10 2年生ダイジェストですわ!
エカテリーナとの別れの後、寂しさを感じる暇もないくらい私は忙しかった。
今回の迷宮探索で知り得た情報の中には世間一般に話せないものもあり、それらをどうするかの話し合いが毎日行われた。
王国側から国王様がわざわざ魔法学園に出向いて来た時は焦ったわね。
諸々の事後処理のためにニールさんがまたしばらく滞在する事になってキャロレインがすごく嫌そうな顔をしていた。
嫌われているよりはかわいがられている方がマシじゃないかと話したら、ニールさんが調査員としての権力をフルに使って授業参観してきたんですのよ!と言われた。
15才にもなって一人だけお兄ちゃんが授業を観に来るなんて恥ずかしいわよねと同情した。
シンドバット達については、今回の協力をもって水神の羽衣を正式にシンドリアンに返還する事が決まった。
これでシンドバットの次期皇帝になるための功績が出来たわね。
早くお姉さんを皇帝の責務から解放してあげたいと言っていたけど、まだお嫁さん候補を絞り切れていないとかで卒業まで魔法学園に籍を置く事になった。
現在は報告のために一度祖国へ帰っている。
協力といえば、マイトさんのゼニー商会のお店が新しくオープンする事が決まった。
場所は魔法学園の一等地で、店舗の規模も新規のお店にしては中々の大きさだ。
勿論、費用は全てダイヤモンド公爵家持ちだ。
来年のオープンのために従業員の募集をしていると言ったので手伝おうか?と言ったらお師匠様から止められた。
ゼニー商会の従業員が着る制服ってとっても可愛いのに残念だ。
代わりにアリアやキャロレインをバイトにさせようとしたらエースやニールさんからも止められた。
看板娘がいたら絶対に儲かるのになんでかしらね。
スリットの入ったチャイナドレスみたいな服ってそんなに駄目なのかなぁ?
エリちゃん先生は事後処理や取り調べが終わるとさっさと学園から出て行った。
ジェリコの件もあって学園理事に空きがあるから復職すれば良いのにと話したが、新しいビジネスの準備をしているからと却下された。
これからはガンガンお金を稼ぐのだと言っていた。
でも、そのお金を貧しい人や身寄りのない子供達のために使っているのは内緒の話だ。
一方で理事長はというと、迷宮から戻ってから態度がよそよそしくなった。
お師匠様が実は自分の息子だった事に未だに戸惑っているみたいだった。
お師匠様の方も、これまでずっと身寄りがないと思っていたら両親がいて、しかも父親は上司だった人となると距離感が掴めない様子。
お互いが気にはなるけど歩み寄れない親子の関係はゆっくりと時間が解決してくれる事を祈ろう。
私としてはお師匠様との結婚式の時に理事長が新郎側の肉親として参加してくれたら嬉しいな。
そうこうして神様に関する話し合いがひと段落する頃には生徒会の選挙があり、新体制の生徒会が誕生した。
生徒会長はエース。副会長にクラブ。庶務としてアリアが加わった。
エースが一番人気で会長になったのは納得だけど、実はクラブがかなり僅差で当選していたのには驚いたわ。
きっとソフィアが暴乳亭でしたアピールが実を結んだのね。
アリアは私を最後まで推薦していたけど、残念ながらお師匠様の手伝いや成績の低い生徒達のコーチをするために断っておいた。
どうしてわたしが……なんてアリアは言っていたけど、神様達が帰る時に出た光の柱は目撃者が多くて、結局はアリアが光の巫女としての力を使って神を降臨させたって事になった。
これによりアリアの
おかげでアリアに釣り合う恋人の
もう同じ平民の人と結婚してのんびり田舎で暮らすなんて事は叶わない夢になってしまった。
そこは【どきメモ】で誰と結ばれても変わらないんだけどね。
どの攻略対象と付き合っても貴族入りは確定になっているし、早々に諦めて誰か素敵な人と結ばれて欲しいわね。
夏が過ぎると忙しさもなくなり、時間もできた私は自分のこれからについて考えるようになった。
このまま学園を卒業してお師匠様と結婚して、それで奥さんとして彼を支える。
果たしてそれだけでいいのか?
別に専業主婦を舐めているわけではないし、お母様を見ていると貴族の奥さんって他の人との付き合いや屋敷の管理で忙しいなとは思う。
今のお師匠様は理事代理だけど、このまま進めば正式な理事として選ばれるだろう。
そうなれば貴族並みの地位になる。私もその妻としてやる事はあるだろう。
でもそうなると、私が今まで学んで鍛え上げてきたこの力は宝の持ち腐れになる。
魔法の知識も実力も、魔法具を作る腕だってあるし、補習の手伝いをしているうちに何を改善すればいいのかを個人に教えれるようになった。
それが結構楽しいのだ。
だからこの魔法学園で私はお師匠様の妻として以外に何か自分に出来る事はないかを探そうと思う。
学園の木々から葉っぱが全て落ちてしまう頃には本格的な迷宮の探索が授業で始まった。
もうJOKERや闇の軍勢はいないとはいえ、魔法使いの実力を底上げするには実戦が一番という判断になったのだ。
私達がほとんどの魔獣を倒したおかげで、迷宮探索は非常に楽になった。
流石に九層は突破不可能なので最大で八層までのものになったけど、大半の生徒は半分もいかずにギブアップしてしまった。
そんな中、私とアリアといつものクラスメイト達で組んだパーティーは八層まで到達して最高評価をもらい、今年度も優秀な成績が確定した。
今年は去年と違って成績に変動があった。
クラブがジャックに負けて、ジャックがエースに負けたのだ。
この時のエースとジャックの戦いは学園の歴史に残るような白熱した試合になった。
私も観戦していたけど、最終的には二人の王子が素手での殴り合いをしてクロスカウンターで決着。
エースが先に立ち上がるという泥臭いけどかっこいい結末だった。
そして、この試合に特別な思いがあったのか、ジャックはエースに王位を譲ると言った。
これによりエースが次期国王になる事がほぼ確実に決まった。
当初想定していたような反発は起きなかった。爵位の低い貴族達もエースが家臣を蔑ろにするような人では無いと知ったし、彼がJOKERを倒して聖剣を持って迷宮を突破し、神と対話した事から初代国王の再来として支持する人も増えていたからだ。
ジャックがエースの下についたのも大きく、派閥争いも無事に解決してくれた。
とはいえ、ジャックを慕う人達は多く、熱血集団が演習場で筋トレや剣の修行をする姿は絶えなかった。
それを見てエリスさんは嬉しそうに笑っていた。
王位継承争いが終わったなら遠慮する必要はありませんね?って言った時の鋭い視線は印象的だった。
まぁ、彼女の卒業も近いし、観念しなさいジャック。
雪が降り始めた頃、二回目の祈願祭が始まった。
警備体制が大幅に強化された魔法学園内では特に大きな問題もなく、とても賑わっていた。
同じ学年の子達とあちこちの出店を見て回り、去年と同じドレスを着たらダンスパーティーに参加だ。
今年の主役は私達なので2年生は全員参加。
他にもキャロレインが1年生首席としてドレスを着て参加していた。
卒業式を控えて忙しい時期だと思っていたのにエリスさんは参加していた。え?進路はもう決まっているから心配いらない?……そうですか。
恋人を求めて男子達が女の子に声をかけていたけど、私の所へは誰もこなかった。
うーん。やっぱり私ってモテないのかしらね?
ドレス着て化粧もすれば結構な美少女だって思うんだけどなぁ。
今回もソフィアは招待状を使って参加した。
ただし、去年と違うのは私ではなくクラブの付き添いとしてだ。
ドレスだってレンタルじゃなくて新品を一から仕立てたものだ。
それもこれもクラブが用意したもので、どうやらあの二人の仲に進展があったみたいね。
ソフィアが照れ臭そうに笑っている姿はとっても可愛いわ。
クラブとソフィアが結婚すると彼女は私の義理の妹になるわけだけど、大歓迎ね。
お父様は渋い顔をして反対するかもしれないけど、その時はお師匠様の手も借りて説得させましょうか。
キャロレインは再び学園に戻って来たシンドバットと楽しそうに談笑している姿が見えた。
その後ろでモルジャーナさんが寂しそうにしているけど、ちゃんとフォローしておきなさいよね。
理事長からの挨拶が終わり演奏と共にダンスが始まると、私はお師匠様から手を掴まれて踊る事になった。
ここに来て周囲に私がお師匠様の婚約者である事を伝えると、誰も驚いてくれなかった。
なんでも私とお師匠様の普段の雰囲気やら休みの日にデートしている姿を見て察していたようだ。
祝福の拍手は貰ったけど、まさか全員にバレているなんて思いもしなかったわ。
会場が一番ざわついたのはエースがアリアと踊った後に彼女を正式な婚約者に迎え入れると発表した事だった。
私の知らないところでフラグ建てて攻略しちゃったの!?とアリアを見ると、当人は豆鉄砲を受けた鳩みたいに目を丸くしていた。
一番驚いているのがアリアだったのはなんで?
まぁ、光の巫女としてどんどん有名になるアリアには国王になるエースくらいじゃないと釣り合わないけど、まさかね。
いや、本来のゲームシナリオを考えるとピッタリね。
2年生のダンスパーティーで主人公は一番好感度の高い攻略対象と結ばれるんだもの。
大きな違いがあるとすれば、そこに悪役令嬢としてシルヴィアが出しゃばらない事ね。
私はお師匠様と一緒に二人にお祝いの言葉を送った。
これでアリアの変態性も少しは落ち着いてくれるわよね。……ね?
色々な変化や重大発表もあり、私のシルヴィア・クローバーの魔法学園2年目は終了した。
卒業式も無事に終わり、長期休みに入るとアリアは王城の方に連れて行かれた。
国王様に色々と報告しなきゃいけなくて、助けてお姉様!なんて言われたけど、お幸せにね?と言っておいた。
クローバー領に戻り、私はお父様とお母様の前に正座させられてお説教を受けた。
二人共、クラブやソフィアからの報告の手紙を読んで大変ご立腹だった。
そりゃあ、水中神殿で死にかけたりJOKERに拐われたり闇の巫女になったり光の神から連れて行かれそうなったけど、最終的に元気だからセーフじゃない?
……ダメですか。はい。
2年間で私が関わった事件の羅列をすると、それだけでいくつも本が書けそうな量だ。
それにしてもよく生きてるわよね私。
ソフィアとクラブの件については家族会議が開かれる事になったけど、お母様はソフィアを応援してくれるらしいので、お父様だけが家族全員から敵認定されてしまった。
ドンマイお父様。それからごめんなさいね。
屋敷にいる間は私も別邸でお師匠様と過ごす事になった。
私の使っていた部屋はそのままリーフが使う流れになったのだ。
卒業前にはこっちにある荷物を全部魔法学園に送らないとね。
「シルヴィア。もっとこっちに寄りなさい」
「嫌です。絶対に寝かせる気ないでしょお師匠様」
「……否定はしないな」
「そこははっきり否定してよね。なんですかクローバー領に戻ってから毎日毎日ベッタリして」
二人で寝ても余裕があるベッドの上で私はお師匠様と話していた。
「……エカテリーナがいなくなってから寂しくなった。私は自分が思っていた以上に子供が好きらしい」
「それ言って私が近づくと思いますか?まだ来年も学生なんですよ私は!それは不味いですって」
ここでうっかりしたせいで休学して、卒業がキャロレインと同じになる事は避けたい。
「そこまで私も愚かではない。ただ……そうだな。人肌が恋しくなったというか誰かともっと触れ合っていたいと思うようになった」
「あんなに一人が気楽だから好きだって言ってたのに、どういう心の変化ですか?」
暗い部屋の中、差し込む月明かりでお師匠様の顔がはっきりと見えた。
「幸せだから欲が出たのかもしれないな。シルヴィアのおかげだ」
自分の出自を知る事が出来た。
天職とも呼べる教師になれた。
友達と気軽に過ごせるようになった。
自分を差別せずに対等に話てくれる人に知り合えた。
一時期とはいえ、子どもも出来たし、婚約者もいる。
「君を愛している。シルヴィア」
「マーリン……」
私達はお互いの顔を自然と近づけ、そしてなんだか妙に照れ恥ずかしい空気に笑った。
「「あははっ」」
ねぇ、お師匠様。
私今、とっても幸せですよ。
貴方のおかげで。
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