第三十話 入手したウェポンと魔石の使い道
「ったく、めんどくせぇ仕事持ってきやがって」
律儀に報告して返ってきた言葉がこれだ。
「はぁ……」
「ぁあ? リューシ、あたしに向かって溜息とは偉くなったもんだな?」
「いや……偉くなったつもりはないんですけど……なんか疲れちゃって」
「リューシ、ヴィオラちゃんだって疲れてるんだから駄目だよ?」
「う……」
そうだった。今日はリセット日初日で大忙しだったはずだ。ただでさえ大変なのにユニークボスが出たなんて仕事、面倒臭いに決まっている。
「ごめんなさい」
「分かればいいってことよ。じゃあこの話は無かったことで……」
「それは無理な話だ」
周囲が暗くなったので頭上を見上げると腕を組んだバラガさんが見下ろしていた。
「チッ……」
「浅い初心者用ダンジョンにユニークボスが現れたのならランクの再考が必要だ。オークの群れとレッサーサイクロプスは比較にならんからな」
「そうなんですか?」
相対した感想では複数の敵の方が厄介な気がする。単体であればそれ程驚異ではないように思うが……。
「劣等種だがサイクロプスという種族は《邪眼》と呼ばれるスキルを持ってる。魔法系だったり、状態異常系だったりと種類も個体に拠って違ってくるから対策が必要だ」
「閃光弾とか煙幕とかな」
面倒臭いと顔に書いたヴィオラさんが補足してくれる。なるほど、視界さえ封じてしまえばある程度は戦えるが、備えなければ憂いありか。閃光弾や煙幕を常備してる探宮者はそうそう居ないだろう。
「今後、それを用意しなければならなくなる。ということは1度の探索に掛かる費用も上がる。高位の探宮者であれば集めた魔石や素材で大きな収入を得られるが、低位探宮者となると話は変わってくる」
「確かにそうですね……でもボスに用があるのはリセット翌日くらいですし、ある程度は大まかに見積もっても大丈夫なのでは?」
敵自体は変わらない。深度も浅い。初日だけちょっと気を付ければ、初心者用と謳っても問題ないように思える。
「それでいいよ。周知だけ徹底すりゃあ何も問題ねーだろ」
「だがサイクロプスだぞ?」
「この数十年、一度も出なかった奴の為にランクから何まで全部変えんのか?」
僕がちょっと提案した所為でヴィオラさんとバラガさんの間で議論が始まってしまう。
「あの、えっと」
「……すまん、リューシ。この件は一度話し合う必要がありそうだ」
「だな。此処で言い合ったったってしょうがねーし」
とりあえず、険悪な空気は払拭されたみたいだ。しかし僕が持ち込んでしまった面倒事の所為なのでちょっと居心地が悪い。
「そうだそうだ、買取とかあるか?」
「あっ、じゃあサイクロプスとゴブリンの魔石を。ウェポンは使います」
「珍しいな。良いのが出たのか?」
「これですね」
ゴソゴソと鞄から『雷剣パラライザー』を取り出し、カウンターの上に置くと戻ろうとしていたバラガさんも戻ってきて二人で手に取って観察をし始めた。
「あ、いいなこれ……まず見た目が好き」
「何か効果はあるのか? 鑑定がまだなら……」
「あっ、鑑定なら私がしたよ。麻痺効果があるね」
「いいじゃんいいじゃん……麻痺効果は結構使えるぞ。切ったらほぼ勝ちだからな。まぁ効果の長さはウェポンのレア度とかにも関わってくるけど、これくらいのならまぁ……3分くらいは動けないだろうな」
普段は鑑定・買取のカウンターに居ないヴィオラさんだが、短剣には関しては目利きのようだ。この間の路地裏事件の時も短剣1本で数人の男達相手に戦っていたっけ。軽やかに躱しながら一気に懐に潜り込んで鋭い一閃を放つ姿はその状況を忘れてしまうくらい見事で格好良かったな。
「……まぁそんな訳で麻痺ってのは結構レアなんだよ。売ったら金にもなるし、大事に使えよ」
「後衛なので使う機会が少ないことを祈ります」
返してもらったウェポンを鞄に仕舞い、会釈してその場を離れて、鑑定・買取の列に並び直す。そっと顔を覗かせ、列の先を見ると今朝会ったミスカさんがテキパキと探宮者を捌いていた。
リセット日翌日ということで長蛇の列だはあったが、思っていたより早く自分の番が周ってきた。
「お疲れさまです」
「あ、リューシ君だ! 癒やし枠~」
ちょっと何を言ってるか分からないが、とりあえず鞄から買い取り希望の魔石を取り出した。
「これ全部お願いします」
「ふむふむ。ウェポンはいいの?」
「自分で使います」
「りょーかい」
軽いノリのミスカさんだが、仕事となると雰囲気が一変する。そんな真面目な顔つきが出来るのか初対面から1日も経ってないのにとても失礼な事を考えながらジッと待つ。
ゴブリン達の魔石は良いも悪いもないので個数計算で終わる。レッサーサイクロプスの魔石はちょっと時間が掛かった。
「サイクロプス系は邪眼の種類で価値が変わるんだよね。見たところ無傷っぽいけどレジストしたの?」
「いえ、邪眼を使った気配はありませんでした」
「ふむふむ……」
効果の強さでウェポンに組み込んだ際の能力も変わってくるだろう。自分で使う予定のシャドウフォックスの魔石は一体どんな力になるのか、今から楽しみだ。
「なるほど、レッサーサイクロプスの邪眼は雷系の魔法みたいだね。高位のサイクロプスなら邪眼の力も比例して上がって価値も出てくるけど、低位だとあんまり値段は付けられないね……。どうする?」
「んー……どうする?」
隣でふわふわしている姉さんに尋ねてみる。ジッと魔石を見つめていた姉さんは『あっ』と閃いた顔で一つ、提案してくれた。
「手に入れた短剣に組み込めば効果が上昇するんじゃないかな?」
「あ、なるほど」
今回手に入れたウェポンは雷属性の短剣だ。麻痺効果が付属されているので、この魔石を使えば1度の攻撃で麻痺が効く可能性が高くなるだろう。
「じゃあ今回はゴブリンだけで」
「はーい。じゃあ買い取りますっ」
対価をもらい、入手したばかりのお財布用となった革袋にお金を仕舞い、席を立つ。
「ではまた」
「うん、待ってるよー!」
手を振ってくれたので小さめに振り返してそそくさと列を離れた。するとスーッと僕の隣に並んだ姉さんがジッと僕の顔を覗き込む。
「……なに?」
「……」
「何か言ってよ」
「お姉ちゃんの目が黒い内は……」
「もういいって、それ」
んふっ、と変な笑いがこみ上げてくる。アンデッドジョークは笑うから勘弁して欲しい。
「お姉ちゃんは真面目に言ってるの!」
「あははっ」
「もう!」
プンスカと怒るが、こればっかりは許して欲しい。僕は別に何もしてないのだから。
□ □ □ □
我が家の玄関には以前ヴィオラさんからもらった地図が貼られている。色々歩いて散策し、建物が何屋さんで何という名前かを書き込んでいくのが最近のダンジョン探索以外での小さな楽しみだ。
家の周辺とギルドまでの道、クランクベイトまで道は殆ど埋まっている。前にチラッと聞いたベイトリールの場所だけはメモしているが、その周囲は空欄のままだ。
「えーっと、ウェポン技師さんのお店は……あった、此処か」
パイド・パイパーとパラライザーを改造してもらう為のお店は此処から少し離れた場所にあった。3番街と4番街の境目の近くだ。路地裏等は真っ白だけど、表通りだけはどうにか埋まっている。その中に件のお店があった。
「『アズリア工房』……。よし、明日は此処へ行こう」
確か店構えはちょっとオシャレな感じだった気がする。姉さんの部屋のような散らかったお店じゃないだけでも価値があると言える。なんて、姉さんに言うと『あれは散らかってるんじゃない。絶妙な配置が設計されている』と屁理屈を捏ねるだろう。整理整頓されていた方が絶対にやりやすいと僕は断固切り捨てるが。
鞄掛けに背負っていた鞄と脱いだローブを引っ掛けてソファに座り、ふぅ……と人心地つく。
今日、初めてリセット日翌日のダンジョンに潜ったけれど、大変だった。モンスターは多いし、ダンジョン以外での小競り合いもあると知った。でも情報と金銭の収入はお釣りが出るくらい豊作だった。
「週初めくらいは早起きしても良いかなって思っちゃうな……」
元来、朝は弱い方だが、今日を思い返すと早起きする価値は十分あるように思える。あのユニークボスが、どういう理由で出現したのかは分からないが、結構気になる。僕が潜ったから……なんて考えるのは妄想が過ぎるか。
「ベイトリールも楽しみだな……他のダンジョンも……」
先の事を考えても仕方ないが、こればっかりは仕方ない。ワクワクは隠せない。どんどん先に行きたいという気持ちが湧いてくるのはどうしようもないのだ。
「……お風呂入ろっ」
ガバっと起き上がり、着替えを用意して浴室へ向かう。疲れは確かに溜まっていたが、その足取りは今日一の軽やかさだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます