第二十九話 ボスの謎
「開けていい?」
「勿論。リューシが頑張ったご褒美だよ」
柔らかく微笑む姉さんに頷き返し、蓋に手を掛け、持ち上げる。いつもよりも重い蓋を押し上げて、何とか開ききると、中には黒色の丸い宝石と、鞘に収まった短剣、それと革袋が入っていた。
「1つじゃないんだね」
「そうみたいだねー……とりあえずはこの革袋を開けてみようよ」
姉さんに促され、宝箱から取り出した革袋を、何も考えず逆さまにした。
すると中からジャラジャラと大量の金貨が零れ落ちてきた。
「わっ、わっ……」
「ちょ、多いよ……!」
慌ててひっくり返して流出を止めたが、足元には大量の金貨が広がっていた。たかが初心者用のダンジョンでこの量は流石に疑問だ。3番街というのも関係してるのだろうか。
「とりあえず……戻そう」
コクコクと姉さんが頷き、金貨を掬い上げてくれるので、僕は革袋を広げてそれを収納していく。しかしこんな革袋が特殊加工された物とは考えもしなかった。お財布としては凄く便利かもしれない。
数分後、残らず回収し終えたのでささっと鞄の中へ仕舞っておいた。落とす訳にはいかない……大事な生活費だ。
「次は……姉さんの出番だね」
「任せて。ふむ……こっちの短剣は『雷剣パラライザー』。麻痺効果のある短剣だね」
麻痺効果か……。短剣だし、僕のサブウェポンにちょうど良さそうだ。
「そっちの宝石は?」
「魔力が籠ってるから魔石だね……『シャドウフォックスの魔石』だって」
宝箱から魔石か……。魔石はモンスターを倒した後に出現する結晶だ。それがダンジョンから産出されるのは、どういう理由だろう?
「ヴィオラちゃんが言ってた、ダンジョンのお詫びの品々ってやつじゃない?」
「あー、レアな物をあげるので壊さないでくださいってやつ……」
じゃあこの魔石はレアなのだろう。モンスターの種類については詳しくないので、この魔石の持ち主がどれだけ強かったのかは分からないが……。
「パイド・パイパーに組み合わせられないかな?」
「ん……んー……私にはちょっと難しいかな……。技師さんなら出来るかも」
ただくっつくればいいという訳ではないのがウェポン改造だ。ちゃんと素材とウェポンを混ぜ合わせて初めて合成が出来る。基本は錬金術がベースだが、高度な技術となると錬金術の枠を超え、専門分野に変わる。
「じゃあとりあえず持って帰ろうか」
チラ、と大広間の奥を見ると、うっすらと扉が見える。多分、あの先が
入手したウェポンと魔石を仕舞い、さぁ帰ろうと振り向く。するとレッサーサイクロプスが持っていた柱を姉さんが鑑定していた。
「値打ち物だった?」
「なんで柱なんだろうって、おかしいなと思ってね……調べてみたら『
「『
何だろう。何処かの宮殿のことだろうか。聞いたことがない。
「とりあえず……持って帰る?」
「そうだね。もしかしたら何かの情報に繋がるかも」
姉さんが作ってくれた鞄なら多分、くっつけてちょっと押せば入るだろう。
「よいしょ…………よし、これでよし」
無事に柱を収納したので改めて帰ろうと腰を上げたところで、僕達が入ってきた階段の方からガチャガチャと金属音が聞こえてくる。誰か来たようだ。
「……あっ! 先越されてたか……!」
駆け込んできた髭面の男が額を叩いて悔しがる。その後ろからも数人の男女が入ってきたが、僕達しか居ない大広間を眺めて溜息を吐いた。
「すみません、今週は僕達がいただきました」
「早い者勝ちだからな……まぁまた来週頑張るさ」
毎週チャンスがあるのだから諦めなければ大丈夫だろう。道は変わらないし、起きる時間さえ気を付ければ意外といけるだろう。
「それにしても屍術師とアンデッドの二人でよくオーク達に勝てたな……群れ相手は大変だったろう?」
「……? オーク達?」
「ん? 戦ったんだろう? オーク達と」
オークは体の大きいモンスターだ。知能は低いが力が強く、群れで行動をすると本で読んだ。だがこのダンジョンでは見かけなかったな。
「私達が戦ったのはレッサーサイクロプスでしたよ」
「レッサーサイクロプス? ……いや、そんなはずは……お前ら、此処でレッサーサイクロプスに会ったことあるか?」
男が後ろの仲間達に問いかけるが皆、首を横に振った。だが一人の女がポツリと呟いた。
「もしかしたら、ユニークボスだったのかも」
「ユニークボス? 其奴はこんな初心者ダンジョンに出るようなボスじゃないだろう」
聞き慣れない単語だった。
「ユニークボスとは何ですか?」
「あぁ、ユニークボスってのは普段は現れないレアボスみたいな奴だ。本来はもっと深度の深いダンジョンで極稀に遭遇するんだが……こんな浅い場所では普通は出てこないんだ」
「そうなんですか?」
「ユニークボスは特殊な武器を持っていて強いからな。浅い場所だと未熟な探宮者も多い。そうなると太刀打ち出来ないだろう?」
それはそうだ。オークの群れもまぁ、怖いけどある程度の戦闘知識があれば囲まれずに殲滅することは可能だ。
「とりあえずギルドに戻って報告することにします」
「あぁ、その方がいい。俺達はちょっと休憩してから行くよ。気を付けてな」
髭の男が拳を前に突き出す。あっ、これ本で読んだやつだ!
僕も拳を作って男の拳に軽くぶつける。うん、嬉しそうに笑ってくれた。本読んでてよかったぁ……。
後ろの人達とも拳のやつをやってボス部屋を後にした。何かちょっと良い気分である。
□ □ □ □
帰路の途中に遭遇したモンスターを狩りながら進んでいたら結構な時間が経ってしまった。魔石を沢山仕舞った鞄を背負ってダンジョンの外に出た頃には斜陽が町に影を落としていた。
「おぅ、白いの」
「お疲れさまです」
「無事みたいだな。遅かったから心配したぜ」
「ありがとうございます。無事にボスも倒してきました」
「おぉぉ! 其奴ぁすげぇな!!」
思っていた以上に喜んでくれて何だか此方まで嬉しくなってくる。
「アンデッドの嬢ちゃんのお陰だな、これは」
「僕も頑張ったんですよ?」
「ハッハッハ!」
あ、これ信じてないな。確かにリッチーは高位アンデッドだけど僕だってそれなりにやれるんだ。
「明日も来るんだろう?」
「えっと、明日からはベイトリールの方に行こうかなと」
「あんだよー! 寂しいこと言うじゃねぇか!」
情けない声を出している門番さん。でもちょっと嬉しいと思ってしまう。そう思うと逆に申し訳なくなってきてしまう。
「すみません。偶には顔出します」
「いや……ベイトリールに配置替え申請するわ」
「それは引くのでやめてください」
「むぅ……じゃあ時々来いよ。お前には期待してんだからよ!」
ぼすぼすとフードを叩かれる。こうも頭ばかり押さえつけられると本当に身長が伸びなくなるのでやめてもらいたいが、まぁ、気分が良いので許してやるとしよう。
「ありがとうございます。では」
「おぅ。気を付けてな!」
手を振る門番さんにお別れを言い、僕達はギルドに向かった。
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