私とオタク
「キャハハッ、マジうけるんですけどー」
「それなっ」
私たちはたわいない会話をしていた。
最近のファッションだったりあの俳優がかっこいいとかあの店のタピオカがうまい、だとか私にとってはどうでもいいことだ。しかし仲間外れにされないために話を合わせている。
私が今もっとも興味があるのは――
(ふふっ、今日もかっこいいなぁ。今日は……『妹が可愛すぎて困ってます』か)
――教室の隅の方でラノベを読んでいる彼だ。
「おいオタク、さっきの目なんだよ」
ゆっきーが彼に気持ち悪いだとかこっち見るなとか言っている。
詳しくは聞こえないがそんなところだろう。
そしてゆっきーが戻ってきてまた話が始まる。
私は彼とつい目が合ってしまう。
反射的に私はゆっきーの方を見る。彼も目を本に戻したようだ。
実を言うとさっき目が合った彼に私は恋をしている。
五月三日生まれ17歳、身長172センチ体重60キロ。好きな食べ物は菓子パン、趣味は読書。
彼は知らないかもしれないが私と彼は同じ中学校で、私は彼の趣味を恥ずかしがらず自分が好きなものは好きという素直さに惚れていた。今もブックカバーをつけずにラノベを読んでいる。
まず彼を知ることから始めようと思い、何とか貯めたお金でラノベというものを買って読んでみた。
ハマった。
私にとって未知の世界だった。
それから本を買って、彼とラノベの話をできるぐらいには読んできた……はずだ。
でも今の友達が離れることが怖くて話しかけられずにいた。
彼とラノベの話をしたい、彼のオススメの本を読みたい。毎日、ラノベのたわいない話をしたい。
彼のこと好きなのにっ、ラノベの話をしたいのにっ……モヤモヤする。
でも彼は私が告白したとして受けてくれるだろうか。私がギャルだからと断られるかもしれない。
私はチラチラとバレないように彼を見ながらラノベの話を出来ないもどかしい日常を送っていた。
◇◇◇
とある雨の降っている日。
私は傘を忘れたため雨の中を帰ることができずにいた。
天気予報では曇りだったから大丈夫だと思ったのに……まあ家に帰るのが遅くなるしいいかな。
そう思っていると後ろから視線を感じる。
後ろを振り向くとオタク君がいた。
「オタク……」
「あ、そのごめんなさい」
「……今帰るのか?」
「う、うん」
「気を付けろよ」
彼は今帰るとこだったらしい。気を付けろと言ったのだが帰る様子がない。どうしたのだろうか。
「相良さんは、帰らないの?」
「ああ、帰りたくないんだよなぁ」
「だ、だよね、こんな雨なのに」
(そう言う意味じゃ……)
「ん?」
心の中で言ったことが口に出ていたらしい。
「いやなんもない。じゃあな」
「……相良さん」
「なんだ」
「傘貸すよ。雨もひどいし」
「でもお前は……」
「僕は良いから、家も近いし」
そういうと彼は傘を私に押し付け走って去っていった。
ふふっ「ありがと」
私は彼の優しさに触れて嬉しく微笑んでしまう。
本当にかっこいいなぁ。彼の家は走って十分ほどと少し遠いのに、私に傘を貸して……
私は雨の中を彼から借りた傘をさして家路に着く。
◇◇◇
私の両親はクズだ。
父はすぐに怒って八つ当たりをするように私を殴る。そして気が済んだら酒を飲みタバコを吸う。クズだ。
母は虐待されている私を無視している。父に目をつけられないためなのかもしれない。それに家事も何もしない。だから家事は私がしているしバイトもしているのだが、たまに私のお金を母が盗んでいることもある。そしてその金でパチンコに行っている。クズだ。
そんな家庭で生きるのは辛い。ちょっとでも機嫌を損なったら全部私に来る。
今日だって帰るのがいつもより遅いだとか言って殴ってくる。
本当に辛い苦しい。
もう耐えられない。
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