第四十三話 誘拐される悪役令嬢ですわ!

 

「テメェがシルヴィア・クローバーで間違いないな」


 とても魔法学園にいそうな人種ではない事は見た目で分かった。

 ヤンキーな生徒もいるが、目の前にいる連中の年齢は学生とは思えないし、職員だとしたら雇用した人の琴線が狂ってる。

 イメージとして一番近いのはヤクザってところね。


「どなたですかな」


 雰囲気からして危ない連中だと気付いたのか、マチョが私とエカテリーナを庇うように前に立つ。


「男に用はねぇんだよ」

「すっこんでろタコ!」


 手下その一とその二が怒鳴るけどマチョは怯まない。

 武術家の息子だからその手の威圧には慣れているのだろうけど、私は別の意味で怯んでいた。


 あの三人の顔にある刺青。

 見間違いでなければ、水中神殿でキャロレインの顔にあったのと同じだ。


「そういうわけにはいきません」

「ーーーマチョ!逃げて!!」


 嫌な予感は当たった。

 一番体の大きな男がマチョを殴りかかる。

 それを受け止めようとしたのだが、相手の身体強化の魔法が強く、マチョは殴り飛ばされてしまった。


「くっ。なんですかこの力は!?」


 チンピラの一人や二人は余裕で倒せるマチョ。

 ダンスパーティーの時もジャックやクラブと一緒にトムリドルの手下達を相手に大立ち回りした。

 そんな彼だけど、魔法の実力は下の下。火属性だけど火球を数発しか撃てないくらいに魔力量も少ない。

 試験も身体強化と持ち前の武術でクリアしてきた。


「へへっ。大したことねぇな」


 相手との魔力量が違い過ぎる。

 魔法障壁を展開しきれないマチョでは魔力によるゴリ押しの攻撃を防ぎきれない。

 今だって、マチョだから吹き飛ばされるだけで済んだけど、一般人が受けたら死んでた。


「アニキ。俺らに任せてくれぇ」

「馬鹿野郎。さっさと仕事をしねぇとあの煩い女に焼き入れられっぞ」


 煩い女。闇魔法による刻印の刺青。

 私の推測が正しければ、こいつらの雇い主はあの女だ。


「マチョ。ここは大人しくして。私の方からアイツらに用があるわ」

「そういうわけにはいきませんな。我々はシルヴィア教官をお守りすると誓っています」


 立ち上がり、拳を握って構えるマチョ。


「このマチョ。シルヴィア教官の生きた盾と知れぇ!NO.11は伊達じゃない!!」


 何の事だか理解出来ないけど、彼は啖呵を切って相手に向かって行く。


「「「雑魚が」」」


 とはいえ、敵三人は闇魔法でブーストされているようだ。

 キャロレインの時は洗脳だけかと思ったけど、刺青の連中から感じる魔力量はAクラスの生徒並み。

 大人たちの中でも一流と呼ばれる実力がある。そんなのが三人も立ちはだかる。


「く、くそっ……」


 いくら武術の経験があるとはいえ、格上の魔法使い相手では不利。

 敵もマチョが魔法をあまり使えない事に気づくと、距離を取って魔法攻撃だけに絞ってきた。

 当然、魔法攻撃への防御力が弱いマチョはボロボロになって地面に倒れ込んでしまった。

 白目を剥いて意識は失ってしまったようだけど、致命傷を受けていないのは日頃の鍛練の成果か。

 とはいえ、完全敗北してしまう。


「さーて、大人しくしてもらうぜ女」

「わかったわよ。その代わり、マチョは放っておきなさいよね」

「こっちも急ぎなんでな。テメェ以外に構ってられるかよ。ただ、目撃者のそのガキも一緒に連れて行くぜ」


 アニキと呼ばれた大男は私の足にしがみつくエカテリーナを指差した。


『【ママ。戦う?】』

「いいえ。ここは大人しく従うわよ」


 エカテリーナが好戦的な様子で聞いてきたので、止めるように指示する。

 これは好都合な展開になったわね。

 私が戦えなくてもエカテリーナの力を使えばこんな連中を倒すのは簡単だろう。

 だけど、折角見つけた手がかりだ。

 ジェリコ・ヴラドの遺品を調べたりしても見つからなかったあちらさんから来てくれるなんてありがたいわね。


「へへっ。逃さねぇぜ」

「おうよ」


 懐から取り出したロープで私とエカテリーナはきつく縛られて、目隠しをされた。

 これでは逃げる事も出来ない。


「依頼人からはテメェが何をするか分からないから注意しろって言われてなぁ。ちっと我慢しやがれ」

「うっ!?」

『【ママ!】』


 大男の拳がみぞおちにクリーンヒットして、強烈な痛みと共に私は意識を失うのだった。























 シルヴィアが連れ去れて数時間後。


「マーリン先生!!」


 校舎内にある理事達に割り当てられた部屋。

 その部屋の扉を勢いよく開けて入って来たのは桃色の髪の少女だった。


「お姉様が誘拐されたって本当ですか!?」

「あぁ、事実だ。ついさっき保健室へ運び込まれたマチョ君から事情は聞いた」


 シルヴィアと武術の稽古中に魔法学園の者ではないゴロツキが来てシルヴィアを拐ったという。


「彼が言うには男達は皆、顔に黒い刺青があってとてつもない強さを持っていたそうだ」

「それって、」

「キャロレインやジェリコ・ヴラドと同じ力だ。アリア君、君の持つ光の巫女の力を貸して欲しい」

「勿論です」


 即答だった。

 アリアという少女は何よりもシルヴィアの身の安全を優先する子だった。

 だからマーリンも声をかけたのだった。


「それでお姉様は今どこに?場所が分からないと助けに行けませんよ」

「そちらは心配いらない。あの馬鹿弟子も今回は約束を守っているようだ」


 マーリンは己の左手の薬指を見る。

 そこに嵌められていた指輪が淡く光っていた。


「申し訳ないがシルヴィアを早く助けるために少人数で、私とアリア君だけで動く」

「他の皆さんは、」

「理事長には言伝を頼んだ。我々が数日内に戻らなければ後は任せたと」


 そう言ってマーリンは理事の証でもあるローブを脱ぎ捨て、旅する時に使っていた戦闘用の装備を整える。

 アリアにもいくつか魔道具を持たせると、彼女を抱き抱えて、部屋の窓際に立つ。


「少し酔うだろうが我慢してくれ」

「お姉様の命がかかってます。何でもオッケーですよ」


 その言葉に頷き、マーリンは

 魔法で作られた翼を広げて飛ぶ姿は、物語に出てくるような妖精のようであった。




 愛する者を救うため、【どきどきメモリアル!選ばれしアナタとイケメンハーレム】の本来の師弟ペアが動き出すのだった。







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