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「行ってきます!」と私が言うと、お母さんは「早く帰って来なさいよ」と私を見送った。玄関口で妹が「今日こそ一緒に連れて行って」と言って来たけど、やはり私はいつものように「ダメ」と言い返し、勢いよく外へと駆けだした。
町中では私が毎日禁地へ出入りしていることは噂になっていた。昨日だって、今日だって、多分明日も、私が町を駆け抜ければ、周りの大人はヒソヒソと噂話をして私に目を向ける。大人達がそういう様子だから、当然私に話しかけてくる同い年の子なんて一人もいなかった。
別に、それが寂しかったということもない。むしろ私には都合が良かったくらいだった。私は、とにかく過去の人達が生きていた証拠、遺物を眺めることに夢中だった。
町がそんな様相だから、当然お母さんも、私が禁地へ毎日行っていることは知っていた。でも、お母さんは一度だってこの件に関して私に問い質すことはしなかった。
町では独り。でも、私はお母さんと妹がいればよかったから、気にはならなかった。「あいつは変な奴だ」「また禁地へ行くつもりだぞ」「町に災厄がもたらされたらどうしてくれるんだ」そんな声を無視することが出来た。
禁地へ行って、好き勝手に歩き回って、そうして家に帰る。今日も何も見つけることは出来なかったなんて、勝手に落ち込んで私は家に帰る。
でも、その家はもうない。
「お前の所為だ!」という怒号と「早く逃げなさい!」というお母さんの叫び声と、「お姉ちゃん!」という妹の泣き声が聞こえる。
これは私の所為。私が町のルールを破って勝手なことをしてきたから。災いだなんて信じていなかった。でも、私が見ているこの光景は、災いと呼ぶにふさわしいものだった。
一日もかからなかった。町が一つ消えるのには。
一機の巨大な黒い遺物。その四本足で町の家を簡単に踏みつぶしながらそいつはやって来た。長い首と、それから大きな口。目玉が一つ。大きな目玉で町の人を捉えて、口から光の槍のようなものを吐き出した。その矢は大地に大きな穴を穿ち、田畑も、踏みつぶした家も、何もかもを焼き払った。
町が真っ赤に燃えたのだ。私はただ、それを遠くから眺めている。バチバチと、虚しい音を上げて、暗い夜の中で町は燃えていた。
お母さんの声が聞こえる様だ。妹の声が聞こえる様だ。町の人達の声が聞こえる様だ。「どうしてお前が生き残っている」「お前がこの災厄を招いたのだ」「お前ひとりが死ねばよかった」
炎の中から、怒号が聞こえる。
炎の中で、あの巨大なロボットは高らかと奇声を上げる。
「愛している。リノ、どうか生きて」
そう言って、お母さんは炎の中に消えて行った。
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