オタクとギャル

和泉秋水

僕とギャル

「キャハハッ、マジうけるんですけどー」

「それなっ」


 ギャルたちが教室内で騒いでいる。

 うるさいなと思いつつ本に目を戻そうとすると――


「おいオタク、さっきの目なんだよ」


 ――ギャルの一人に話しかけられる。


「え、いや、なにも……」

「ああ? 見てたよなぁ。やめてくれない? 気持ち悪いから」

「う、うん」


 彼女はそういうと皆んなの所に戻っていった。


「ッッ!」


 僕はギャルの子とつい目が合ってしまう。反射的に僕は本に目を移す。彼女もすぐに目を逸らしていた。


 実を言うとさっき目が合ったギャルに僕は恋をしている。


 相良朱音さがら あかね


 彼女は知らないかもしれないけど中学は同じで、彼女はいつも元気で誰とでも仲良くなれる――そういうところに僕は惚れていった。

 僕も彼女みたいに誰かしらと仲良くなりたかった。彼女みたいになりたかった。

 でも僕は所詮オタクというもので、僕と関わるような人はいなかった。しかも僕が人と上手く喋れない――人はそれをコミュ障という――ため、僕から話しかけようとしても無理だった。

 そして中学はろくに友達もおらず過ごし、高校でもそうなるだろう。それは高校に入って一年を超えた今が証明している。


 話が逸れたがコミュ障な僕にとって彼女は僕の理想だった。それに素直に可愛い。

 だけれどさっきの反応を見て分かる通りオタクの僕は嫌われている。正確には『嫌い』よりの『嫌い』だ。

 あ、それは『嫌い』か。

 または興味はないだろう。


 ともかく、告白したとしても相手にされない。むしろ翌日以降(小一時間後かもしれないが)、5G並みの情報伝達速度によって学校中に晒されてさらなる孤独、あるいは無視にまで発展するだろう。考えただけでも恐ろしい。


 だから僕は告白もせず叶うはずのない恋を諦めている、のだが忘れようとしてもむしろ彼女を思い出してしまう。だからついつい目がいってしまう。

 そしてその度に一緒にいるギャルの子に怒られる。悪循環だ。


 僕はそんなモヤモヤを抱えたまま毎日を過ごしていた。


 ◇◇◇


 ある雨の降っている日。

 天気予報では曇りだと言っていたが母が「傘を持って行きなさい」と言っていたので傘を持ってきていたのだが、本当に雨が降るとは。母の言うことは聞いておいて損はないな。


 少し先生の手伝いをしていたら帰るのが遅くなってしまった。玄関には人っ子一人いない。

 いや一人いた。


(相良さん……傘忘れたのかな)


 傘を忘れたのかその場で外を見ながらボーとしている相良さんがいた。

 しかも友達は先に帰ったのか相良さん一人だった。


 僕は相良さんの美しい後ろ姿を見すぎていたのか相良さんが後ろを振り向く。


「オタク……」

「あ、そのごめんなさい」

「……今帰るのか?」

「う、うん」

「気を付けろよ」


 相良さんがこんなことを言ったことに驚いた。てっきり、気持ち悪いだとかいうのかと思っていたが相良さんは意外といい人なのかもしれない。

 ていうかこのまま会話は続くのだろうか。コミュ障だから人と話すなんて、まして好意を持っている人と話すとか、無理なんだが。

 でもここは相良さんと話すチャンスっ。


「相良さんは、帰らないの?」

「ああ、帰りたくないんだよなぁ」

「だ、だよね、こんな雨なのに」

「そう言う意味じゃ……」

「ん?」


 相良さんがボソッと呟いていたが雨でよく聞こえなかった。


「いやなんもない。じゃあな」

「……相良さん」

「なんだ」

「傘貸すよ。雨もひどいし」

「でもお前は……」

「僕は良いから、家も近いし」


 僕は強引に傘を渡して雨の中を走り出す。

 つい傘を貸してしまった。ていうか相良さんと話してしまった。

 それにしても相良さん、可愛かったなぁ






 翌日、相良さんは学校に来なかった。

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