06 光の神と妖精女王ですわ!

 

 ドラゴンや私とアリアの魔法でビクともしなかった壁に穴が空いた。

 ここを守っていた守護者が倒されないと次へと進む道は出現しない仕様ね。

 トラップの可能性もあると疲れた顔でお師匠様は言っていたけど、エカテリーナがこの道を指差したので、正解のルートだと納得してくれた。


 爆発四散したドラゴンの肉体は欠片も残らずに消えてしまった。

 理事長曰く、しばらく時間が経てば復活するらしい。

 迷宮のボスは迷宮が存在する限り何度でも蘇るとか。

 素材をゲット出来なかったからお師匠様が落ち込んだけど、この先にはドラゴンの素材より凄い光景が待っていると説得したら機嫌が戻った。


「長いですね」

「魔力もすっからかんなのにこの地獄みたいな階段って最悪よ。帰りはエレベーターがいい」


 でも、この世界にそんな文明の利器は存在しない。

 あれって重りと中の乗る部分で高さを調整しているのよね。今度、マイトさんやお師匠様を巻き込んで開発してみようかな。

 魔法学園の校舎も高さがあるから最上階まで登るのが辛いのよね。


 今後の話を考えながら長い階段を下り終わると、そこには幻想的な光景が広がっていた。

 まず、地下深くなのに空気が美味しくて、明るい。

 光源となっているのはドーム上になっているこの第十層の天井。そこに生えている鉱石達だ。

 宝石みたいな石たちが自分でキラキラ光り輝いている。

 その温かい光を浴びて、足元には草花が生えている。

 どれも地上では見かけない種類だ。地下限定の植物なのかしら?


 そして、そんな不思議な場所の中央には泉があった。

 光と水。これが揃っているからここはこんなにも自然豊かなのだろう。


「あの泉、信じられないさね」

「どうかしたんですかホーエンハイムさん」

「アタシの事はエリちゃんと呼びな、王子様。あの水はね、全部魔力の塊さね」

「なにっ!?」


 地面から魔力の水が湧き出る泉。

 それが全て高濃度の魔力の塊となれば誰もが驚く。

 この泉の水を使えばお師匠様を助けたエリクサーが量産出来ちゃう。

 聖杯に頼らなくても何だって魔法を使えちゃうようなとんでもない代物だ。


「だとしたら益々おかしいさね。アルバスがこんな場所を見て持ち帰らないわけがないさね」

「そうじゃな。……一体、どうして儂の記憶は消えとるんじゃ?」


 周囲を観察し、どうしたものかと悩んでいると、突然に泉が緑色に輝き出した。

 ざわざわと風が吹く。


「な、なんなの!?」

「【心配しないでママ。アレは大丈夫だよ】」


 身構える私とは対照的にエカテリーナが落ち着いた声で諭す。

 その直後、光っている泉から半透明な影が浮き出た。

 影は徐々に人の形をしていく。


『……わたくしの声が聞こえますか?』


 するとそこには薄い七色の翅を背中に生やした耳の長い緑髪の女性が半透明な姿で現れた。


「【ティターニアだ】」

『……この魔力は闇の神ですか。随分とおかわいい姿になられましたね』


 エカテリーナは何の警戒心も無く半透明で足が無い女性に手を振る。

 女性の方もそれに応じるように小さく手を振った。


「貴方は誰ですか?」

『……わたくしはティターニア。かつて妖精族を率いて闇の軍勢と戦った女王でございます』


 妖精女王!?

 なんだか凄い人が出て来たわね。

 神様以外にも昔話の登場人物に会えるなんて思ってもみなかったわ。


「半透明なのはどういう意味だい?本物ならそんな幻影みたいな姿じゃ無いとアタシは思うんだけどね」

『……わたくしは既にこの世での肉体を失っています。この姿はわたくしの魂を魔力で形取ったもの。今のわたくしは亡霊のようなものだと思ってください』


 妖精の女王様っていうぐらいだからとっても長生きしていると思ったら、もう既に亡くなっていたのね。

 それにしても感動的だわ。

 ティターニアさんはとっても美人で儚げなイメージがある。こんか人が闇の軍勢と戦っていただなんてとても信じられないわ。


『……光の巫女はどちらに?』

「はい。わたしです」

『光の神がお待ちです。ちょっとこちらに来ていただけると助かります』


 ティターニアさんはアリアを手招きする。

 アリアが泉に近づくと、魔力の塊である水が霧状になってアリアに降り注ぐ。

 すると、アリアの身体がぼんやりと光出したのだ。


「あれは、アリアくんは大丈夫なのか?」

「心配しないでエース。前に言ったけど、あの変化は神を降ろしているのよ」

「【闇の巫女が言う通りさ】」


 光に包まれたアリアの声の雰囲気が変わる。

 エースや理事長、エリちゃん先生は驚くけど、私とお師匠様は二回目だ。

 かわいらしさと元気が魅力のアリアから放たれる神々しさと美しさ。

 普段の私の寝込みを襲わんとするアホな顔から慈愛の眼差しを感じた。


「【この場なら巫女への負担も軽いよ。本来はここで降臨の儀式をするんだよ。前の方がイレギュラーだったのさ】」

「ほっ……」


 神様から保障され、胸を撫で下ろすエース。

 アリアの事がかなり心配だったみたいね。

 流石は攻略キャラと主人公。私の知らないところでフラグでも建てたのかしら?


「【よくこの迷宮を突破したね】」

「それについてなんですけど、もっと迷宮の中身について教えてくれても良かったじゃないですか?ボスのドラゴンなんて苦戦して下手したら死んでましたよ」


 私は光の神に抗議する。

 後ろでエリちゃん先生が「神に対してなんて言葉遣いだい!」とか言ってるけど、見た目がアリアだし、なんか茶目っ気あるのよねこの神。


「【そこを言ったら試練にならないだろう?甘やかすだけじゃなくて厳しいのも神様の仕事さ】」

「ただ私達が慌てふためくのを酒の肴にしてただけだったりして」

「【……ソンナコトナイヨ】」


 アリアの顔で視線を逸らした光の神。

 こ、こいつ!


『申し訳ありません。有事の際には役に立ちますし、啓示などの仕事もしっかりなさる方なのですが、それ以外だと戯れが過ぎる事が多々ありまして』


 下手くそな口笛を吹き出した光の神に変わってティターニアさんが頭を下げた。

 二人の関係性的に上司と部下みたいに感じるけど、それでいいのか駄目上司。


「【光の神、ポンコツ〜】」

「【子どもの姿のキミに言われると腹立つね闇の神。ちょっと痛い目に遭わせてやろうか】」

『子に暴力を振るうのは最低の行いですよ』

「【いや、こんな見た目だけど神だからね!?】」


 神様コントをする光の神と妖精女王。

 ここまでフレンドリーというか、おちゃらけていると、エースやエリちゃん先生の緊張も解れてきた。

 むしろ私は呆れているんだけどね。


「【コホン。気を取り直して】」


 さっきまでの失言など無かったかのように微笑む光の神。

 こんなのがこの国で一番信仰されているのよね。


「【よくぞここまで辿り着いた人の子達よ。様々な苦難を乗り越えたキミらは始まりの英雄達にも引けを取らないだろう】」


 アリアの姿で私達を称える光の神。


「【その中でも特に、啓示を受け、光の巫女を探し出して導き、闇の軍勢を率いたJOKERとも戦ったキミを私は褒めるよ】」

「いえ、私はそこまで大した事はしていない。全てこのシルヴィアのおかげです」


 お師匠様は素直に褒め言葉を受け取らずに私の手柄だと言う。

 神様に褒められるなんて凄い事なんだから素直に受け取ればいいのに。

 私だって、エカテリーナを召喚したり迫りくる敵と戦えたのはお師匠様との修行があったからよ。


「【そんなキミには特別に褒美を与えると言っていたね】」

「えぇ。私の両親に逢わせると言っていましたね」

「【そうだよ。それにはまずはコレをしなければいけないね】」


 アリアのポケットから杖を取り出す光の神。

 そして魔法を唱えると、一条の光が私達の方へ、マグノリア理事長の元へと飛んで行った。


「【キミから預かった記憶を返すよ】」

「ぐっ……これが、儂の記憶?……くっ」


 頭を抱えて膝から崩れ落ちる理事長。

 急に苦しそうしているけど大丈夫なのよね?


「……そうか。そういう事じゃったのか」

「何を思い出したんだいアルバス!?」


 杖を支えにヨロヨロと立ち上がる理事長にエリちゃん先生が近寄る。

 それを見て光の神はご満悦そうに言った。


「【マーリン。キミの母はここにいるティターニア。そして父親はそこの男だよ】」

「え、えええええええええええええぇぇぇっ!?」


 私は今日一番の大きな声を出して驚いた。

 他のみんなも、お師匠様だって目を丸くしている。




 だって、お師匠様が妖精女王のティターニアさんと魔法学園理事長で最強の魔法使いと呼ばれるアルバス・マグノリアとの子供だなんて!?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る