8-3

 ミシェルの元へ向かう道中、僕はこれからのことについて想像を膨らませていた。


 まず、ミシェルに謝ること。それから飛行機を直して、約束通りミシェルとリノと一緒に空を飛ぶ。空からの景色を見た後は、そのままどこか別の場所へ向かうのだ。そうして、見たことのない景色をリノとミシェルと一緒に見て回る。時には辛いこともあるかもしれない。でも、そのたびに身を寄せ合って、笑ったりして、泣いたりして、「綺麗だね」と囁くのだ。


 僕らが立っているのは、地球という丸い星の地表なのだと、ある本で語られていた。僕らは地球という星の上に立っている。地球は丸いのだと言うのだから、真っすぐ向かえばやがて一周して元の場所に帰ってくることもできるかもしれない。


 なら、僕が生まれた場所を目指して、真っすぐに歩き続けるのはどうだろう。地球を一周して、色々なものを見て回って、そうしてまたこの場所に帰ってくる。


 それは、とても良いことであるような気がした。


 そして、再びこの地に戻ってきた僕の目に、果たしてこの場所はどんな風に映るのだろう。


 懐かしい。美しい。小汚い。寂れている。


 いずれにせよ、今僕が抱いている感情とは別の感情を以ってこの場所を眺めることに違いはないのだろう。


 その時、ミシェルは僕の隣にいるのだろうか。


 その時、リノは僕の隣にいるのだろうか。


 居てほしいなと思う。


 僕と、ミシェルと、リノ。三人で一緒に世界を見て回って、そうしてまたこの地に立って、手を繋ぐ。


 そんな光景を、僕は頭の中で描いていた。


 そうなればいいと、僕は思った。


 そう、思った。


「あれは……」


 あれは何だろう。とても、とても大きな影が二つ、雪の中で立っている。一つは僕たちが目指している管理塔だ。そうして、もう一つの影は。


 リノはその影を見るなり、「急いで!」と言って僕の手を取り駆け出した。


 僕は、リノに手を引かれるまま走り、あの影の元へ急いだ。


「ミシェルは言ってた。この禁地一帯の機能を停止させるって。管理塔の方に見える大きな影、あれは多分ロボットよ」

「ロボット?」

「そう、ロボット。きっと、街だとか、施設だとか、そういったものの機能を守るために動くロボットだと思う」


 僕は、そんなリノの説明を聞きながら、絶えず未来への期待から来る想像を頭の中で膨らませ、ただ茫然と大きな黒い影を眺めながら走った。


 その黒い影は、大きな赤い一つの目玉のようなものを僕らに向けたようだった。


 でも、そこから何かが起こるわけでもなく、その黒い影は静かな雪の中、ドスドスと音を立てて僕達とは反対の方向へと去っていく。


「何かが起こるのは、いつも唐突に……」


 そうリノは言った。


 頂上が崩れ落ちた管理塔の前で、リノはそう言った。


「ミシェル……? ミシェルは?」


 崩れた頂上。瓦礫が雪の上に散乱している。

 

 ジジジジ……


 音が聞こえた。音は、リノのポケットの中から聞こえる。


 リノが取り出したのは、あの通信機だった。


 通信機から、一本の光の線が走る。


 その線の先。


「…………」


 こんな時、どうすればいいのだろうか。


 ミシェルは、こんな時にどうすればいいのか何て教えてはくれなかった。


 教えては、くれなかった。


「ハク……」

「リノ……」


 僕と、ミシェルと、リノ。三人で世界を見て回って、またこの場所に戻ってくる。


「ミシェル……、ミシェル……」


 どうして何も、答えてはくれないのだろう。


 どうしてその手を、動かしてはくれないのだろう。


 ずっと一緒に居てくれると、約束してくれたのに。


 やっぱりミシェルは、嘘つきじゃあないか。

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