第三章
3-1
歌が聞こえる。
その歌を、僕はよく知っていた。
その昔、中々眠る事が出来ない時にミシェルが歌ってくれた歌だ。
その歌を聞くと、僕は不思議と安心することが出来て、無自覚に息を繰り返すようになるかのように、緩やかな曲線をゆっくりと辿るように眠りに着くことが出来た。
昔の僕が夜眠ることが出来なかったのは、心の内に影が落ちていたからだった。ミシェルの歌う歌は、そんな影を僕の意識から緩やかに取りさってくれるのだ。
歌は、光を以て影を取り去るのではなくて、光を消して影を取り去ってくれた。ミシェルの歌は、そういう優しさを持った歌だった。
きっと、またミシェルが僕の傍で歌ってくれている。そう思った。でも、少しずつ明瞭となっていくその歌声を聞いているうちに、歌っているのはミシェルではないと分かった。
良く知っている歌。でも、一度も聞いたことがない歌声。
もうじき目が覚める。
ミシェルと、昔の僕と、あの黒い猫が映り込んだシャボン玉が白い部屋を漂って、それは天井に着く前に弾けて消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます