04 迷宮探索・中編ですって!?

 

 ここだけの話なんだけど、実はこの迷宮って【どきメモ】にも登場したりする。

 前に私が隠しアイテムを探していた場所の最後の一つがここなのよね。

 ただ困った事に何が隠されているかを私は知らない。

 この迷宮のクリア難易度は激ムズで、ストーリーを何周もクリアして経験値やレベルを上げて挑む仕様になっている。

 本来なら初見じゃクリア出来ないのよね。


 ただ、そこは現実とゲームの違い。

 本来ならこの迷宮に参加しない私やお師匠様、エリスさんや理事長やエリちゃん先生にキャロレイン、ニールさんもいる。

 追加メンバーが揃いも揃って強いし、どうもアリアと攻略キャラ達のレベルも限界まで鍛え上げられている。


 とはいえ、遊びじゃなくて命がかかっているから軽い気持ちで挑んではいけない。

 最新の注意を払って、身長に、だけど確実に最下層に進まなきゃならないの。


「……この紐って何かしら?」

「はいはいお姉様。スルーしましょうね」


 不自然に天井から吊るされている紐を見つけたので近づこうとするとアリアから手を引かれる。


「むむっ。あそこに隠し扉の気配が!」

「さっきはそう言って毒沼に落ちかけましたよね。さぁ、無視して前に進みましょう!」


 えー、あそこに宝箱とかあるパターンだと思うんだけどなぁ。

 それにさっきの毒沼だって私にかかれば……なんて思ったけど、あれって毒というか溶解液の沼だったのよね。エカテリーナは普通に渡って宝箱拾って来たけど。

 宝箱の中身は野球ボールサイズの宝石だったわ。迷宮は珍しい鉱石や宝石を生み出すという話は本当だったのよね。


「アリア。シルヴィアの手綱はしっかり握っておけよ

 」

「了解ですジャック様」


 先頭を進みながら疲れた顔をしたジャックにアリアが返事をした。

 既にここは第八層。

 迷宮に潜ってかれこれ数時間は過ぎている。

 途中で罠も魔獣もいない場所で休憩したとはいえ、みんなの疲労も溜まって来た。

 特に先頭で精神を擦り切らしているジャックの限界は近いかもしれないわね。


「理事長。迷宮は全部で何層まであるんでしたっけ?」

「この迷宮は十層までじゃ。じゃが、昔は九層手前で引き返しておったな」

「それはどうして?」

「……九層にはこの迷宮の守護者がおってな、学生レベルではとても太刀打ち出来ないのじゃ」

「それなのに最終層が十層ってわかるんですか?」

「儂は攻略した事があるんじゃよ」


 その言葉にこの場にいた全員が驚く。

 私達が集まってやっとこさ進んでいるこの迷宮をクリアしたの!?


「言っておくが、儂が攻略をした時はここまで迷宮が活発になってはおらんかったし、一人で姿と気配を消して魔獣との戦いは全て無視したからの。自慢できんのじゃよ」


 ステルスモードの理事長。

 光魔法と闇魔法を両方使えて、姿を消す魔法をずっと維持できる集中力と魔力が無いと真似できない。

 お師匠様でも無理ゲーじゃないの?


「それに十層の事を覚えておらん。迷宮の最深部に行ったのは事実じゃが、何があったのか、記憶が無くなるような何かがあったのか、何も覚えておらん」

「ボケたんじゃないかい?」

「儂は長生きしとるがまだまだ元気じゃ。恐らくは神に関係する何かがあったんじゃろうよ」


 エリちゃん先生の嫌味をサラッと流して言葉を返す理事長。

 闇の神の力を知っている私からすると、それもあり得るのかもしれない。あのJOKERだって神の力の前には無力だった。

 記憶を消されるなんて何があったのだろうか。


「グガァ!」

「お話のところ悪いですが、魔獣だ!」


 私達が通って来た通路の脇道からイノシシのような魔獣が襲いかかって来た。

 最後尾にいるキャロレインとニールさんが対応する。


「これでもくらえですの!」

「キャロ!少し前に出過ぎだ」


 息の合った兄妹の魔法はイノシシの頭部に命中する。

 しかし、ここは第八層。魔獣の強さも迷宮が深くなるにつれて強くなっていた。

 イノシシは石礫を物ともせずに真っ直ぐにキャロレインを狙う。


「きゃっ!?」

「うぉおおおお!」


 キャロレインを庇うような形で突き飛ばすニールさん。

 そうなるとイノシシの突進コース上に立つ事になるが、ニールさんは足元に穴を開けた。

 イノシシは突如ぽっかり開いた穴に勢いよく落ちた。


「後は任せろ」


 お師匠様が穴の中にいるイノシシへと火魔法を放つ。

 逃げ場の無い中で炎に焼かれると、魔獣は断末魔をあげて動かなくなった。


「大丈夫かい?キャロ」

「助かりましたですの。義兄様、お怪我は?」

「いや。攻撃は当たっていないから怪我はしていないけど、ちょっとそろそろ魔力がね」


 咄嗟に力を込めて大きな穴を開けたせいでニールさんの息は乱れていた。

 顔色も優れない。


「悔しいけど、魔力量はマーリンには及ばないからね」

「むしろここまでよくやった方だ。比較する対象を間違えているぞ」


 ニールさんの強さは一級なんだけど、お師匠様や理事長と比べると劣る。

 アリアの成長力は底が見えないし、聖剣を持ったエースはシンドバットみたいに強化されている。


「次の安全地帯で待機だな」

「なら、わたくしも残りますわ」


 そう言ったのはキャロレインだ。


「正直なところ魔力が心もとないんですの。帰り道を考えると休憩して回復させてください」

「なら、わたくしとジャックもお願いします」

「何を言うんだエリス姉!」


 エリスさんの提案を否定しようとするジャック。

 しかし、彼の体力が限界に近いのは誰が見ても確かだった。


「そんな体で何が出来るの?」

「まだオレは戦える」

「そう。……だったら」


 歯を食いしばって耐えようとするジャックに向けてエリスさんは杖を振りかざした。

 彼女の持つ杖の先から黒いモヤが出て、ジャックを包み込んだ。


「な、何を……」


 抵抗する暇もなく、ジャックの意識は途絶えた。

 そのまま地面に倒れそうになった体をエリスさんが受け止める。


「エリス……」

「ごめんなさいねエース。でも、こうでもしないとジャックは休んでくれないの。それは貴方が一番良く知っているでしょ?」

「そうだな。人一番負けず嫌いで諦めが悪いのがジャックだ。後は俺達に任せてくれ」


 きっと目が覚めたジャックは悔しがるだろう。

 だけど、ここでリタイアするのが最善だとエリスさんは判断した。

 この先には強力な守護者がいるという。

 そんな場所に疲弊したジャックがいればどんな目に遭うか想像は簡単だ。

 最悪の事態になる前に休んでもらうのも正しい事だと納得してくれるといいんだけどね。


「ジャックが目覚めたら伝言をお願いしていいかしら?帰り道は頼りにしてるって」

「任せてくださいシルヴィアさん。それから、エースとアリアさん、ご武運を」


 先頭をお師匠様とエース、後方を理事長とエリちゃん先生にして私達は安全地帯へと向かった。

 安全地帯はトラップの心配も無く、結界を張ったり、土魔法で壁を作ると魔獣の迎撃もしやすい。

 土魔法のエキスパートが二人もいるんだから、そこら辺の要塞より堅牢よね。


 お師匠様特製の魔力と体力回復のポーションを渡しておく。

 効果は保証するけど、味は絶望的だから覚悟して欲しいと伝えるとニールさんが苦い顔をした。

 学生時代にお師匠様の実験台にされた記憶トラウマが蘇ったらしい。

 心配しないでください。その後も私を対象に変えてパワーアップしてますから。


「では、先へ進むぞ」


 残ったメンバーは私とお師匠様、アリアとエース、理事長とエリちゃん先生。

 そしてエカテリーナ。


 ここまで来ると私とアリアの戦闘禁止も解除される。

 さて、残り二層の攻略を張り切るわよ!


「【ママ。そっち危ないよ】」

「あれ?こちらではない?」

「本当にこの子が闇の巫女なんて大そうな役割持ってるのかねぇ」

「……すいませんエリザベス先生」


 お師匠様がエリちゃん先生に頭を下げた。

 な、なんかごめんなさい。
























「……エリス姉。シルヴィア達は?」

「もう先に行ったわよ。今頃は九層に辿り着いた頃でしょうね」

「そうか…」

「ごめんなさいね。でも、あのままジャックが無理してたらどこかで大怪我したかもしれないから」

「いいや、オレも自分の限界は分かっていたさ。ただ弱音を言って足を止めたくなかった」

「強がりね」

「オレは負けず嫌いなんだ。……なぁ、どうしてエリス姉はいつもこんなオレを心配してくれるんだ?」

「それはね。ーーーーわたくしがジャックを好きだからよ」

「オレもエリス姉が好きだよ。エースだってクラブだって好きだ。あぁ、オレはみんなから好かれて幸せ者だな」

「そうね。だから今はしっかり休みましょうね」







「キャロ、あれって……」

「余計なことを言ったら義兄様を埋めますから」

「い、妹が辛辣!!」

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