第11話 日記(Village Police)
「これが、自分が求めていたゴールだったのだろうか。名誉、感謝、存在意義。それは十分に与えられていた。どこまでが良かったんだろうか、どこでやめればよかったんだろうか。」
それが最後のページに書かれた文章だった。
村長が命を絶ったことは、村全体に衝撃を与え、僕はその原因究明と本部報告に注力する役割を担った。
村長の日記をさかのぼって読み始めた。
最初に歓迎の会を開いてくれた会館の村長室のテーブルの上に、読んでくれと言わんばかりに1冊のノートが置かれていたのを見つけた。それは系統だって物事が書かれており、まるで僕に「すべてを理解して欲しい」というメッセージとしか思えなかった。一部難解を極めたが、ようやく全貌が見えてきた。
それは、赴任当初から与えられてきたクイズの回答だった。
1ページ目:「ゲノム編集の可能性と倫理」
植物の品種改良により、腐りにくく、味のしっかりしたレタスを開発。
ゲノム研究の専門家を誘致する中で、人間のゲノムの研究も並行して行われるように。人に対して、どのような性格、特徴を持たせるか。それは小学生までであれば変更が利くことが判明した。
村長は、以前は医学の優秀な研究者だったと聞いたことがあった。彼の研究課題がこれだったのだろうか。心がザワザワとしながら、読み進めた。
2ページ目:「手を加える」
手に負えなくなった子供を親の承諾の下で、遺伝子操作を行った。子供たちには「寮での合宿」と伝え、複数の子供たちを預かるようになった。自分を神様と考える天才児が誕生した。神様はさらに手を加え、人間にも地球にもタイシャがあるところまで切り込むようになった。
鈴木巡査はそれに気づき、倫理的観点から止めに入った。一方、村長の宗教がかった美学に洗脳されたのか、いや必要性を感じるようになったのか。自分が悪に徹することで、世の中をよくしようという正義感を持つようになったのか。
しかし、時には間違いも行った。操作ミスにより、逆方向に誘導してしまったことがあった。タイシャを正すための行為が、池袋の事件という形になってしまった。
もしかして、と僕は考えた。
そうか。自分も小さなころに村長の手にかかっていたのかもしれない。記憶がないくらいのころに。そして今の両親に引き取られたのか。あのイスは手術台。自分の脳は目の前の人間を捉えていなかったのだろう。
村長の息子だった、というオチまではなさそうだったが。
僕はもう一度あの階段を上った。時刻の夕方で、もうすぐ日が沈みそうになっていた。今度は神様には出会わなかったが、お堂の裏側に行くと、新しい景色を発見することができた。村をパノラマで見下ろすのではなく、逆側の視界が広がっていた。
そこには別な村の姿が見えた。例の「なくなってしまった村」の姿があった。よく見ると、そこに明かりが灯っているのが見えた。僕は長い階段を降りると、パトカーに乗り換えて、旧霞村に向かった。
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