第21話
「開けるぞ」
ソウマはそう言って、扉を開けると地下へ潜る階段がある大きな広間に出た。
この広間は先程と異なり、壁なども整備されており、迷宮と言うよりは地下施設と言ったところだ。
それも埃が少しあるだけで、先程のでこぼこした洞窟じみた場所とは異なり、真四角な石に覆われた整備された空間であった。
一見すると、何らかの遺跡に来たようにも思えた。
実際にはこの迷宮の主な管理層が変わっただけで不潔で低知能なオークではなくなり、それなりの知性を持った人食い種族のオーガになったということだ。
ここに来れる冒険者は本当に一握りだ。
大半の冒険者はこの壁の向こう側で存在しない次の層への入り口を求めて彷徨っているのだ。
これでは願いを叶えるどころではないだろう。
そこにいる種族もオーク族であり、彼らはわんさかいるオークロードたちを相手して、宝箱を開けて日々の日銭を稼いでいるのだ。
だいたいの冒険者はここでリタイアするか、オークロードやダンジョンビートルに殺されたりもする。
どんなベテラン冒険者でもこの場所に気付けなかった意味もないだろう。
「…迷宮にこんなところがあったなんて…」
エゼルミアはその広間を見ただけで思わずこう言ってしまった。
「オレも始めてきたときは驚いたよ。たまたまダークゾーンを抜けたら、こんな場所があるなんて知らなかった。ほとんど冒険者はこの場所を知らないよ。大半は『黒銀の鉾』の縄張りみたいなところさ。最も他の冒険者も気づいている奴は気付いているけどね」
ソウマがそう言って、足を踏み入れた時だった。
「やはり、来たのか。欲深き冒険者、そして忌々しい女神アヴァンドラの手下ども。我らがオーガ族の縄張りに何用か!!」
何者かが大声でそう言ってきたのだ。
ふっと皆が辺りを見渡すと誰もいなかったが、すぐにその人物が何者かがわかった。
その人物はずっとそこで待ち構えていたのだろう。
階段を上って姿を現したのだ。
それは人型であった。
しかし、人よりも遥かに大きな体躯をしており、緑の色の肌に鋭い爪と牙、さらに赤い頭髪に持った黒い瞳を持った魔物であった。
そう、人食い種として恐れられるオーガだ。
しかも、他のオーガと異なり、立派な剣と盾を所有しており、その体には鎧を着用していたのだ。
要するにこのオーガは他のオーガを統べるロードなのだ。
「オーガロード!?」
ソウマはそれを見て驚いた。
本来、オーガロードはさらに深部の第八層にしか生息してないからだ。
オーガロードはソウマたちの姿を一瞥すると、凄みがある魔物じみた声でこう言った。
流暢な共通語であった。
「貴様らが来ることは我らが“神”より教えていただいた。それに加え、先程の冒険者共の会話からもお前たちがわかったからな」
「ステルベンか!」
「それかどうかは知らんが、お前たちは生かしておくわけにはいかんからな!若い女の血肉は久しぶりだからな。バンパイア共に食われる前に先にすり潰して肉団子にしてくれるわ!」
オーガロードはそう言うと、合図を挙げた。
それと同時に今度は同じ体躯の魔物たちが現れた。
紫色の皮膚をした通常のオーガたちだ。
「ウゴッウゴッホホ」
オーガたちはソウマたちを見ると、棍棒を振って喜んだ。
きっと、新鮮な肉ありつけたのが嬉しいのだろう。
「者共かかれ!」
オーガロードの支持と共にオーガたちは一斉に襲い掛かってきた。
動きだけならば、オークと同じであるが、力ならばあちらの方が遥かに上だ。
彼らは度々オークロードを狩って、オークを従属することもあるくらい力の差ははっきりしていたのだ。
それでも歴戦の戦士である彼らだ(一部除く)。
あっという間にオーガたちは一網打尽されたのだ。
それでも後方で待機していたオーガロードは怯まなかった。
「まだだ、たくさんおる!食らうがよい、フレイム・スピア!」
オーガロードは呪文を唱えると灼熱の炎の槍を生み出した。
「まずい!」
その槍はソウマの方を目掛けて飛んでいくと、躱すことが困難な魔法攻撃を直に受けてしまった。
ーー熱い!
「あっ、ニー君!」
ソウマはもろに攻撃を受けたが、まだまだ大丈夫だった。
「心配ご無用!」
ソウマは今ので体力の半分は持っていかれたのだろう。
しかし、そこは気合で踏ん張ったのだ。
その様子を見たオーガロードは少し高らかに笑った。
「ほう、今の一撃を堪えるとはな…だが、次のは堪えられないだろう。さらに、我が同胞はまだいる。お前たちの冒険はここまでだ!」
そう言って、オーガロードが再びフレイムランスを放とうした時だった。
ソウマはにんまりと笑って、ルビアにこう言った。
「なぁ、みんなに少しオレから離れているよう伝えてくれないか?」
「?駄目よ、まず傷を癒さないと!」
「後で十分!一発オレもあいつらにお見舞いしたくなった!」
そう言うと、ソウマは呼吸を整えて魔力を集中させた。
すると、刀の先に魔力が収束し始めたのだろうか、ステルベンと対峙した時と同様に刀に青い光が収束し始めたのだ。
「これは…?」
ルビアが疑問に思うと、ソウマはにんまりと笑った。
「そこのでかいやつ!さっきはよくもやってくれたな!お前『お前たちの冒険はここまで』と言ったな?だったら、お前たちがここで終われ!これだけ広ければ問題はない!」
そう言うとソウマは村正を思いっきり構えた。
「何をするつもりだ…?あのようなものは見たこともない!ええい、とりあえず死ね!フレイム・ランス!」
そう言うと、オーガロードは先程よりも大きな炎の槍を生み出し、それをソウマたちへ投擲した。
それと同時にまだ階段の下で待機していたのだろう。
オーガたちはわらわらと出てきた。
だが、この判断が命取りとなった。
「旧≪エルダー≫き刀≪ブレード≫おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
彼がそう叫ぶと、刀に収束した魔力は一気に発射されたのだ。
その威力は凄ざましいものであり、一瞬にしてオーガロード諸共オーガたちはその極太の青い光に飲み込まれた。
要するに彼の得意技とは【旧≪エルダー≫き刀≪ブレード≫】という単なる魔力放出なのだ。
それでも相当な威力を誇っており、一瞬にしてオーガたちは消し炭と化した。
「これって」
それを見たルビアは思わず、昔の彼を思い出した。
それは幼き日の彼だ。
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