テンプレ小説談義(2)建設的な批判

2021年4月12日


 どうも、あじさいです。


 前回は、世間で「なろう小説」「なろう系」と呼ばれることが多い作品を、このエッセイでは「テンプレ小説」「テンプレ系」と呼ぶことにするという話と、文芸作品についてであっても批判と反論はみ合っている必要があり、したがって「主観的な領域」ではなく「客観的な領域」で議論をするべきだという話をさせていただきました。

 今回は、前回予告したように、テンプレ小説の「客観的な領域」についてどういう批判があるのか、どういう批判が考えられるのか、それらの批判にどのような意義があるのか、と言ったことを考えていきたいと思います。

 とはいえ、代表的なテンプレ小説を紹介してそれらに寄せられる批判を検討していったのでは際限さいげんがありませんし、テンプレ小説に特別詳しい訳でもない筆者がそれをしたところで、みのりある話にもなりませんね。

 そこで、個々の批判よりは、それらを考えるさいの基準や枠組わくぐみ――「理論」と言えるほど大層なものではないにしてもそれに似たもの――について、筆者なりに思うところをお話しさせていただければと思います。




 さて、テンプレ小説とそれに対する批判を考えるにあたって、ひとまずは「客観的な領域」の「作品の内在的な性質(作品それ自体が持つ特徴)」に話を絞ろうと思います。

 もちろん、「作品の社会的な存在意義」も重要ではありますが、最初は考慮すべき事柄が比較的少ない話から始めるのが先決でしょう。


 前回定義した通り、このエッセイで「テンプレ小説」と言っている作品は「テンプレを連想させるWeb小説」のことですが、Web小説であるという性質上、テンプレ小説は他のタイプの小説よりも批判を受けやすい状況に置かれています。

 また、インターネットには不思議な魔力があるようで、ネット上では、配慮はいりょいた「批判」(時には罵詈雑言ばりぞうごん)が書かれがちです。

 仮にそれが文芸雑誌に掲載けいさいされたものであればびることのなかったタイプの批判も、Web小説であれば浴びることが日常茶飯事です(もちろん、書き手と読者の距離感が近いことは悪いことばかりではなくて、公開から(比較的)短時間で好意的なコメントや感想を貰えることが多いという利点もあります)。

 ここで、私たちは思い切った考え方をする必要が出てきます。

 つまり、建設的な(前向きで役に立つ)批判とそうでない批判とを区別して、建設的なものだけを批判と呼ぶに値する批判と位置づけなければならないのです。


 改めて言うまでもなく、このように何かを排除する考え方は、独善的な態度をまねきかねません。

 ただ、事実として、ネット上には脊髄せきずい反射でコメントを書く人々がいて、口に出しても誰も幸せにならないことをわざわざ言う場合があります(かく言う筆者も、これまで色々やらかしてきましたし、現在進行形で黒歴史を重ねているかもしれません)。

 読者の皆さんの中にそういうコメントを書いたことがある方がいらっしゃったら申し訳ないのですが、はっきり申し上げてしまえば、アニメ化が決まった作品の告知PVについて「声優さん(のキャスティング)に違和感がある」だの「漫画コミック版の絵の方が好きだったのに」だの言うのは、その最たるものです。

 いやいや、あのさ、仮にそんなコメントを書いたからって、アニメ制作陣が「よし、不満の声があったから声優を選び直そう! 作画の方針も根本から見直そう!」なんてことを決める訳がないじゃないですか、と。

 仮にそういう不満があってそれを表明したくなったにしても、せめてもう少し建設的な言い方をすべきでしょう。




 筆者としては、テンプレ小説に対する建設的な(前向きで役に立つ)批判は、書き手/読者というじくと、その作品/別作品という軸との組み合わせによって、次の4種類に分けられると考えています。


(1)作者が加筆修正や軌道きどう修正によってその作品をより良いものにするとき役に立つ批判。

(2)作者や他の書き手がその作品とは別の作品を書くとき役に立つ批判。

(3)読者がその作品を読むとき役に立つ批判。

(4)読者がその作品とは別の作品を読むとき役に立つ批判、です。




 一応、論理的には、書き手に書かせる/書かせない、読者に読ませる/読ませないという軸も設定可能で、すなわち上の4つ以外に、「作者や書き手にその作品(あるいはそれ以外)を書かせないことに役立つ批判」、「読者にその作品(あるいはそれ以外)を読ませないことに役立つ批判」といったものも考えることはできるのですが、それらは建設的とは言えない上に、作者や書き手を攻撃しようという悪意がある訳ですから、文芸に対する批判のあるべき姿から逸脱いつだつしていると筆者は思います。

 理想論に聞こえるかもしれませんが、一般的に言って文芸での失敗は書き続けることによってしか取り返せませんし、法治国家においては、書くという選択肢を書き手から奪う権利をいち読者が持つことはありません。

 たしかに、差別的な要素や過激な表現などがあってそのまま公開され続けるのが望ましくない作品も世の中にはありますが、そういう場合であっても、作品の公開/非公開を最終的に決めるのは読者ではなく作者、あるいは小説投稿サイトの運営や出版社であることに留意りゅういすべきです。

 どんな場合であっても、作者に対する(最低限の)敬意や礼儀を忘れたのでは批判でも議論でもない「主観的な領域」の話になってしまいますし、自分の要望を他者に納得させる交渉術の観点から言っても、相手の理解や納得を度外視どがいしした言い方をするのは得策ではありません。


 いや、もちろん、明らかに差別的な要素のある作品を見かければ筆者だって怒りや不快感を覚えて嫌味のひとつも言いたくなりますが、とはいえ、誰かを差別するようなことを小説内に書いている人であっても、自分の差別に自覚的であるとは限りません。

 それに加えて、引っ掛かりは覚えていても、小説を支える他の要素との兼ね合いや、作者の技量不足などのせいで、適切な注釈や批判を入れるタイミングを逃している可能性もあります(というか筆者の小説が割とそんな感じなんですよね……)。

 悪気があってやったことでない可能性がある内は、なるべく平和的に問題点の修正をうながすのが良いと思います。




 また、「書き手/読者」という軸を「書き手/これから作品を読む読者/既に作品を読んだ読者」に加工すれば、「既に作品を読んで不満を持った読者たちの留飲りゅういんを下げることに役立つ批判」という見方を設定することも可能ですが、このタイプの「批判」もあまり建設的とは言えないでしょう。

 それが最終的に具体的な改善点やテンプレ小説に共通する問題点などに言及して、「(2)作者や他の書き手がその作品とは別の作品を書くとき役に立つ批判」となるなら話は別ですが、単にストレス発散のいきを出ず、作者やファンをバカにすることに終始するのであれば、それは批判である前に陰口であり、本人に届きかねないという意味で誹謗中傷ひぼうちゅうしょうや嫌がらせに近いものになってしまいます。


 我ながら優等生を気取っているようで、何か重大な見落としがあるのではないかと不安が残りますが、ともかく理屈の上では、相手がテンプレ小説であっても、文芸に対する批判は前向きで何かしら役に立つものであることが肝要かんよう、ということになると思います。




 誤解のないように申し上げておくと、筆者は別に、このエッセイで言う「建設的な批判」に当てはまらない否定的な意見がすべて許されざるものであり、ネット上から問答無用で削除されるべきだと言うつもりはありません。

 テンプレ小説について主観的な好き/嫌いを言っても構いませんし、作者や関係者に届かないのであれば陰口をたたくことがあっても構わない、と筆者は思っています。

 たとえば政府や大企業がネット上の表現と言論を検閲けんえつして(彼ら彼女らの目から見て)「不適切」な発言を封殺ふうさつする社会になるよりは、多少の矛盾や問題があっても風通しの良いコミュニケーションが行われる社会の方が生きやすいでしょう。

 ただ、ネットという不特定多数が見る場で発言するのであれば、発言者は自分の発言の性質について自覚的であることが望ましいのではないか、とも思います。

 逆に言えば、自分の発言の限界や領分りょうぶんを自覚した上で、それぞれの発言者がそれぞれに思う適切な範囲内で不満をさらけ出してきたない言葉を投げ交わす分には、好きにすればよいのではないでしょうか。


 筆者としてはそういった愚痴ぐちの言い合いをこのエッセイで扱いたいとは思わないので、話を進めるにあたり、とりあえず「建設的な批判」を念頭に置いて考えていきたいと思います。

 もちろん、既に述べたようにこれはひとまず「作品の内在的な性質」に関することという位置づけなので、そのさらに後には「作品の社会的な存在意義」についても扱うつもりです。




 今回はひとまずこんなところで失礼します。

 この「テンプレ小説談義」、話したいことが多い上に、何をどの順番でどのくらいの文字数で書けば分かりやすい話になるのか見極みきわめるのが難しいので、申し訳ありませんが、次回どんな話をすることになるか、はっきりしたことは分かりません。

 ただ、現時点での構想としては、「建設的な批判」の内訳うちわけとして挙げた4種類について、具体例を挙げるところから始めていくことになるのではないかと思っています。


 次回も寛大かんだいな心で、気長にお付き合いいただけると幸いです。

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