05 迷宮探索・後編です!

 

 魔法学園迷宮・第九層。


 これまでの階層とは違って、大きな扉が一つあるだけ。

 扉には壁画。ただ、ボロボロになっていて何が描いてあったのかは分からない。

 他の神殿よりも劣化が早いのか、それとももっと古くからあるのか。


「他に道はなさそうですね」

「ここだけみたいですよ。なんだか怖い雰囲気を奥から感じます」


 扉の奥から何かを感じたのか、アリアが怯えている。

 私も何となくだけど、嫌な感じがする。


「こりゃあ、近寄らないわけさね」

「エース、聖剣を抜いておきなさい。シルヴィアは魔法障壁の用意を。突入するぞ」


 何が出てきてもいいように、魔法を発動させる一歩手前で準備しておく。

 最悪の場合はエカテリーナの闇の神としての力も使うわよ。

 お師匠様からは神の力を使うとどんな代償があるか分からないから使用禁止って言われているけど、命には変えられない。

 お師匠様やアリア達を失いたくはないもの。


 準備が出来た所で、お師匠様が扉を押し開ける。

 まず思ったのが、部屋の広さだった。

 九層は大きな部屋が一つあるだけ。天井も高いし、階層まるまるの広さは演習場くらいある。

 隠れる場所もないし、トラップも無さそうだ。


 次に目に入ったのは、そんな大部屋の真ん中にある巨大な影。

 魔法陣の上でいびきをしながら寝ているのはここの守護者、迷宮のボスって所ね。


 侵入者に反応したのか、魔法陣が赤く発光して消える。

 そして眠っていたボスの目がゆっくりと開かれた。


「グギャアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!」


 四本の足、雄々しい翼と鋭い鉤爪。

 全身が金色でしなやかな首が三つに分かれている。

 雄叫びを上げながらこちらを見る瞳から敵意を感じる。

 大人しく素通りさせてくれるつもりは無いみたい。


「お師匠様!アレ何!?」

「私も知らない。鱗やシルエットはドラゴンに似ているが、アレは…」

「アレは魔帝邪竜アジ・ダハーカじゃ。気を付けるんじゃ。アレは千の魔法を操る災厄の竜じゃ」


 なんだか凄そうな名前が出てきたんですけど!

 そんなもんが迷宮のボスなんかやってていいんですか!?


 何とかドラゴンは大きく息を吸うと、口から火炎放射を吐き出した。


「お、お姉様!ヤバい!アレはヤバいですって!!」

「ドラゴンは絶滅種じゃなかったのか?それよりも、どうやってあんな大きさの敵を」


 馬鹿正直に攻撃を受け止めるなんてことはせずに私達はバラバラに逃げ惑う。

 ドラゴンの大きさは二十メートル以上はある。

 JOKERの召喚した大蜘蛛や闇の神の本来のサイズと同じくらいの大怪獣。

 しかもあんな大きさなのに四本足で力強く走ってくるってどういう事よ!?


「アルバス!アンタは昔、どうやってアレと戦ったんだい!」

「それも覚えておらんのじゃ。そもそも、いくら儂でもアジ・ダハーカとなれば臆して逃げそうなもんじゃがな」


 私の中で絶対的な強者であったはずの理事長が冷や汗を流している。

 ど、どうすればいいのよ。

 三つの首からそれぞれ別の魔法を放つドラゴン。

 近づけるわけなく、逃げながら攻撃する事になった。


 アリアの光弾が、私の風の刃が、魔法による攻撃が命中するけど、敵は止まる気配が無い。

 魔法に強い耐性でも持っているのかしら?


「攻撃が通用しません!」

「魔法が通用せぬなら別の手段じゃ。ゆけ!ルヴィ」


 理事長の足元から炎に包まれた鳥が出現した。

 そうか、召喚獣で物理的に戦えば!


「お願いユニコーン!」

「金獅子よ頼む!」


 その意図を読み取りアリアとエースも召喚する。

 お師匠様も大量のワンちゃん達を呼び出して攻撃に参加させる。


「やれやれ。仕方ないさね」


 エリちゃん先生の召喚獣は白い毛の大猿だった。

 攻撃でめくれた地面から岩を掴んで器用に投げている。


「グギャア!」


 次から次へと現れた召喚獣に襲われ、ドラゴンも肌から血を流した。

 いいわよ。攻撃にが効いてる。


「くっ。決定打に欠けるか」

「この部屋は地脈の真上。アジ・ダハーカはそもそも保有する魔力が桁違いじゃ。膠着状態になればこちらが不利」


 苦しい顔をするお師匠様と理事長。

 魔法学園トップクラスの二人がお手上げって、どれだけ強いのよ。


「首が三つあるのも邪魔さね。同時に三属性をバラバラに吐くんだから」

「首……」


 妙案を思いついた。

 これなら相手の動きを封じられるわ!


「【ママ】」

「エカテリーナは壁際で待ってて。貴方の力を借りなくても私は勝てるから」

「【頑張ってね】」


 エカテリーナが下がったのを見て、私は杖を握りしめて駆け出す。


「シルヴィア!?」


 敵の前へと進む私に驚くお師匠様。


「こっち向きなさい!」


 私は頭の一つに魔法をぶつけた。

 攻撃は効いていないけど、注意を引きつける事には成功した。


「グギャア!」


 三つの頭にはそれぞれ性格があるみたいで、私が選んだのは左端の一番頭が悪そうな奴。

 残る二つの頭は召喚獣達の対処に追われている。


 左頭は私を食べようと大きな口を開いて顔を近づけてくる。

 身体強化でひたすらに走る私は、ドラゴンの足元を左から右へと移動する。


「アリア!右頭よろしく」

「もうやってます!」


 ユニコーンの背中に乗ったアリアが眩しい光で右端の頭を刺激する。

 チカチカする光が煩わしそうな右頭はアリアに狙いを定めて首で追いながら攻撃をする。


「エリちゃん先生」

「けっ。よく作戦を思いつくもんさね!」


 白い大猿が一番真面目そうな真ん中の首を殴って叩き落す。

 右と左が逆向きに首を伸ばして出来た隙間に頭を通せば完成よ!


「グギャ!」

「ギャアアーー!」

「ギギッ…!」


 しなやかで長い首っていう長所が仇になったわね!

 三つ首のドラゴンはお互いの頭が絡まって動きが止まった。

 喉元から圧迫されていて口からブレス攻撃も出来ない。


「今よお師匠様!」

「君にはいつも驚かせられる。……エース、理事長、仕留めるぞ!」


 お師匠様は腰から魔法が付与された剣を。

 理事長は土魔法で岩をガチガチに固めてドラゴンの頭上へ。

 エースは聖剣に魔力を込める。すると、剣は光り輝き出した。


 依然首が絡まったままのドラゴンは苦しそうに身動きがとれない。

 そこがチャンスよ!


「「「うぉおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」


 ほぼ同時に三つの首が切られ、押し潰され、吹き飛ばさせる。

 断末魔を叫ぶ暇なく、アジ・ダハーカは生命活動を停止させられた。

 首が無くなった胴体はゆっくりと地に倒れた。


「やったわ!」

「お姉様、それ負けフラグです」


 いや、だって頭を全部無くしたら生き物として死ぬでしょ。



 ーーモゾっ。



「………うそーん」


 ビチビチと首が再生を始めた。

 早送りした植物の成長動画みたいに角が、牙が生えてくる。

 一度首を切り落としたせいで絡まった部分は解けている。


「どうするさね!!」

「俺はもう魔力が……」


 召喚獣を大暴れさせたせいでエースとエリちゃん先生は膝をついている。

 お師匠様だって汗をかいているし、理事長も苦しそうな顔だ。


「……私がやるわ」


 そう宣言して再生中のドラゴンに近づく。

 私は自分の中にある魔力を全て掻き集めて魔法を発動させる。


「わたしも手伝います」


 アリアが横に立つ。

 私とアリアの二人の魔力が重なる。

 すると周囲から半透明な生き物達が次々と出現する。

 そのどれもが高密度の魔力の塊。


 ドラゴンが大暴れしても崩れる事の無かった迷宮だったら加減しなくていいわよね。


「「いっけぇえええええ!!」」


 私達の杖が振り下ろされると、半透明の生き物達は連鎖爆破を起こした。
















 ▽守護者消滅により魔法学園迷宮、突破!


 ▽最下層へと道が解放されました。



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