第三十五話 お勤めご苦労様ですわ!
「いや〜、シルヴィアちゃんおひさ!」
「久しぶりねシンドバット」
お師匠様にベッドに連れ込まれて二日(未遂だから。襲われたけどお父様との約束は守ったから!)が経った。
学生寮に置いていた荷物を屋敷に持ち運ぶ途中、シンドバットとモルジャーナさんに偶然会った。
「やっと解放されたんですって?」
「そうなんだよ。取調室?留置所?みたいな所に閉じ込められて毎日同じ事を聞かれて嫌になっちゃったぜ」
彼らシンドリアンからやって来た留学生は水中神殿での一件やジェリコとの関係を疑われて魔法学園の職員で結成された治安維持部隊に取り調べを受けていた。
誰かを殺したり傷つけたりはしていないけど、湖に細工をして生徒達を騒がせたり、無断で魔法学園内の強力な魔道具を持ち出そうとしたりしたので完全な無罪とはいえない。
「モルジャーナさんは主が捕まって暴れたりしなかった?」
「私をなんだと思っているのだ。閉じ込められていたとはいえ、軟禁状態に近かった。我々にも非があるから無駄に騒いでは本国に迷惑がかかる。それはシン様も望んでいない」
一応、他国の皇族と貴族という立場なので雑には扱われずに丁寧な対応を受けたそうだ。
「ただまぁ、今回の件は本国に連絡がいくんだよなぁ。姉貴に怒られるなぁ……」
怖い大人達に囲まれて尋問されるよりもお姉さんからのお叱りを怖がるなんて変わってるわね。
まぁ、私もお師匠様やお母様からの説教ほど怖いものはないんだけどね。
「そうだ。二人はこれからどうするの?お目当ての魔道具を見つけたら国に帰るの?」
私はそう言って二人を見た。
一番の目的は果たされたのだ。帰国してもおかしくないし、お姉さんの事を考えるならそうした方がいいだろう。
まだまだきな臭い話は魔法学園に残っている。
皇子ともなればこれ以上事件に巻き込まれる事は避けたいはずだから。
しかし、彼の口から出た言葉は私の予想と違った。
「いいや、このまま残るぜ。水神の羽衣についても研究を手伝うって約束してきたし。元々はウチの国の秘宝だから所有権で揉めているんだよ」
「じゃあ、まだしばらくいるの?」
「勿論。それにまだ学園でやりたい事が残っているしね〜」
「何よやりたい事って」
「花嫁探し」
ガックリと私はコケそうになった。
「それって秘宝を探す間の建前じゃなかったの?」
「全然違うよ。オレっち最初に全校生徒の前で言ったじゃん。あれ本気」
入学式の時に言っていたのは場を和ませるための冗談じゃなかったのね。
「そういえば手当たり次第にお見合いの招待状を送っているって……」
「そうだよ。気になった子には声かけて呼んでるんだぜ。シンドリアンは一夫多妻制だから困るよね〜。絞りきれなくて」
おい。私のお姉さん思いのいい子だって見直した気持ちを返しなさいよ。
やっぱりチャラ男じゃない!!
「すまんが、あの手紙には神殿の仕掛けを解除する為に魔力が多い者も対象に出しているのだ。決してシン様が軽薄な……いや軽薄だな」
「モルジャーナ!?フォローするなら最後まで頼むってば!」
「シン様。嘘はよくない」
「真面目なのも考えものだなぁおい!!」
シンドバットは辛辣なモルジャーナさんの言葉にツッコミを入れる。
腹心からもチャラ男って評価されているじゃない。
「ん?それなら私の所に招待状来ていなかったのはどういう意味よ。アリアやエリスさんには出して私を無視するなんて」
お師匠様という婚約者はいるけど、一人だけ仲間外れにされるとちょっと傷つくのが乙女心だ。
新入生のキャロレインの元にも届いていたみたいだし。
「んー、アレはなんつーかさ」
問い詰めると、途端に歯切れが悪くなるシンドバット。
私の顔をチラチラ見ながら話す。
「……シルヴィアちゃんには直接言いたかったから。だって一目惚れだったし」
「ふ、ふ〜ん」
照れ臭そうにそう言われたらこっちまで恥ずかしくなった。
学生寮で呼び出されて告白された事を思い出す。あの時は本気だって分かっていたけど、まさか私だけ特別扱いだとは思っていなかった。
「この話はおしまいね。今思うと中々恥ずかしいし、オレっちフラれてるし」
「そうしましょうか。こっちもなんだか調子狂うわ」
そう。私はこの海の向こうの国の皇子様から告白されて断ったのだ。
後の出来事のインパクトが大きくて忘れがちだけど王族系から三人目の告白って未だに信じられないわ。
自分に自信が無いわけじゃないのだけど、主人公であるアリアを差し置いて私がモテる理由を知りたい。
「それと本題が別にあるんだけどさ。……シルヴィアちゃん。迷惑かけてごめん!」
「私からもすまなかったと謝らせてくれ」
話を切り換えると、シンドリアンの二人が深く頭を下げた。
「心臓が止まって死にかけたって話を聞いたしさ」
「我々の責任だ。出来る事ならなんでもするつもりだ」
その声は真剣で、心から後悔しているようだった。
「顔を上げてよ。最終的に手伝うって言って付いて行ったのは私よ。謝る必要なんてないわ」
「シルヴィアちゃん……」
「ただ、なんでもしてくれるなら一つお願いしようかしら」
「あれ?この流れって水に流れるパターンじゃないの」
「流さないわよ。モルジャーナさんの言質取ったんだから」
貰えるものは貰っておく。
それは日本にいた頃からの私の信条だ。
「ーーーいつかさ、私にシンドリアンを案内してよ。海外って興味あるから」
「へっ。それくらいお安い御用だよ。どうせならマーリン先生とのハネムーンで来なよ。我がシンドリアン皇国はシルヴィア・クローバーを歓迎する」
笑顔でそう言ってシンドバットはお辞儀した。
これは約束だ。
学園からいなくなってもまた会えますようにっていう。
「ところでなのだが、シルヴィア・クローバー。制服のボタンを一番上まで留めていて暑くないのか?」
「「ちょっと黙っていようか!?」」
私とシンドバットはほぼ同時に堅物天然キャラのモルジャーナさんにツッコムのだった。
……というか、シンドバットは気づいていたのね。
魔法学園の理事長室にて。
「それで調査結果はどうなのじゃ?」
「芳しくありませんね。ジェリコ・ヴラドはご丁寧に情報を処分していたようです」
「その辺は徹底していた男じゃからな。……真の黒幕の尻尾は掴めずじまいか」
「とはいえ、全くの収穫が無いわけではありません」
「ほほぅ。収穫とは?」
「敵にベヨネッタ・シザースがいるのなら必ずまた姿を現すでしょう。彼女はシルヴィアを殺したい程に恨んでいる」
「またあの子は厄介事に巻き込まれるのぉ」
「えぇ。それが私の一番の悩みです」
「随分と手のかかる子を婚約者にしたものじゃな」
「手がかかるからこそ愛おしく思ったのかもしれません」
「あのマーリンとは思えない言葉じゃな」
「昔の話はしないでいただきたい。私も恥ずかしいのです」
「長生きしておると色々見てしまうからの。生徒の成長なんかは特にな」
「それで理事長。これからどうするおつもりで?」
「水神の羽衣といい神殿といい王家の聖剣といいここ最近は掘り出し物が多い。まだこの学園には何かが眠っておりそうな気がするのじゃ」
「確かにそうですね」
「じゃからいくつか怪しい場所の捜索と有事に対応出来るように生徒の質の向上をしたいと思っておる」
「それは……」
「かつて恒例だった行事をとり行うことにしよう。ーーー迷宮探索をな」
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