炎が消えたその後に

(いつもお手紙をありがとう、炎の女王。)

(君の手紙は楽しすぎて、目で追っていたら間に合わないからね、いつも身体を使って読み取っているんだ。)

(そのせいで君を怒らせてしまったね、申し訳ない。)


つまり炎の女王が見たのは、湖の王の身体の中であったということでした。

思えば誰も読んでいない手紙の返事が来るわけがなく、この悲しいすれ違いはしかし、炎の女王が愚かであったというわけではありません。

触れ合ってしまえば消えてしまうのに、触れ合いたいと思う。そんな気持ちを持っていたイファとアダンにはそれが分かるのです。


事実を理解したのか、それとも2人の王が出会った影響か、

真っ黒に染まっていた炎の女王の身体にヒビが入り、黒い部分が剥がれ落ちて元の美しい真紅の姿がその中から現れました。

しかしその姿も徐々にぼやけてきています。

同時に湖の王の身体も霧となって消えていきました。


(消滅が始まっているね、今から距離をとってもこれは止まらないだろう。)

「湖の王、私は……」

炎の女王の言葉を遮るように湖の王が言葉をかけます。

(本当のところを言うと、君の目が手紙に入っていたことは分かっていたんだ。)

(だからもっと早く誤解を解くように働きかければ、消滅することは無かったかも知れない。)

(しかし君を近くに感じたことで、僕も君に会いたいという気持ちが上回ってしまった。)

(許してもらえるだろうか?)


もう殆ど姿の消えかかった炎の女王は頷くと、最後に湖の王に口付けをして


そして全てが消滅しました。



アダンが目を開けると、全てが灰色の世界でした。

湖の国は全て白い煙になり、炎の国は全てが黒い煙になり、それらが混ざり合って見渡す限りの灰色、ただそれだけの世界が広がっていました。

「……アダン?」

名前を呼ばれて振り返ると、そこにはイファが立っていました。

「もうすぐ私たちも消えるんですよね。」

「……そうだね。」


王たちが居なくなった以上、その国に属するものも消滅する運命なのです。2人はその順番がちょっとだけ後だったに過ぎません。


「アダン、私は最期に、あなたを最後まで抱きしめたい。」

イファの口から、思わずそんな言葉がこぼれました。

もはやそこに国境はなく、2人は抱きしめあって。



正反対のエネルギーが混ざり合えば、それは消滅するしかありません。

しかしそこに、少しでも正反対から向きを変えるエネルギーがあるならば……


数日後、ただ灰色な世界の中で、赤い花と青い花が寄り添うように咲いていました。


めでたしめでたし。

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炎の美女と湖の獣 Enju @Enju_mestr

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