03 迷宮探索・前編ですわ!

 

 全員集合して向かったのは、魔法学園にある広い牧場だった。

 私が理事長と最初に出会ったのもこの辺りだったわね。


「迷宮は大地を流れる地脈の真上にある。特にここら一帯は学園内でも随一の魔力スポットじゃ。だから草木が生い茂り、畜産に向いとるんじゃよ」

「懐かしいさね。アタシが若い頃はここいらは訓練場でね。迷宮が封鎖されてから今みたいにになったのさ」


 理事長とエリちゃん先生による解説を聞きながら牧場の奥、木々の生えた人も動物も寄り付かなそうな場所へと進む。

 するとどこからともなく濃い霧が漂い始めた。

 なんだか見覚えのある光景だ。


「これは魔樹だわ」

「正解じゃ。普段はこのように魔樹が霧を出して人を近づけぬ。それに儂のかけた魔法もあって誰も入れないようにしてある」


 理事長が杖を出して魔力を放つと、霧が晴れていく。

 結界を解除したのだろう。

 するとその先に大きな門が現れた。

 魔法学園に入って来る時に通る城門と似たようなサイズだ。

 違いがあるとすれば、城門に比べて何倍も厳重なロックが魔法によってされている所ね。


「さて、それでは準備はいいかの?」

「先程話した作戦で行く。各々注意するように」


 お師匠様が警告を促すと、理事長が門にかかっていた魔法を解除する。

 そして、ゆっくりと迷宮の門が、


「グルァ!!」


 扉が開ききる前に犬型の魔獣が飛び出して来た。

 いきなりの事で私やお師匠様の反応が遅れる。


「おらっ!」


 誰よりも先に前へと進んだのはジャックだった。

 抜刀済みの剣が跳躍して来た魔獣を一刀両断する。倒れた魔獣はピクリとも動かなくなって生命活動を停止した。


「ふぅ。魔獣が活発化しているのは本当のようだな」

「やるじゃないジャック!」


 私は剣についた血を払うジャックの背中を叩く。


「オレ様はこれくらいしか取り柄がないからな。切り込み隊長くらい任せろ」

「部下より先に行くのはヒヤヒヤしますから気をつけてくださいよジャック様」


 完全に出遅れたクラブが額の汗を拭う。

 王子のくせに勇ましいというか、猪突猛進というか。


「ジャックはもうちょっと考えて行動した方がいいわね」

「……お前にだけは言われたくないんだが」


 えぇっ!?

 周囲も賛同するように頷いていた。


「まさか私が考えなしの突撃馬鹿だとでも言いたいの!?」

「自覚あるんだな」

「そこは否定しなさいよ」


 軽口を言い合って門へと向き直る。

 そこにはさっきと同じような魔獣達が餌はまだかと待ち構えていた。


「これは予想以上じゃな」

「討ち漏らして逃したら学園内がパニックになるだろう。総員、心してかかれ!」


 お師匠様の号令で私達は魔法を放つ。

 火や風や水や土が次々と飛び交う光景は中々お目にかかれない。


「ガゥ!?」

「グギャア!?」


 出鼻を挫かれて魔法の嵐に晒される魔獣達。

 包囲網を突破しようとしても、キャロレインとニールさんが用意した土の壁が邪魔で逃げ場が無い。

 私達の退路も絶たれた形だけど、こちらは逃げるつもりが無いから問題無いわ。


「出てくる場所が一ヶ所だけだと狙いやすいですね」

「お姉様は魔力を温存してくださいね」

「わかっているわよ」


 エカテリーナの手を掴んでアリアと一緒に少し後ろへ下がる。

 目の前の光景は凄まじいけど、一方的な蹂躙ね。

 数分もしないうちにファーストバトルは終了した。


「死屍累々。よくもまぁ、これだけの魔獣がいたわね」

「こんなのが学園に溢れていたらと思うとゾッとしますの」


 怖い怖いと、自分の肩を抱きながらまだ息のある魔獣の頭を石礫で潰すキャロレイン。

 かわいい見た目してやる戦法がエゲツないわよ。

 どうしてこう、私の周りにいる女の子って物騒なのが多いのかしらね?

 戦えないソフィアが一番女の子らしいわよ。

 後は実家にいるリーフとか。あの子も大きくなったら私達みたいにならないでしょうね?


「じゃあ、オレっちとクラブはここに残るじゃん」

「姉さん、皆さん。ご武運を」


 迷宮の中へは入らずに入り口付近でシンドバットとクラブは待機する。

 これは私達が迷宮内にいる間に魔獣が逃げださないようにする役割だ。

 水神の羽衣を着たシンドバットの水魔法は津波くらい起こせそうで、迷宮内での戦闘には不向きだ。

 クラブはそのサポートと、召喚獣が鳥のなので問題が発生した場合に牧場の外で待機している職員達との連絡係だ。

 この二人がいるなら迷宮の外は安心ね。


「では、迷宮へ踏み入るぞ」


 門を潜って中へ入る。

 長年使われていない場所なので、光源がなく、持ち込んだ魔法具で内部を照らす。

 事前に用意してある魔力で動くタイプの懐中電灯みたいなもので、マイトさんが特別に用意してくれた。

 これがないと常に誰かが魔法を使い続けて魔力を消費するからね。


「第一層はだだっ広い場所さね。本番は二層からさ」

「エリちゃん先生は昔に来たことあるんですよね?」

「そうだよ。ただ、迷宮ってのは厄介でね。入る度に少しずつ中身が変化する。まるで生き物みたいさね。それが何十年も経てばアタシの覚えている中身とは別物だよ」


 隊列を組んで、奥へと進む。

 私やアリアは列の中央で、前後から狙われてにくくしてある。

 一番危険なのは最前のジャックとエリスさんだけど、そこに理事長がいるなら怖くはないわね。

 エリちゃん先生の説明通り、入り口のある第一層は魔獣達の死骸ばかりでこれ以上は特に何もなく階段を降りた。


「迷宮には魔獣だけではなく、魔法植物やトラップまである。十分に警戒しなさい」


 第二層に辿り着くと、お師匠様が迷宮について再確認してくれる。

 冒険といえば迷宮探索と知っている私からすると、実はワクワクするのよね。

 例えば、こうやって壁を触りながら進んで行くと、妙な出っ張りがある。それにうっかり触ると、



 カチャリ。



 ゴロゴロゴロゴロゴローーーッ!



「このように大岩が転がる仕組みってわけよ」

「お姉様!?」


 天井から落ちて来た通路ギリギリサイズの大きな岩が転がってくる。

 うん、アクション映画でよく見るタイプの古典的な罠ね。シンプルだけど質量があるから危ないやつ。


「ったく、何してくれてますの」


 キャロレインが杖を振る。

 すると地面から突き出した何本もの石柱が大岩をピタリと止めた。

 ついでに帰り道確保のために魔法で岩を砕いた。


「迂闊な行動は慎んで欲しいですの」

「いやぁ、ごめんね。ついうっかり」


 頭を掻きながら私は一歩前へ進む。



 カチッ。



 どうしてか私の足元が少し沈んだんだけど。



 ヒューン!!



「お姉様ぁ!?」

「これも私のせいですか!?」


 お次は通路の奥から矢が飛んできた。

 先頭のエリスさんが障壁を張り、ジャックが剣で撃ち落とす。残りの矢は理事長の風魔法であっけなく無力化された。


「ねぇ、シルヴィアさん」

「……はい」

「大人しくしていてくださいね?」

「イェス」


 私にニッコリと笑いかけてくるエリスさん。

 ちょっと目が笑っていないのと、ゴゴゴ!っていうオーラが見えたので私はこくこくと頷いた。


「先頭ならまだしも、真ん中にいて罠にかかるって中々だよシルヴィア」

「笑い事じゃありませんよエース様。お姉様は前にも図書館の地下で、」

「時計台の隠し部屋の時も、」


 アリアとお師匠様が私の過去の失敗を話す。

 それを聞いていたニールさんが笑いを我慢できずにキャロレインから足を踏みつけられた。


「よくそれで生きてたさね」

「お姉様は悪運だけは強いんですよ」

「それは言えてますの」


 うぅ……。みんなの私を見る目が冷たい。

 私はただ興味があるものを触ったりしているだけなのに。

 例えばここに不自然に落ちている骸骨とか。



 ガチャ。



「……こういうトラップも定番よね」

「シルヴィア!!」


 先頭にいたジャックから怒号が飛んだ。

 どうやら天井から水が落ちて来て濡れてしまったようだ。

 致死性の高いものじゃなくてコントみたいなしかけもあるみたいね。


「エカテリーナ。シルヴィアの手をしっかり掴んでおきなさい」

「【ママ。離したらダメだよ?】」


 心配そうな顔で強く私の手を握るエカテリーナ。

 これじゃあまるで、私がこの子に手をひいてもらっている形になる。


「こっちの手はわたしが掴みますね」

「アリアまで……」


 私の両手が塞がってしまった。

 これじゃあ、魔法が使えないじゃないですか!と抗議をしたらお師匠様から、


「私が守るから使う必要が無い」


 と言われてしまったので、大人しくしておきますね。






 こうして、身内に潜んでいた一番のトラップを封じた状態で私達は迷宮の更に下層へと進むのだった。







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