第五十四話 事後処理ですわ!

 

 私の誘拐事件からの蘇ったJOKERとの決戦。更には闇と光の神が降臨したという怒涛の一日は終わった。

 一番大変だったのはそれらの事件の報告書の作成だった。


 毎日毎日、日替わりでお偉いさんがやって来て取り調べをするのだ。

 何か変わった所は無いか、実は闇の神に操られているのではないか?なんていうのはまだ優しい方で、中には私が第二のJOKERとして世界を滅ぼすつもりだ!とか言って襲おうとする人もいた。

 まぁ、私が手を出す前に取り調べに参加していたジャックとエースが止めてくれたけど、そんなに私って恐ろしそうに見える?


 普段なら魔法学園の外からの干渉を嫌うマグノリア理事長も、今回はお手上げでされるがまま。

 まさかベヨネッタ達への対策として用意していた迷宮探索なのに使う前に捕まえるなんて想定していなかったみたい。


 それから後は、クラブとソフィアから超怒られた。

 マチョが戦っている間にどこかへ駆け込むか、学園内にいる青い鳥に緊急の伝言を入れれば大人数が動けたって。


『そもそも魔法が使えない状態でよくアジトを暴いてやろうなんて思いついたね、姉さんは頭の中に脳味噌詰まってるの?』


 愛する弟にそんな事を言われて落ち込んだし、ソフィアに至っては私を説教しながら途中で泣き出した。


『お嬢様に何かあれば私は旦那様と奥様に合わせる顔がありません。今回は運良く助かりましたが、もしもお嬢様が死んだりしていたら……』


 二人が言っている事は正しいし、ぐぅの音も出ない私はただただ反省するのみだった。

 お師匠様の元にはエースとクラブ、エリスさんが詰め寄ってどうして自分達にも声をかけなかったのかと抗議していた。

 急いでいたとはいえ、伝言でもあればすぐに駆け付けたのにと言われてお師匠様も少し凹んでいた。


 そして今、


「馬鹿じゃありませんの!?」

「耳に響くから大きな声出さないでよ……」

「わたくしを助けるためにあんな無茶しておいて、死にかけて、今度は闇の神を召喚!?JOKERとの対決!?命がいくつあっても足りませんの」


 お師匠様のお屋敷の中にある私の部屋。

 ここから通うようになって用意された自室になる。

 来客用テーブルも無く、ベッドの端に腰掛ける私をご立腹なキャロレインが見下ろしていた。

 普段なら身長差があって私より低いキャロレインがとても大きく見えちゃう。


「ですが、本当に無事でよかったですの……」


 安堵した様子で、ちょっとだけ湿っぽく言うキャロレイン。

 いつの間にかこの子からの信頼度が高くなっているけど、私そんなフラグいつ立てた?


「今後はどうするつもりですの?」

「なんかね、迷宮の奥に行かなきゃいけないの。ただ、長年放置したせいで魔獣がわらわら湧いてるらしいのよ」


 お師匠様の学生時代よりずっと昔。

 まだ他国とピリピリしている時代にずっと利用されていた迷宮での戦闘訓練。中には罠があったり、魔獣が生息していたりとかなり危険な場所だ。

 そんな場所だから怪我人が続出して、いつしか危険区域として封鎖されてしまった。

 マグノリア理事長はそんな場所を再び利用しようと解禁し、何人かの生徒を送り込んだけど返り討ちにあったそう。


「そんな場所の最奥が神様に繋がる神殿だなんてね」

「そういう場所だからこそ防衛装置のようなものとして魔獣が多いのでは?」


 何十年分も使われなかった迷宮内は、正直言って攻略不可能な場所だと判断されている。

 理事長ですら手を焼くとか言われる迷宮に潜らないといけないとか冗談じゃない。


「それでね、今日キャロレインを呼んだ理由は、」

「迷宮探索へ加われというのですわね?」

「その通りよ」


 光の神からオススメされたとなれば行かないわけにはいかない。

 でも、迷宮へ行くのに余計な犠牲者を出したくないから選抜メンバーで魔獣を倒しながら攻略してね?という運びになった。


 私が知っている隠しアイテムの最後の場所でもある迷宮。

 そこにはこちらの最高戦力を掻き集めて挑む事になる。

 魔法学園で教師並みかそれ以上に実力が高く、なおかつ私やお師匠様とチームワークが取れる人物となるといつものゲームキャラ達になった。

 それだけでは不十分な可能性も考慮し、こうしてキャロレインを誘っている。


「一年生とはいえ、その辺にいる先生より強いし、実力は折り紙付きだもの」

「悪い気はしませんの。……それに、前から一度アナタと一緒に戦いたかったですし」


 後半、声が尻すぼみになっていった。

 ただ、悪い気はしないって事はオッケーってことよね。


「他にはどなたが参加しますの?」

「私とお師匠様、アリアとクラブとエースとジャックとエリスさんとそれから理事長」

「都市を一つくらい攻め落とせそうな布陣ですの」


 正直、戦力過多な気はする。

 ゲーム時代に迷宮を攻略する時はここまでフルメンバーじゃ無かった。

 ここにキャロレインが加わって、理事長が助っ人を他所に頼んでいるからまだ人は増える予定。


 でも、これだけのそうそうたる面々を揃えないと攻略出来ないくらいに迷宮には敵がうじゃうじゃしているらしい。

 光の神もそんな場所を指定するなんて意地悪じゃない?


「エカテリーナもとい、闇の神も一緒なんだけど力を使うのは禁止されているのよね」

「どうしてですの?」


 光の神から言われた事。

 私は闇の神と深く関わり過ぎた。いずれその身を破滅させてJOKERのようになるだろう……。

 未だに体には不調が無いが、お師匠様は私が神の力を使用するのをあまり好んではいない。

 この力がどんな反動や副作用を及ぼすかは調査中なので命の危険がある時以外での使用は厳禁になった。


「ーーーって理由があってね」

「それは当然ですわね。水中神殿で見た時もあれだけおぞましかったからですの」


 理由を説明するとキャロレインは、うんうんと頷いた。

 そんなに怖いかなぁ?

 見た目は確かに怖そうだけどそれだけで判断するのはどうかと思うよ。悪役顔の私はそう言いたい。


「迷宮探索の件ですが、定員はまだ決まっていないんですのよね?突入する日付は?」

「あまり大人数だと統率が取れないからあと数人って所よ。作戦開始予定は今日から一週間後ね」


 本来なら早ければ早いほど良かったのだが、そこは私の体調と相談になった。

 特にあの日の戦いで不調になったり、背中に刻まれた刻印の跡が痛むとかではない。

 むしろその逆。


 ついに私の魔力が元に戻りつつあるのだ。

 刻印魔法を受けて、闇の神を召喚して、光の神から癒しの光を受けてやっと回復した。

 荒療治にもほどがあるでしょ!と思ったけど結果オーライだからそこまで怒れない。

 完治するまでどれだけかかるか分からないのがもうじき治るのだ。


 これでもうお荷物になんかならないわよ?


「迷宮探索に役立ちそうな人物がいるので声をかけてみますの」

「いいけど、キャロレインくらい強くないと危ないわよ?」

「その点はご心配なく。殺しても死なないくらいには強いお方ですので」


 この子がそこまで信頼しているなら大丈夫か。


「【ママ〜】」


 二人で話していると廊下からトテトテと走る音がして部屋の扉が勢いよく開く。


「家の中でも廊下は走らないって教えたわよねエカテリーナ」

「【ごめんなさい。でも、見て見て!】」


 怒られてしょんぼりしたエカテリーナは手に持っていたものを私に見せつけた。


「紙飛行機?」

「【すっごい飛んだ】」


 私が取り調べやらを受けている間にエカテリーナが暇そうだったので折り紙飛行機を教えたのだけど、どうやら自慢したくなるくらいよく飛ぶのが作れたようだ。


「……はぁ。この子が闇の神だなんて信じられませんの」

「だよね。体が縮んで元のエカテリーナに戻ってからはいつもの調子に戻ったし」


 闇の神としての意識は眠っているのか、普通の子どものように元気に過ごしている。

 ただ、魔力が戻ったからどうなるかはまだ分からない。


 もしも、迷宮の奥に行ったらエカテリーナはどうなるのか?


 その事を考えると、少し胸が苦しくなる。


「【キャロも一緒に遊ぼ!】」

「残念ですが今から魔法の鍛練があるのでお断りですの。第一、この年にもなってそんな幼稚な遊びなんてしませんの」

「【………ダメ?】」


 小さいキャロレインより更に小さいエカテリーナの上目遣いお願い攻撃。


「くっ。仕方ありませんわね」

「【やったー】」


 子ども特有のかわいさに負けたキャロレインは渋々と紙飛行機飛ばしに参加するのだった。



 なお、数年ぶりに私も紙飛行機を作って投げたら予想以上に快調に飛んでしまってエカテリーナが泣いた。

 キャロレインに大人気ないと呆れられてしまうのだった。



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