第8話 仲間(Village Police)
「上村さんも、もう一年経ちましたか。」
村長室の応接ソファで向かい合い、村長が話しかけてきた。
「はい、お陰様で。」
「こちらからもお礼を申し上げたい。お陰様で村の治安は守られ、みな平和に過ごしています。」
「そうでしょうか。村長からお伺いした子供たちの話、なんとかしたいと考えていましたが、全く進展はありません。それどころか、追いかけることに疑問を持ち始めました。」
「そうでしょうね。一年経つと優秀なみなさんは気づかれます。子供たちの秘密を探る必要はあるのか、しかもその情報は自分に入ってこない、自分は村人として認められていない。一方で村は平和という事実が存在する、と。」
村長は最初からすべてお見通しだったのか。
「ええ。正にそういうことです。色々と調べましたし、先ほど小川村に行ってきましたが、そこでも何も見つけられなかった、いやそれどころか何も見つけられる気がおきなくなりました。まるで、皆が知っているクイズの回答を自分だけが知らされずに、右往左往しているだけ、という気分で。」
「なるほど、一理ありますね、その考え方。」
僕は話をしながら段々といら立ってきた。ではなぜ教えてくれないのか。
「そうなんですか。どういうことでしょう。村長も村人たちもすべてわかった上で私に探らせようとしているのでしょうか。」
「ちょっと違います。あなたに言っていないことは確かにあります。ただ、まっさらな状況に見ていただくことに意義があるのです。ですから、敢えて、というか。」
「どういうことでしょうか。」
「この村は、平和で裕福で、他の村の農家のように担い手不足の問題もありません。家庭になじめなかった子供たちは神様が預かって下さり、立派になって戻ってきて、村のために貢献してくれています。賢く、良識を持って、村全体を盛り立ててくれています。私は村長になって20年以上になりますが、もう一段階その平和を広げたいと思っているのです。」
「どういうことでしょうか。」
「タイシャです。もうお伺いになっているかもしれませんが。村だけではなく、日本、世界の平和を目指したタイシャ、という話です。だから私は市町村協会の会長も引き受けているわけでして。」
僕はその意味を飲み込めずにいた。それはこの村独自の宗教観なのだろうか。村人たちはこの村長の進める何か宗教的なものに誘導されて、、、。
「いや決してあやしい話ではありません。科学的根拠もある話です。」
村長はまるで、僕の心を読むようにしてつづけた。
「ここが日本、いや世界の中心であるがゆえの宿命だと思っているのです。この場所が幹で、その枝が世界に広がっているので、タイシャによって色々な効果が生まれるということです。陰も陽もさえも。子供たちはそのために必要なことをしてくれているのです。」
「あなたがここに赴任してことには大きな意味があります。鈴木巡査、多田巡査も同様に、いやその前の方も含めて、です。私たちは同じ目的を持っているのです。」
僕には村長の言っているよくわからなかった。
「生まれた時から目の見えない人は『見る』という感覚がわかりません。想像はできますが、見えないのだからわかりようがないのです。当たり前です。タイシャもそうです。わかるようになれば至極単純な話ですが、想像ではわからない領域の一つでしょう。」
僕は質問した。
「神社の階段で小さな『神様』に会いました。村長はその子が神様だとおっしゃるのですか。」
「まさか。あの子はただの子供ですよ。ただ、言い換えるなら『神様チームにいる子供』というのが正しいかもしれません。そしてここからはあなたも、そのチームに入るかどうかの選択を迫られるのです。」
「どういうことでしょうか。」
「あやしい話ではありません。少なくとも私にとっては。巡査にはもう少し村で治安を守っていてください。」
「少々先ばしってしまいましたかね。あなたがこれまでの方以上に動きが早いものですから。」
僕はすっかりわけがわからなくなった。村長は今日はここまでという雰囲気で「公務があるので」と去ってしまった。
僕は試されているんだろうか。であるとすると、そのゴールまで突き止めてみるしかないと思った。体が熱くなっていた。初めての感覚だった。何かに情熱を持つというのはこういうことなのかと思った。
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