新しい辞書。

2021年1月25日


 どうも、あじさいです。


 エッセイを再開したいというのは前々から思っていたことでした。

 そのための一歩を踏み出すため、前回は勢いのまま書いたものを24時間たない内に投稿とうこうさせていただきました。

 もちろん、うつの話は一部の人にしか関係がなく、その意味で心当たりのない皆さんにとっては退屈かもしれないとは思いました。

 ですが、多くの人は時として憂鬱な気分にしずむことがあるでしょうし、可能性の上では誰でも鬱になり得ると聞きます。

 その意味で、前回の内容は、皆さんに覚えておいていただいても良い事だったのではないかと思っています。


 エッセイを再開すると、皆さんの作品を読ませていただいたり、拙作(異世界ファンタジー)を書き進めたりすることがおろそかになりそうで、そこはたしかに不安ですが、とはいえ、エッセイを話の途中で放り出したままにしておくのも居心地が悪いですし、今後もカクヨムで活動するのであれば、どこかで「文芸とは何か」という深遠な問いに向き合う必要が出てきます。

 千里の道も一歩から。

 かめの歩みであっても、自分の納得いく方向を模索していきたいと思います。




 自分でエッセイや小説を書くとなると手放せないのが、辞書です。

 最近、『明鏡国語辞典』を10年ぶりに改訂した第三版が大修館書店から発売されて、その界隈の人々の注目を集めているそうです。

 というか、毎日新聞校閲センターのTwitterアカウントが、この辞書を繰り返し話題にしています。


 せんの皆さんにとっては「はあ、まあ……(好きにしろよ)」という感じかもしれませんが、今回は辞書の話です。




 何をかくそう、筆者もつい最近まで辞書の違いなんて気にしていませんでした。

 これといった考えは特になく、実家に昔から置いてある辞書を使ってきただけでした。

 カクヨムを始めて、書き手さんたちの文章に(おそれ多くも)意見を送らせていただく機会ができて、一時期は「『広辞苑』を買った方が良いのかな」と思っていましたが、調べてみたら高額だったので保留ほりゅうにして今にいたります。

 ですが、どうやら辞書にも出版社ごとに特色や傾向があるらしいです。

 そして、明鏡はその中でも個性派であるとのこと。




 毎日新聞校閲センターによると、「明鏡は『こういう使い方は誤りだ』とはっきり書いているものが多い」そうです。

 第三版で追加されたという誤用の解説から2つ例を挙げると、「疼く」と「後押し」。


***

うずく【疼く】 〔自五〕ずきずきと脈打つように痛む。また、心にそのような痛みを感じる。「傷口が――」「若き日の心の傷が――」 〔注意〕「うずうず」から連想して、心が落ち着きを失う意で使うのは誤り。「血が騒ぐ」との混同。「×アニメ好きの血がうずく」 〔名〕うずき


あと‐おし【後押し】 〔名・他サ変〕①荷車などを後ろから押して助けること。また、その人。②後ろだてとなって支援すること。助力。「企業の――で研究を続ける」「市を挙げて計画の実現を――する」 〔注意〕「不安[低迷]を後押ししている」など、よくない事柄について使うのは誤り。「~に拍車を掛けている」などとする。

***


 元の記事ではもっと他の例も取り上げられています。

 気になる方はこちらをご覧ください。

・毎日新聞校閲センター「“誤用に詳しい”明鏡国語辞典、さらに進化」(2020年12月19日、https://mainichi-kotoba.jp/blog-20201219)



 他の辞書であっても、よくある誤用については「誤用」と書いてあることがありますが、明鏡の場合はそういう例が多い、ということなのでしょう。

 正直、筆者は自分がカクヨムに掲載けいさいした文章の中では「疼く」も「後押し」も使った記憶がないのですが、こういう言葉の厳密な使い方について知っておいてもそんはないように思います。

 「へえー、こういうこと書いてくれてる辞書があるなら使ってみたいなぁ」と思うのは筆者だけではないらしく、プロの校閲者たちも『明鏡国語辞典』を愛用しているそうです。

 もちろん、いまどきネットで検索すれば大抵のことは分かりますし、辞書よりもネット記事の方が分かりやすい解説をしてくれている場合もあるのですが、そうは言っても、ネット記事だと出典リソースや判断の根拠にあらいところもあるので、いざというときは辞書の方がたよりになるのは確かでしょう。


 「筆者も『明鏡国語辞典』を買おうかなぁ」と迷っていますが、『広辞苑』のときと同じく、保留にしたまま買わないような予感もしています。




 当然ながら、きれいな文章を書くなら、そして他人様ひとさまの文章に対してお節介せっかいを焼くなら、辞書にもこだわった方が良いとは思うんです。

 『明鏡国語辞典 第三版』は、1冊の本としては高額でも、辞書としてはそこまで高くないので、買えないこともありません。

 ただ、買うとなると気になるのが、そういったことにこだわり始めると終わりが見えないだろう、ということです。


 辞書の違いにこだわり始めると、結局『広辞苑』や『大辞泉』など分厚ぶあついものも買いあさるようになり、場合によっては百科事典まで求めるようになって、諭吉さん(あるいは渋沢栄一さん)が何人いても足りないことになるかもしれません……が、気になっているのはそこだけではありません。

 そもそもの話として、そこまで神経質に「正しい日本語」、「正しい文章」にこだわる必要はあるのか、という疑問があるからです。


 各新聞社の校閲部が運営するTwitterアカウントを見ていると、誰も知らないような漢語の読み方や、誰も気にしないような言葉の「正しい用法」が紹介されていますが、そういうものを見るたびに、筆者は疑問に思うのです。

 そもそもの話として、「正しい日本語」、「正しい文章」とは誰がどんな根拠で決めたものなんだろう、と。

 いや、もちろん大抵は文科省や出版社が決めてるんですけど、誰かが決めた言葉や文法しか「正しい」と呼べない社会って、かなり息苦しい気がするんですよね。

 極端な言い方をすれば、「言葉は移ろいゆくもので、そこに正しさなどない」というよくある話なのですが、辞書の編纂者へんさんしゃたちが言葉について解釈を変える度に新たに辞書を身としては、そこに注意しない訳にはいきません。


 また、私たちの誰もが常時「正しい日本語」、「正しい文章」にこだわって生きている訳ではない、という点も軽視できません。

 新聞記者や研究者(学者や大学院生など)が、文章の厳密性を担保たんぽするために正しい日本語を書こうと最善を尽くすのは、それはもちろん当然であり、明鏡のような国語辞典はそういう人たちにとって非常に役立つものだと思います。

 また、そういう限定的な場面以外でも、間違って使われた言葉や、曖昧な書き方、不正確な表現などに遭遇そうぐうすれば、違和感を覚えて、本人に確認して必要な修正をしてもらいたいと考えるのも分かります。

 ただ、我々がカクヨムでやっているのは小説やエッセイの執筆であり、それらは必ずしも厳密で正確な日本語で書かれていなくても良いと、筆者は思っています。

 たとえば、以前、カクヨムの短編小説で、こんな記述を見かけました。


「家から少し歩くと、公園が笑っていた。この子もいつか、あの輪に加わるのかと想像すると、今から待ち遠しい」(このはりと『春風散歩』、https://kakuyomu.jp/works/1177354054895123033


 当然ながら、他の表現がないかと言われれば、ない訳じゃないんです。

 読んで分かりやすい文章を目指すだけなら、違った書き方の方が良いということになるでしょう。

 ですが、この小説では「公園が笑っていた」んです。

 このような大胆な「誤用」は、別にプロの作家や文豪の専売特許ではなくて、私たちが書く文章、私たちが何気なく発する日常会話の中にあっても良いと思うんですね。

 筆者のように融通ゆうずうかない人間が辞書にこだわり始めると、そういった言葉の使われ方を受け止めるだけの柔軟性を失うことになりそうで、二の足を踏んでいます。

 これはもちろん、他の書き手さんの作品を読ませていただいて変な難癖をつけてしまう(つけてきた)ことが心配、という意味でもありますが、筆者自身がエッセイや小説を書く上で、自分の発想の幅をせばめることにならないかということも危惧きぐしています。




 明鏡をはじめ、国語辞典の発展のために努力してくださっている皆さんは何も悪くありません。

 ただ、筆者のいたらなさが、筆者自身に対して、「正しい文章と誤用の区別について、分かりやすい解答に安易に飛びついて絶対視するような事態をまねくな」と言っている、というだけの話です。


 どうしたもんかなぁ……

 もうしばらく考えてみます。




 ちなみに、明鏡の国語辞典について、毎日新聞校閲センターは批判的な記事も書いているので、ご興味のある方は読んでみてください。

・毎日新聞校閲センター「校閲記者が気になった明鏡3版の“変化”」(2021年1月23日、https://mainichi-kotoba.jp/blog-20210123)

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