第五十話 アリアVSベヨネッタ
アリアの召喚獣である一本角の白馬ユニコーン。
その背に二人乗りをして私はお師匠様の元へと走る。
アリアに無理を言ってこうして連れて行ってもらっているが、私は戦力的に当てにならないし、気分だって最悪だ。
上半身は裸だったからアリアのローブをパレオみたいに巻きつけて着ている。
背中の傷は痛む。出血は治っているが、熱が背中を這いずり回るような気持ち悪い感覚がある。
「もう一度確認ですけど、お姉様はこの子から離れないでくださいね」
「わかってるわよ」
エカテリーナがいない以上、私の身を守る武器は無いからアリアの言うことを聞く。
足手纏いにしかならないけど、きっと私に何か出来る事があるはずだ。
そう私の直感が語っている。
「もうすぐ着くわね。それじゃあ、作戦通りに行くわよ」
徐々に爆発音が大きくなっていく。
これだけ派手な音がするならお師匠様はまだ無事そうだし、敵の注意も全部そちらへ向かっているだろう。
流石に逃げたはずの相手がこっそり戻ってくるなんて思いもしない。
そこを私達は突く。
「くっ……」
「流石なのデス。我が召喚獣を前にしてここまで持つとは」
直接目視出来る距離。
お師匠様は確かに生きているけど、服が所々破けているし、頭を打ったのか額から血を流していた。
その姿にかつてのトムリドルとの戦いがフラッシュバックするけど、今回はお師匠様を死の淵に立たせたりなんかしないわ!
「アリア!!」
「はいっ!」
召喚獣の主であるアリアに合図を出す。
彼女がユニコーンの腹を足で蹴ると、白い聖獣は力強く大地を駆ける。
一瞬でトップスピードになったユニコーンは私達を乗せたまま風のような速さで戦場に突撃した。
「ヒヒーン!」
「「「ぶべらっ!?」」」
そのまま形勢が有利で油断していたチンピラ連中を跳ね飛ばす。
日本でいう所の自動車に轢かれるくらいの衝撃にチンピラ三人組は森の奥の方へと飛んで行き、動かなくなった。
「お姉様。あれ、生きてますよね?」
「まぁ、刻印のおかげでタフになってるし、大丈夫じゃない?多分……」
「お姉様!?」
おめでとうアリア。キルスコアが増えたわよ。
なんて冗談は置いといて、これで敵の数よりこちらの数が多くなった。
私が戦力外だから実質的には同数だけどね。
「シルヴィア!?何故戻ってきた!!」
「ほほぅ。これは捜す手間が省けたのデス」
予想通りというか、お師匠様の怒号が飛ぶ。
JOKERは驚いた顔をしたけど、気持ち悪い笑みを浮かべた。
「ーーーギチギチギチギチ」
「何あれ。キモっ」
戦場には見た事無いような巨大な蜘蛛がいた。
色も黒と紫色で毒々しいし、髑髏っぽい模様が腹にある。
いかにも悪い奴が使役してそうな召喚獣だ。
私が言えた義理じゃないけどね。
「馬鹿者!何をしに来た。アリア君もシルヴィアを安全な場所へ運ぶんじゃなかったのか!?」
「マーリン先生。わたしはお姉様が居た方が勝機があると思って引き返して来ました。それにお姉様にはユニコーンを付けて後ろで待機してもらいます」
「お師匠様。後からお説教はいくらでも聞きますから、まずは目の前の敵からです。あと二人ですよ!」
アリアが一角獣の背から降りると、私を乗せた白馬は少し退がった。
何かあればいつでも走って逃げる体勢だ。
「おやおや。随分と軽く見られているようデスね。そちらは魔力が切れかけの半魔に未熟な光の巫女。こちらは伝説の闇魔法使いと、」
「わたくしがいるというのに勝った気になるなんておこがましいわ!」
JOKERとベヨネッタの体から黒いモヤが溢れ出る。
一方でお師匠様は肩で息をするくらいに消耗していた。
「何言ってるのよ。大人数で取り囲んだくせにたった一人に苦戦してるじゃない!」
「なんですって!?」
ベヨネッタの顔が怒りで真っ赤になり、プルプル震える。
人の事を笑えないけど、この女も煽り耐性ゼロよね。簡単に冷静さを欠いてくれる。
私に杖を向けて火球を連射するベヨネッタ。
だが、その全てをアリアの光球が撃ち落とす。
一度も標的を外す事なく相殺するなんてアリアもやるわね。
これで魔法を習い始めて2年目なんて末恐ろしいったらありゃしない。
ゲームでのアリアって、光の巫女の力を最大限に活かすために後方支援に徹していて、攻略キャラ達に守られていたんだけど、そんな影が微塵も見えない勇ましさだ。
一体、どうして彼女はここまで強くなったのやら。
「では、私も早くマーリンを殺すとするのデス」
「ふぅ。この場で死んでもいいと腹を括ったのだがな、どうもそういう訳にもいかなくなったようだ」
当たり前ですよ!何弱気な事言ってるんですか。
案の定、自分の命を軽く見ていたお師匠様。
だけど、私とアリアを見て額から流れる血を拭い、真っ直ぐにJOKERを睨みつける。
「土の精よ、我が守りに堅牢なる盾を」
今、この世でお師匠様だけに許された魔法の同時行使。
大蜘蛛の突進はせり上がった土の壁によって阻まれ、杖の先からは風の刃がJOKERへと放たれた。
相手も負けじと闇魔法を繰り出す。一撃の威力はあちらが上のようで、風魔法は霧散するが、そのおかげで攻撃が逸れた。
「まだまだデス!」
複数の属性を持っていたトムリドルと違い、JOKERはさっきからずっと闇魔法を使っている。
魂が乗り移っているとはいえ、魔法の属性までは引き継がれないのか。だとしても闇魔法については私が今まで見てきた誰よりも強い。
エリスさんのカリスハート家は闇魔法使いがいても、あくまで補助技に使用し、普段は水の魔法を主に使用している。
ジェリコ・ヴラドも風と闇を交互に切り換えて応戦していた。
その点から見ると、こいつはクラブに近い戦い方をしている。
「ーーーギチギチギチギチ」
「お姉様!」
激しい二組の魔法合戦に目を奪われていると、大蜘蛛がこちらに狙いを変えてきた。
巨大な大顎で私を喰らおうとする。
「ヒヒーン!」
当然、そんな事を簡単にはさせない。
ユニコーンは素早く方向転換すると、大蜘蛛の顔面に後ろ蹴りをお見舞いした。
人間なんて簡単に蹴り殺せる一撃は大蜘蛛を大きくのけ反らせた。
「ナイスよ。貴方もそこそこやるわね」
「ヒヒーン…」
背中に乗ってるだけのくせに偉そうに言うんじゃねーよ、って言いたげな目をされた。
前からちょくちょく思っていたけど、この召喚獣ってご主人様と違って私に反抗的なのよね。
今も渋々命令されたからお守りをしてやってんだ、って感じだし。
「平民の分際で!!」
「今のあなたは犯罪者です!」
アリアとベヨネッタの攻防は互角だった。
光の巫女でゲーム主人公のアリアを相手に粘るベヨネッタが凄いのか、平民で魔法の稽古を2年しかしていないのに刻印魔法で強化された生粋の魔法使いと渡り合うアリアが凄いのか。
「どいつもこいつもわたくしの邪魔ばかり!お前達さえいなければわたくしは今頃この国の女王になれたはずなのに!!」
憎しみが、憎悪が闇の力を増幅させる。
持ち主の生命力を魔力に変換し、命を削りながら攻撃に変える。それが刻印魔法の能力の一つ。
「そんな事ありません!あなたみたいな人は王子達から選ばれない」
「平民のくせに知ったような口を」
「知ってるから言ってるんです。ジャック様はちょっと抜けているけど、それを支えてくれるしっかりした人達に囲まれてます」
火と光が。
風と光が。
闇と光が。
ベヨネッタの攻撃はアリアによって無効化される。
何度も何度も何度も。
その攻撃はアリアには届かない。
「エース様は……腹黒いし、何を考えているのかよく分からない不気味な人です。見た目が良くても中身が伴っていないとただの変人にしか思えません」
ボロックソに言われるエース。
何が彼女をそこまで苛立たせたのかしら?
「今もわたしをいいように利用して。確かにお互いにメリットはありますし、将来的な身分を考えるとそっちの方が都合がいいかもしれないですよ。えぇ、確かに」
急にベヨネッタを相手にしながら愚痴を漏らし出したアリア。
鬱憤をぶつけるかのように光の輝きは増していく。
「だからといって、もうちょっとロマンスがあっても良いんじゃないですか!?わたしだって年頃の女の子なんですよ。そういうのに憧れるじゃないですか。なのにあの人ったら身も蓋もない話ばかりポロポロと。そんなに国家機密を話されたら逃げようが無いじゃないですか!お貴族様の事情なんか知りたく無かったですよ!!」
かなり不満が溜まっていたのか、とうとう逆ギレしだしたアリア。
ベヨネッタは涙目になりながら圧倒されている。
「わたしだって、お姉様みたいな見てる方が恥ずかしくなるような甘い恋がしたいんじゃい!!」
「ちょ、それどういう意味!?」
見てる方が恥ずかしいって言った!?
私とお師匠様って周囲からそんな風に思われているの?
いたって普通のカップルだと自分では思っていたんだけど……。
だってゲームとか漫画だとこれくらい普通じゃん。私は日本にいた頃はオタクだったから分かるのよ。
それが見るだけで恥ずかしいとかそんな訳……。
「だからなんなのよ。わたくしは、わたくしは!!」
「自分の事ばっかり気にして他人を思いやったり愛したり出来ない人は王子達には相応しくありません。あの人はこの国を、未来を本気で想っているんです。それを脅かそうとする人なんてーーー」
怒りが頂点に達して、喚きながら魔法をグミ撃ちするベヨネッタ。
狙いの定まっていない早いだけの攻撃なんてアリアの魔法障壁を打ち破れはしない。
それを理解しているアリアは自分の杖を両手で持ち、祈りを捧げるように空へ突き上げる。
「わたしは許しません!!!!」
魔力を全力で込めた魔法がベヨネッタへ向けられる。
振り下ろされた杖の先から光の巨大な光弾が発射された。
光弾はベヨネッタの魔法を掻き消しながら直進し、彼女諸共包み込んで爆発した。
「このわたくしが平民なんかにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいーーーっ!?」
今までで一番の断末魔を上げたベヨネッタはそのまま爆心地のクレーターの中で、白目を剥いて地面に崩れ落ちた。
死なずに生きているのは刻印魔法のおかげか、それともしぶとさだけはキャロレインよりも強かったのか、私には分からない。
「わたしの勝ちです。………お姉様!今のカッコ良くないですか!?」
そういう所だぞアリア。
こっちに向かってサムズアップさえしなければゲームのスチル絵みたいにキマっていたのに。
あと、どさくさに紛れて抱きつくな!服の下に手を入れようとすな!下着つけてないんだからノーブラなのよ私は!!
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