第12話 旧霞村(Village Police)
旧霞村に入ったのは、多田巡査に送られて村に初めて入った時以来だった。前の時も今回も、期待していた既視感を覚えることはなかった。39分ほど運転すると村の入口に着いた。
「確かどこかに灯りが。」
パトカーを村の入口に止めて僕は歩き出した。
町はVRの世界に入り込んだようで、まるで生きているかのように、ただ夜だから寝静まっているだけの様相だった。僕は事務的に灯りの場所を探し続けた。
1時間ほど回っても、何の糸口も見つけられなかった。
どこかの建物から地下に通じる階段でもあって、そこに秘密基地が、、、という子供じみた妄想もしてみたが、どの家にもカギがかけられていて、中に入ることを阻んでいた。それがまた一層不自然に感じられた。
目の錯覚か、目の前の通りを少年が駆け抜けたように見えた。
僕は「待て」と声をかける余裕すらなく、その影を追いかけた。トトトトト、とクツが地面を蹴る音が聞こえた。僕はひたすらその音を追いかけた。呼吸が苦しくなってきたのをこらえながら走り続けた。体力が持たず、ついに僕は走るのをあきらめると声が聞こえた。
「警察官のおじさん。」
建物の陰から少年が出てきた。
「体力なさすぎじゃない?それじゃ村の平和守れないんじゃない?」
「おい!」
僕はやっと大きな声を出すことができた。
「そんなに大きな声出さないでよ。びっくりするから。」
「こんなところで何やってるんだ?」
「おじさんがここに来るのを待ってたんだよ。」
「えっ?」
「遅いなあって。」
だったら最初から迎えに来いよ、という言葉を飲み込んだ。
「だからさ。物事には順番があって、それを辿ってもらったってこと。いきなりじゃあ、すっと落ちてこないことってあるからね。」
「どういうこと?」
「さっき見たでしょ。町にポツンと灯りがさ。あれはわざとなんだ。村の人たちだって本当のことは何も知らない。彼らは結局自分のことしか考えてないから。あ、その方がいいんだけどね。」
「きみは、もしかし前に会った神様か。」
「そう。よくわかったね。でも神様なんて本当はいないけどね。」
「でも、君は目の前でいつの間に消えちゃって、、、。」
「そんなわけないじゃん。足が速いのと隠れるのがうまいだけ、ね。」
僕は茫然とその場に立ちすくんだ。
「じゃ、いよいよ、物語のクライマックスに突入しようか?」
そしてちっちゃい神様はまた走り出した。別に走る必要なんてないだろ、と突っ込みをいれながら、少し体力の戻った僕は、こんどこそ負けないようにとしっかり後を追いかけた。
神様は村のはずれにある蔵の前で止まった。
「じゃーん。ここがクライマックス。戦時中に細菌兵器の人体実験が行われたとされ、今では心霊スポットとして有名になっている『おぞう』です。」
「なんて、ね。」
神様は扉を開けて、今度はゆっくりと中に入っていった。
中には小さなはしごのような階段があり、神様はスルスルとそこをくだっていた。僕は後をおいかけた。
蔵の地下は20畳ほどの暗い部屋で、コンクリートで囲われた無機質な空間だった。僕はブルっと寒気を覚えた。
部屋は真ん中に広い空間があり、壁際にテーブルがぐるっと囲んでいた。なんとなく気ついてはいたが、やはりそういうことだった。いやそれは想像以上の光景あった。
右のテーブルの上には、レタスのような野菜が透明な容器の中で育てられ、左のテーブルにはリクライニングチェアに横になった子供たちの「頭部」が乗っかっていた。もちろん頭部が切り離されているわけではなく、頭の部分だけがテーブルにあるという意味で。
僕は、あまり驚かなかった。ある程度予想はしており、もしかしたらロボトミー手術的な「前頭葉切開」を想像してもいた。見てみると、頭にかぶっているキャップのようなものが、脳に何かを働きかけているようだった。
「この場所が本当に地球のヘソなんだ。」
小さな神様が話し始めた。
「タイシャを起こす場所。つまり、台風や地震などの災害だって防ぐことも、作り出すこともできる。」
「このことは、日本はもちろん、海外の首脳たちも知っている。」
横から鈴木巡査が話に加わってきた。
「誘拐や宗教と疑ったかもしれないが、ミッションとしてはもっと大きなものがあったということだ。でもこれは公にはできない。悪用する人が出てしまう恐れがあるから。」
「とにかく、この旧霞村を無人にする必要があった。この場所に人が住み続けたら、活動に支障が出てしまうと。」
奥から村長が出てきた。
「子供の脳は働きが活発で、大きなタイシャの力を作り出せる。それに気づきながらどうしても合法的にこのシステムを作ることはできなかった。」
村長がなぜここに。遺体も確かに確認したはずなのに。
「資金も環境も含めて大概のことはできるようになりました。」
「でも広がりすぎず、守れる人たちで進行するには精鋭が必要なのです。あなたにはこれから大きな役割が生じます。」
僕は既に覚悟を決めており、小さくうなずいた。
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