかと思った」
「嘘でしょ?思いっきりさっきお腹やられていたでしょ?」
そう言って、ルビアはぽかっと杖で一発叩いた。
大人になった現在のソウマの身長はルビアよりも高いのだ。
身長差がある以上、そう簡単には頬を引っ張れないからだ。
「ほら、怪我見せて」
そう言って、彼女は無理やりソウマを引っ張って膝枕をさせた。
ちょっとしたご褒美だ。
「…これちょい恥ずかしいんだけど」
「じっとしていて」
ソウマは軽く嫌がってるように見せてるが、本心は歓喜狂乱しているのだ。
彼は大人しく彼女の治癒を受け始めた。
「さっきの技名って、自分で考えたの?」
彼女は治癒魔法をかけながら、ソウマにそう尋ねた。
「ああ、昔『旧≪エルダー≫き神『ゴッド』の話をしてくれただろう?それからオレは刀≪ブレード≫を使うだろ?それで旧≪エルダー≫と刀≪ブレード≫を組み合わせて旧≪エルダー≫き刀≪ブレード≫」
「あれ?私子供のころそんな話したっけ?」
「した」
「そう?覚えていてくれてありがと」
ソウマはその一言に軽く照れると、ルビアはこう続けた。
「ずっとこんなこと続けていたの?」
「いや。たまにしか放ってない」
その言葉にソウマは首を振って答えた。
「そうなの?あまり無理しないでね」
そう言って、彼女はソウマの頭を叩いた。
「ソウマ・ニーベルリング」
そんなやり取りをしていると、錬金術師が声をかけてきた。
ーーまた嫌味か?
ソウマは本気で嫌そうな顔をしたが、実際は違った。
「先程の貴様の戦い方を見ると、一刀流よりも二刀流の方が向いておるのではないだろうか。元より貴様の刀は小振りで若干だが剣速が早いようにも感じられた。二刀流ならば、おそらくだがパワーでもオーガにも勝ろう。それに先ほどの魔力放出だが、あれは使うには『気』の流れと呼吸を一緒にしたほうが良い。どの程度魔力を刀に流せば良いのか、魔力量をコントロールできるようになるだろう。確かに威力こそは下がるが、連発が可能になるだろう。先程のダンジョンビートル共を出し惜しみすることもなく、一瞬で掃討することもできるだろう」
それはアドバイスであった。
ソウマは自分が気に食わない相手からの助言は正直気に入らなかった。
しかし、妙に納得してしまったのだ。
確かに彼の言う通り、もし二刀流ならば先程のダンジョンビートルを力で押しやることができるだろう。
それに彼のアドバイス通りに何度も放てれば、先程のダンジョンビートル相手に出し惜しみすることもないだろう。
「き、貴様ら」
放置されていたオーガロードはようやく言葉を発した。
「オーガロード、貴様は何故この階層に来たのだ?」
アレックスは険しい顔でそう尋ねた。
だが、オーガロードの目の焦点は合ってなかった。
もうすぐ死ぬのだろう。
だが、白目を向いてもなおこう言葉を発したのだ。
「本気で…あの…迷宮の深部に行くつもりか…?だとしたらおめでたい奴らだ…。お前らは知らない…。迷宮の底にいるあれは我ら魔族にとってもおぞましい存在なのだからな…」
そう言うと、オーガロードは倒れた。
絶命したのだろう。
「あれ?」
ソウマはその言葉に疑問に思いつつも、既にオーガロードは死んでいた。
「一体何かしらね?」
エゼルミアの疑問にも答える人間はいないのだ。
ちょっとした疑問を残しつつも、彼らは迷宮のさらに先へと進んだ。
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