第10話 世界の霞(Village Police)

村の成功は、もはや国内の注目にとどまらない領域まで来ていた。人口3,000人の村が東大阪や、東京の下町の工場に出資し、人工衛星の開発に寄与していたというニュースが全国紙に抜かれたことが一瞬で広まった。ジャパニーズドリームと揶揄され、マスコミや議員やら、多くの人たちが村を訪れるようになった。


村長は、これ以上の収益はもはや村には必要ない、と社会貢献に活用することを明言し、実行し、それがまた多くの注目につながった。


村長は国連から表彰を受けることになった。世界的規模で社会貢献に寄与した人たちに対して贈られる名誉ある賞だった。


「人の幸せってどこにあるのかずっと考えていた。最初はお金があることで健康、教育が促進すると思っていたが、おごりが生じてしまった。顧客の気持ちを考えた良質な開発が遠のき、家族の形がくずれてしまうこともあった。人はともかく未熟である。それをわかった上で、謙虚に、村の経営を進めてきた。まだまだ未完成だが、一つの集合体の形として参考にして欲しい。」

村長は、世界各国の代表者を前に挨拶した。


「村は一つの会社と同じです。収支があり、雇用されるもの、その先の顧客、経営は安泰だったが、それだけでは足りないものがありました。」


長い挨拶は、国内に生中継された。村長がもともと医者だったこと、命の重さに数量は関係ないとは言え、一人の人間が救える人の命の限界を身に染みて研究者に転向したこと、、、そして人の幸せはどこにあるのかと考えていたということ、、、。


僕はその演説に偽善を見た。

彼の本当の目的はなんだったのだろうか。結局自分の幸せだったのではないのか。虚栄心を満足させられたことで、目的を果たしたということなんだろうか。


ところが村長はその夜、遣り残したものはない、と書かれた遺書を残して消えてしまった。


そのことは「受賞の村長が謎の自殺」と全国ニュースで大きく取り上げられた。再び多くのメディアが村に終結したが、理由は全くわからず、半年もすると忘れ去られてしまった。


村長の自殺には何か深い意味があったはず。明るく前向きに村を元気にした人間が死ななければならない理由があったのだろうか。


そしてそれまで黒子に徹していた「カスミ村」を世界にアピールすることが必要になった理由がどこかにあったはずだ、と僕は思った。


カスミ村に目を向けさせることが、何かもっと大事なものを「隠す効果」があると考えたに違いない。段々と見えてきた。とりあえず自分の見える範囲においては。 

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