第6話 神様(Village Police)
神社は、村はずれの山の上にあった。野球部やサッカー部に所属する子供たちは、その石段を駆け上がるのを日課にしていたが、僕はそれまでその急な階段を登ることはなかった。
昨夜の話を受けて、いよいよ挑戦せざるを得なかった。まずは神社の様子を見るところから始めることにした。
階段の中腹あたりで、小学校低学年くらいの男の子が僕を追い越してトントントンと上がっていった。
「君すごいね。おじさんはもう限界だよ。」
「警察官なのに、だめじゃん。」
その子は振り返って笑顔で答えてくれた。
「そうだな。体力つけとかなきゃな。みんなを守れなくなっちゃう。」
ゆっくりと足元を見ながら一段ずつ足を動かしていると、その子は僕の隣まで階段を降りて一緒に歩きだした。
「ねぇ、駐在さん。」
「ん?」
「いなくなった子供たち探しに来たんでしょ。でも残念でした!」
「ここにはいないし、なんのヒントもないよ。なぜならここは誰も世話しなくなった、古ぼけたただの神社があるだけだから。」
突然大人のような口調に変わって驚いた。
「なぜ僕が探しに来たって?」
その子はうれしそうな顔で答えた。
「だって僕が神様だからだよ。」
「ほう。すばらしい。神様か。ずいぶんとかわいらしい神様じゃないか。」
「ありがとう。とにかくそういうこと。」
そして小さな神様は続けた。
「この村は、日本の『ヘソ』なんだよ。つまり、人で言えば臓器が唯一外の世界と直結している部分ってこと。だからこの場所を刺激すると、ほかの場所にも影響が出るし、たとえそれが人の命だってね。」
小さい子供が話している内容が理解できないなんて、初めての経験だった。
「信じられないだろうけど、子供たちは死んでいないし、生きてもいない。そのことは村長も知ってるし、いなくなった子供たちの親だってわかってる。だから何も騒ぎ立てない方がみんな都合がいい。」
「どういうことなんだ?お前は何を知ってるって言うんだ?」
「何もかも知ってるし、何も知らないよ。駐在さんが調べてた池袋の殺人事件、いなくなった子供のせいだよ。だから絶対に犯人は捕まらない。あれはタイシャなんだ。仕方ないし、誰も悪くない。」
何も言葉が出なかった。
「おじさんは足の薬指と小指の間から三分の一下がったところが『反応点』。それとこれとは実は同じ話なんだよね。」
なぜ、池袋の事件の話が出てくるのか。僕は恐ろしくなり、その子の顔をまじまじと見た。
「どういうことだ?」僕は声をあげた。
目の前にいたはずのその子の姿はどこにもなく、僕はいつの間にか頂上に到着していて、神社の鳥居をくぐって境内に入っていた。
神社はあの子の言う通り、手入れがされずに雑草が生えまくった「ただの古ぼけた神社」のようだった。建物は今にも崩れ落ちそうで、少しだけ右に傾いていた。
一方、ロケーションはすばらしかった。山の頂上にあり、視界は開け、村全体を見下ろせる見晴らしのいいところだった。
「反応点?」
僕は少し気分を落ち着けようと、タバコに火を付けた。
コカコーラという文字が消えそうになった赤いベンチに腰掛け、靴をぬいだ。
小指と薬指の間から下に3分の1だっけか、と右手の親指でその場所を強く押した。
さー、と何かが背中を通り抜けたような気がした。
あの子は一体誰だったんだろうか。本当に神様だったんだろうか。
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